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リスクアナリシス学会 2006年年次総会
米国メリーランド州ボルチモア,12月3〜6日

 リスク解析研究チーム   小野 恭子   
 

筆者はCRMに勤務して6年になるが,諸事情でこの学会には初参加であった.初めてで慣れないせいもあり,また取り扱う領域があまりに広いため理解に至らないセッションも多かったのが残念であった.しかし,日本だけに閉じていたのでは触れられない考え方も多く,大変有意義であった.来年も,万難を排して参加したいと思う.

学会に先立って”What Monte Carlo Cannot Do: An Introduction to Imprecise Probabilities”というワークショップに参加した.ここでは,Probability Bounds Analysis (PBA)という不確実性の定量化手法に関する説明があった.一般に,推定値は信頼区間を幅で示すことがのぞましいが,その信頼区間の中では50%タイル値が最も可能性が高い,と通常感じるであろう(少なくとも筆者は感じる).しかし,PBAでは「最も可能性の高い推定値」という考えはなく,推定区間の端の値であっても中心の値であっても,その確からしさに「優劣」はない,というものである.このような考え方は化学物質のリスク評価では受け入れがたいかもしれないが,非常に生起確率の低い事故,たとえば原子力発電所の事故による災害リスクなどの計算には実際利用できそうな手法と感じた.受講生も核廃棄物処分施設の計画等に携わっている方々がおり,PBAは彼らの分野ではなじみがある手法とのことだった.

学会では,リスクに関する話題ならあらゆる事象,手法が題材となって活発な議論がなされていたが,筆者の印象に残ったセッションを1つだけ紹介する.「Method and applications of statistical methods in risk analysis」における発表では,最尤法を用いて検出下限値以下(ND)のデータをどう取り扱うか?という議論がなされていたことが印象的であった.「NDデータが全体の何割あるかによって,異なる統計解析手法を適用するべき」,「NDを1/2NDと置き換えてよい,置き換えてはいけないを判断するNDデータの割合」など,CRMのリスク評価にもすぐ応用できると感じた.今まで筆者は,統計手法をどのような基準で適用するかを深く考えたことがなかったので,参考になった.

 


化学物質リスク管理研究センター

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