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北米リスクアナリシス学会 2007年年次総会

米国テキサス州サンアントニオ,12月9〜12日
リスク解析研究チーム 小野恭子

 

○ワークショップ

 "BMD (benchmark dose) modeling and its use in Risk Assessment"に出席した.講義だけではなく,パソコンを使用して実際に用量-反応曲線を描くという実習があるものを選択した.懇切丁寧に先生が教えてくれ,非常に理解しやすく有益な講義だった.dichotomous(二項)データとcontinuous(連続)データが配布され,BMDsというソフトウェアを用いてBMDの95%信頼下限値(BMDL)を求めると共に,ガンマ,ロジスティック,プロビットなどそれぞれのモデルを仮定した場合の出力(BMDL)がどの程度異なるかを議論した.

○学会

 今回はポイントを用量-反応関係がらみに絞ることにした.

 "Dose Respose"のセッションでは,不確実なデータからどのように用量-反応関係を描くかについて,挑戦的な発表があり議論がとても盛り上がっていた.Cooke氏から,probabilistic inversion(訳:確率論的反転技術)に基づく,”確率的な用量-反応曲線”の提案があった.筆者はよく理解できなかったが,従来とは異なる用量-反応曲線の描き方があることは刺激になった.しかし,フロアーから「最尤法による用量-反応曲線とはどこが根本的に異なるのか?」という質問が出ていた(フロアーも議論についていけていなかったようだ).

 "Uncertainties in Cancer Risk Assessment - New Insights, New Approaches"のセッションでは「どの点に不確実性があるか」を大いに議論されていたが,「New Insights」といいながらも目立った進展はない印象で,動物実験からヒトへの外挿は難しいことを改めて認識した.

 "Benchmark Dose Modeling - Current Methods & Applications"のセッションでは,複数の実験系のデータを統合する方法(Setzer氏:"Combining BMDs from multiple data sets. ")や2つのエンドポイントについて,組み合わせて用量-反応曲線を描く方法(Allen氏:"Combining Predictions of Benchmark Dose Models."),時系列データが各用量にある場合のBMD(L)の時間変化(Zhu氏:"Development of BMD Models for Repeated Outcomes: Application to Neurotoxicity FOB Data.")などの発表は興味深かった.

 筆者はポスターセッションにおいて"Cost effectiveness of reducing heavy metal emissions from municipal solid waste incinerators in Japan.(一般廃棄物焼却炉の改変に伴う重金属排出量の削減における費用対効果)"と題して発表を行った.このテーマはニッチな分野のためか興味を持っていただいた参加者が多かったとはいえないが,IRISの方などから貴重なコメントをいただいた.英語力の向上も含めて多くの課題を発見でき,有意義な発表だった.

 ワークショップ,学会共に大変よい刺激を受けた.来年も是非参加したい.

○補足

 SRAよりInternational Travel Awardを頂き,参加費も無料という幸運に恵まれた.大会関係者に感謝申し上げたい.

 12月のサンアントニオは快適な気候であるにもかかわらず,会議場の冷房が効きすぎていた日があった.12月(冬)だから暖房ならまだしも,冷房が入っているのには驚いた.この対応は地球温暖化防止の観点からはいただけないと感じた.

 なお,参加を考えておられる方の参考までに書き添えると,この学会では要旨集を入れるカバン(通常は要旨集など一式入って渡されることが多い)がないので,トートバッグなどを持参した方がよい.また,本学会に限らず国際学会一般に言えるかもしれないが,口頭発表会場は机がなく椅子だけの場合が多いので,メモを取られる方は膝に乗せても書けるノートを使用されるのがお勧めである.筆者は,小さめなダブルリングノート(表紙はしっかりした厚紙のもの)を持参したがとても便利だった.

(写真はポスター発表時の筆者)

 


化学物質リスク管理研究センター

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