"大気拡散モデルを用いた濃度予測及びPRTRデータの検証−ベンゼンを例に−"
伏見 暁洋1, 梶原 秀夫2, 吉田 喜久雄3, 中西 準子3
1横浜国立大学
2新潟大学
3産業技術総合研究所環境科学会誌, Vol.15 No.1 pp.35-47 (2001)
概要
PRTR(環境汚染物質排出・移動登録)制度の実施に伴い化学物質の環境排出データ(以下「PRTRデータ」)が公開される。PRTRデータとシミュレーションモデルを用いた予測結果をリスク評価・管理のために利用するには,モデルの予測精度およびPRTRデータの検証が必要である。
ソースコードが公開された大気拡散モデルISCLT(Industrial Source Complex Long-Term Model)を用いて,正確な排出量が報告されている窒素酸化物(NOx)を対象に広域(川崎市,東京都)の濃度予測を行った。NOx濃度の予測値は実測値の83〜127%(平均102%)と両者は良く一致し,ISCLTを用いた本手法による広域濃度予測の精度が検証された。
本手法をPRTRパイロット事業によるベンゼンの排出データに適用した結果,川崎市及び東京都におけるベンゼン濃度の予測値は実測値の10〜22%(平均16%)と,大幅に過小になった。バックグラウンド濃度についての考慮が不十分であることとPRTRデータが過小であることが過小予測の主な原因と考えられた。
自動車及び事業所からのベンゼン排出量をPRTR以外の報告値を用いて推計し直した結果,川崎市における排出量はPRTR報告値に比べて自動車が6.7倍,事業所が1.5倍,総量が3.2倍になった。推計し直したベンゼン排出データを用い,バックグラウンド濃度を考慮した結果,ベンゼン濃度の予測値は実測値の68〜124%(平均95%)と,ほぼ実測値を再現できた。ISCLTを用いた本手法が,大気汚染物質の広域濃度予測およびPRTRデータの検証に適用し得ることが示された。キーワード
ISCLT (Industrial Source Complex Long-Term Model),リスク評価,環境排出量,大気汚染物質,ベンゼン