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11th International Congress of Toxicology
(第11回国際毒科学会)学会出張報告

リスク解析研究チーム  納屋聖人     

 

学会名:11th International Congress of Toxicology(第11回国際毒科学会)
日時:2007年7月15日〜19日 (出張期間:7月14日〜21日)
場所:カナダ、モントリオール
参加者は:約1300人

3年ごとに開催される国際学会である。主としてナノ材料の有害性情報に関する情報収集を行なったが、ナノ材料については今年3月のSOTで得た情報よりも新しいものは得られなかった。発がん性評価のうち、遺伝毒性発がん物質についても、作用機序が明確である場合には閾値のあるリスク管理ができることが受け入れられるようになった。欧州における化学物質の新しい規制であるREACHのなかで、生殖細胞変異原性試験が要求されている背景を調査したところ、生殖発生毒性試験でカバーできることが示唆された。
 
 

1.ナノ材料のシンポジウム
Symposium 35: Nanomaterials : evaluating the Benefits and Risks.

1. Product safety of nanomaterials.           
R. Landsiedel (BASF、ドイツ)
ナノホーン、二酸化チタンなどについて毒性評価を実施している。

ナノホーンでは経口暴露、吸入暴露、経皮暴露を実施しているが、充分なデータはない。
二酸化チタンについてはラットに21日間吸入暴露して、肺の透過型電子顕微鏡(TEM)観察の結果を示し、二酸化チタンが肺胞マクロファージに取り込まれていることと、肺では二酸化チタンは凝集していない写真を紹介。気管支肺胞洗浄液(BAL)中のサイトカインの変動は投与直後(2日後)が最高値で、21日後には低下していた。サイトカインのうちのケモカインであるMCP-1(monocyte chemoattractant protein-1:単球走化活性因子)は酸化ストレスの指標として適切とコメントしている。

クォーツの吸入暴露では、BAL中の多核細胞はその他の指標(乳酸脱水素酵素、アルカリ性ホスファターゼ、N-アセチルグルコサミン、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ など)よりも感受性が高いとのこと。


 

2. Toxicity of carbon nanotubes and other nanomaterials.    
C-W. Lams(NASA、米国)
今年3月のSOTで発表した内容と同様の発表であった。天然由来(火山活動など)、自動車の排気ガス、石炭燃焼などによって多層カーボンナノチューブ(MWCNT)が産生される。ロウソクの炎や都市大気中にMWCNTが検出されている。MWCNTは心臓・肺疾患に関与すると推察している。

工業ナノ粉末(カーボンブラック、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、ナノシルバー)、工業ナノ材料(フラーレン、カーボンナノチューブ、量子ドット、デンドリマー)のうち、カーボンナノチューブは肺で線維化を生じさせるとのデータ(ラットに気管内投与して90日後のデータ)を、“瞬間的に”提示したが、内容を確認することはできなかった。

ナノ材料におけるサイズ効果の問題については、ロチェスター大学のOberdorsterらとデユポンのWarheitらの成績を紹介したうえで、「サイズではなく、表面積が重要」と指摘しているが、根拠は示していない。また、会場からの質問の「HiPCoのSMCNTの毒性は不純物の鉄によるものではないのか」との指摘に対しては、NIOSHのCastranovaらのデータでは鉄が含まれていなくても毒性がみられていると反論している。


 

3. Assessing the effects of dermal exposure to nanomaterials. 
N.A. Monterio-Riviere (ノースカロライナ州立大学、米国)
ナノ材料は毛嚢から侵入して吸収されると指摘。ヒトケラチノサイト(皮膚角化細胞)のin vitro評価系でMWCNTを24時間暴露すると、サイトカインのひとつであるIL-8が検出された。培養系にタンパクを添加するとよく反応するとのこと。フラーレンをジメチルスルホキシミン(DMSO)に溶解したところ、ミトコンドリア機能の指標であるMTTアッセイでは低下した。また、量子ドットはin vitro評価系で血管内皮細胞まで到達するとのこと。


 

4. Carcinogenicity of nanomaterials: Is it specific to nanoscale?.    
津田 洋幸(名古屋市立大学)
国際がん研究機関(IARC)の発がん性分類では、グループ2Bに二酸化チタン、タルク、カーボンブラックが分類されている。これらの発がんデータでは、ナノサイズと100nm以上のサイズではともに発がん性がみられていると紹介。そして、カーボンナノチューブに関しては発がん性に関するデータがないこと、フラーレンでは90日の反復毒性試験で肺に肉芽腫(線維化の修復像であり、腫瘍とは異なる)がみられていること、カーボンブラックと酸化チタンではラットの雌で肺に扁平上皮癌、腺癌がみられている、などと述べた。

二酸化チタンでは、ラットを用いた二段階発がん性試験(プロモーション活性の確認試験)を実施中とのことであるが、結果の報告はなかった。イニシエーション物質としてDMBA(7.12-dimethylbenz(a)anthracene)を処理したのちに、二酸化チタンの100 mg/0.5mLを2回/週、2-28週間、皮膚に塗布した。フラーレンについては500ppmあるいは250ppmを気管内投与する予定とのこと。


 
 
2.ナノ材料のポスター発表   
             

PW11. 247 (243). Carbon nanotubes injure the plasma membrane of macrophages 
平野 靖史郎 (国立環研)

in vitroのマクロファージを用いた評価系で、MWCNT(物産ナノテク製)ならびにアスベストがマクロファージの細胞膜を障害することを電子顕微鏡で観察した。MWCNTはアスベストと同様に肺で中皮腫を生じる可能性があると推察している。今後はラットを用いる吸入暴露試験を計画しているとのこと。


 

PW11. 249 (245). Development of dispersion method for the cell culture medium to establish in vitro screening system for fullerene.               
西村 哲治(国立衛研)
フラーレンの調製方法を検討している。リポソームが最適と考えて検討中とのこと。


 

PW11. 252 (248). Nanoparticles are they toxic?      
A. Rogers (TSE-Systems、ドイツ)

ナノ粒子の吸入暴露試験をするために暴露装置を開発したとのこと。毒性データの提示はなかった。



 
3.その他のトピックス

シンポジウム4:遺伝毒性発がん物質の閾値

S4-1. Use of genotoxicity data in risk assessment: Application of dose-response modeling to in vivo genotoxicity data for acrylamide.            
A. Shipp(Environ Int. 米国)

アクリルアミドは遺伝毒性発がん物質であり、0.19mg/kg/dayでラットの甲状腺腫瘍を誘発する。用量反応性を確認すると閾値があることが明確であり、直線モデルでリスクを算出することは不適である。


 

S4-3. Carcinogenicity of trichloroethylene.     
H.M. Bolt(ドルトムント大学、ドイツ)

欧州連合の科学委員会がトリクロロエチレンを閾値ありの発がん物質として労働暴露での許容量を検討中である。遺伝毒性発がん物質においても、2次的な発がん性の場合には閾値ありのリスク管理を行う。トリクロロエチレンの場合には主要代謝経路では発がんは起きず、マイナーな代謝経路で反応性変異原物質が産生される。ドイツの金属関連労働者について腎臓腫瘍の発生との関連を調査したところ、オッズ比が高かった。閾値は250ppmで、局所での遺伝毒性と腎臓毒性が加わることで腎臓腫瘍が形成される。作業環境許容濃度(OELs, TLV)は10ppm。


 

S4-4. Novel mechanisms of aflatoxin B1 carcinogenicity. 
T.E. Massey(クィーンズ大学、カナダ)
アフラトキシンB1(カビ毒)による肝がんは、代謝過程でエポキシド(グルタチオン抱合)によって変異原性、発がん性が発現する。実験動物による発がん性試験ではラットは感受性があるものの、マウスは抵抗性である。この違いはDNA修復の活性の差によるものである。抗酸化剤処理によりDNA障害の指標である8-OHdGは低下し、ラット肝がんは減少することを確認した。

 

REACHに関すること

PT6. 104 (99). REACH: A Challenge for alternatives to animal testing. 
H.J.M. Sterenborg (ENVIRON Nethrland、オランダ)

欧州連合では化学物質の規制でREACHを実施することになる。しかしながら動物実験を行うことに制限があるために、代替法を検討しているとのこと。そこで、生殖細胞を用いる変異原性試験の代替法としては、何が適切なのかを尋ねたところ、代替法はないとのことであった。また、REACHではなぜ生殖細胞変異原性試験を要求しているのかを尋ねたところ、「生殖毒性を重要視しているから」とのコメントであった。生殖細胞変異原性試験データが不要なケースはどのような場合かと尋ねたところ、生殖毒性試験において、雄動物に投与して無処置雌と交配させた試験で、交尾、受胎に影響がない場合には、生殖細胞変異原性試験は不要であるとの見解であった。

 
私の発表への質問
PT15. 395 (385). Risk assessments of formaldehyde and acetaldehyde in ambient air to the general populations in Japan.
ニュージーランドの研究者:ガソリンにエタノールが添加されるようになり、排気ガス中にホルムアルデヒドやアセトアルデヒドが含まれている。この発表は我々の研究に参考になる。

日本の研究者:刺激性のないホルムアルデヒドが開発中と聞いている。刺激性がない場合には安全性は高まると考えてよいのであろうか? >> (答え)YES

 
<以上>


  

 


化学物質リスク管理研究センター

独立行政法人 産業技術総合研究所