HOME > 国際学会参加報告 > 小倉 勇

International Conference on Nanotechnology Occupational and Environmental Health and Safety: Research to Practice(NOEHS)
参加報告

リスク管理戦略研究チーム  小倉 勇 

ナノ粒子の安全性評価・管理に関する情報収集として,米国オハイオ州シンシナティにおいて2006年12月4日から7日に開催されたナノテクノロジーの労働安全および環境安全に関する国際会議に参加した.

NIOSH,EPA(米国環境保護庁),OSHA(米国労働安全衛生庁),FDA(アメリカ食品医薬品局)などの国の機関,シンシナティ大学やオハイオ大学などの大学,DuPont,ENVIRON,3M,Johonson&Johonson,Altairnanoなどの企業のそれぞれの立場から,労働安全および環境安全の現状の取り組みや今後の課題などについて,発表がなされた.急速な工業ナノ材料の開発・利用に対し,規制や管理手法の遅れが指摘され,安全性評価・管理手法の早急な標準化や基準の必要性などが述べられた.ポスター発表では,約40の発表があり,最新の研究成果や研究プロジェクトの紹介などがあった.

会議自体は,NIOSHを中心としたものであり,ナノ材料の安全性に対するNIOSHの先進的な活動状況・活動計画を示唆するものであった.多くの口頭発表において,バルク材料とナノ材料の共通点と相違点,既存の方法で対応できる部分と新たな方法を必要とする部分,これまでに分かっていることと分かっていないこと(今後の課題)が整理され,会議を通して相互の知識の共有が図られた.本格的な調査研究は始まったばかりであり,さらなる詳細な議論の為には,今後の結果が待たれる段階であると感じた.

・有害性評価に関連する発表
様々なサイズのTiO2ナノ粒子によるマウスのケラチン生成細胞系への影響評価の研究(Braydich-Stolle LK),多層カーボンナノチューブ,アミノ酸修飾フラーレン,量子ドットの角質層のバリアを透過する能力と皮膚のケラチン生成細胞への影響を評価した研究(Monteiro-Riviere NA),単層カーボンナノチューブを用いたin vivo試験(マウス)による肺への毒性影響を評価した研究(Shvedova),心血管への影響や全身への輸送に関する研究(Simoeonova P (当日の発表は別の人だった?)),神経組織への輸送や影響に関する研究(Oberdörster G)などの発表があった.

現在のOEL(職業暴露限界値)はナノ材料に適用できず,ナノ材料に適した基準や標準が必要であること,標準試験プロトコルを作成し,広範囲な暴露が生じる前に工業ナノ材料を評価する必要があることなどが指摘されていた.

・計測技術に関連する発表
ナノチューブやナノファイバーのような非球形粒子の分級特性に関する研究(Ku BK),走査型移動度粒径測定(SMPS)に変わる,時間分解能が高い装置の開発に関する研究(Kulkarni P),ナノ表面積モニターの有用性に関する研究(Hoover M,Singh M),利用可能なオンライン測定装置の相互比較の研究(Shaughnessy P,Hoover M)などがあった.

ほとんどの測定装置が球形粒子を対象としており,ナノチューブやナノファイバーのような非球形粒子のオンライン測定には未だ課題が多いこと,すべてのオンライン測定装置に共通な限界はバックグラウンド粒子との分離であること,ナノ表面積モニターは,労働環境で使え,肺に沈着する粒子の表面積濃度の時間変化の良い指標をもたらすと考えられること,1 μmより大きな粒子に凝集した粒子の表面積をリアルタイム(オンライン)で測定する方法はないことなどが指摘されていた.

・暴露評価,暴露の測定法に関連する発表
実際の労働現場またはその模擬操作での粒子排出に関する測定報告がいくつかあった(Automotive facility,Engine machine facility,鋳造,ラボでのカーボンナノファイバー取扱い: Evans D, Birch ME;酸化チタン及びチタン酸リチウムの超微粒子の製造プロセス(粒子の回収,粒子のタンクへの注ぎ込み): Hoover M;多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を含むナノコンポジットの加工過程(研磨): Gupta A).

全体としてはマイクロサイズの大きさであるが,ナノ構造を持つ粒子の飛散が起こっていること,労働環境での測定では,排出粒子による濃度上昇に比べてバックグラウンドが高く,バックグラウンドとの区別(特に排ガスや燃焼由来のエアロゾル)が問題となること,非定常プロセス(操作・作業)の評価や空間分解能の調査の点でも,時間分解能の高いポータブルな装置での測定が有用であること,オンラインの測定だけでは限界がありオフラインの測定(電子顕微鏡,化学分析など)が有用であること,現場の測定に関し,企業や工場などの協力がなかなか得られないことなどが指摘されていた.

・保護や管理に関連する発表
保護具やフィルターなどの性能評価に関する研究(Grinshpun SA,Japuntich D),労働衛生としての管理に関する研究(Kojola B,Goldman R),各企業での取り組みなどの報告(Maher T,Gerritzen G)などがあった.
 
保護マスクの重大な問題は横からの漏れであること,フィルターの評価では,1.5 nmの粒子までreboundの証拠はなく,多くのデータが一致していること,不確実な情報下での現場の対応として,予防的な措置(可能な限りの管理・保護,有害物として扱う)が重要であることなどが指摘されていた.

 


化学物質リスク管理研究センター

独立行政法人 産業技術総合研究所