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Society for Risk Analysis 2006 Annual Meeting 参加報告

リスク管理戦略研究チーム  岸本充生     

 

写真今年度のSRAでは,1日かけてナノテクノロジーに関する4つのセッションが設けられた.具体的な実験データよりも,リスクを評価し,管理し,規制するための枠組みに関する議論が多かった.そのため,数少ない事実を様々な立場から解釈したり,解釈のためのフレームワークを提供したりという感じで,研究はスタートを切ったばかりという状態である.最近の傾向としては,英国のKing's College LondonのLofdtedt氏やドイツのUniversity of StuttgartのRenn氏,スイス工科大学のSiegrist氏など,リスク認知やガバナンスに関してこれまで一定の業績を残している研究者が積極的にナノテクノロジーを取り上げるようになったことが挙げられる.ナノテクノロジーに関する話題がリスクに関する議論の中心になってきたことを意味している.SRA内にナノテクノロジーを扱う継続的なグループが作られること提案され決まった.以下に4つのセッションについて簡単にまとめた. 


□T1-A「ナノテク開発のために不確実なリスクを管理する」 
Linkov氏(Cambridge International Inc.)らによる「ナノテクノロジー:リスク評価と決定分析を統合する」は,適応的管理(adaptive management)や多基準分析(MCDA),情報の価値解析(Value of Information)をナノテクの評価や管理にどのように適用するかの枠組みを提示した.Morris氏(米国環境保護庁)らによる「ナノテクノロジーに関する決定支援の必要性」はまずEPAの各部門がどのようにナノテクに関わっているかを示した.地域レベルではスーパンファンドサイトの浄化への適用が検討されている.OPPTではTSCAの適用とStewardship Programの提案が検討されており,OARでは酸化セリウムのディーゼル燃料添加物へのナノテク応用について審査中であり,OPPでは銀ナノ粒子問題を検討中,ほかにもOECAやOWでもナノテクが議論されている.研究としてはSTAR programによる委託と内部研究がある.Bergeson氏(Bergeson & Cambell, P. C.)による「ナノ規制意思決定プロセスの形成:EPAの内部と外部からの視点」では,EPAによるStewardship Programで十分であり,新たな法律は必要がないという立場が主張された.彼女は米国法律家協会(ABA)の環境・エネルギー・資源部門が作成し,今年公表された報告書をまとめた立場にある.Canady氏(米国食品医薬品局)による「FDAとナノテクノロジー」は,FDAの最近の動きを説明した.FDAは内部にタスクフォースを設立.10月に初めて開かれた公聴会に続いて,2007年1月4日に再び公聴会を開催することを明らかにした.目的は環境・健康・安全に関する研究ニーズを探ることである.Balbus氏(Environmental Defense)による「初めてナノテクノロジーを正しく理解する」は,影響力のある環境NGOの立場から,責任あるナノテクの発展のための提言を行った.規制に関する重要な問いかけとして,「ナノ材料は新規化学物質か?」→Yes,「市場に出る前に試験データが必要か?」→Yes,「現行の例外規定や閾値は適用されるべきか?」→No.また,ライフサイクル全体を見る必要性,”Proactive”なリスク管理の必要性が強調された. 


□ T2-A「ナノテクノロジーに関する規制と政策のチャレンジ:国際的な視点」 
2006年1月にウッドロー・ウィルソン国際学術センターから発表された報告書「ナノテクノロジーの影響を管理する」の著者であるDavies氏(Resources for the Future)による「ナノテクノロジー規制とリスク評価」は,リスク評価と規制の関係についての話であった.副生成物としてのナノ粒子をどうするかという話もあった.Kulinowski氏(Rice University)による「不確実性下での潜在的リスクを管理する」では,廃棄段階の問題/生態系への影響,直接的な消費者曝露,労働者の実験室での安全性の3分野の懸念が表明された.Sheremeta氏(University of Alberta, National Institute for Nanotechnology)は,カナダにおけるStewardshipプログラムや,CEPA,新規物質規制の問題を話し,2007年にはメンタルモデル研究を始めると語った. 


□T3-A「ライフサイクルを通したナノテクノロジーのリスク:戦略と政策的含意」 
Davis氏(米国環境保護庁)による「ナノ材料のリスク評価研究への包括的なアプローチ」の内容は以下の論文にまとめられている.J. Michael Davis, How to assess the risks of nanotechnology: learning from past experience. Journal of Nanosciene and Nanotechnology. 7, 402.409 (2007).Jolliet氏(University of Michigan, Center for Risk Science and Communication)による「ナノテクノロジーのライフサイクルにわたるリスクと影響」では,LCAの文脈においてナノ材料を既存化学物質と並列に比較するアプローチが紹介され,指標としてEcopoints,Critical Volumina, Critical Surface-Timeの3つが取り上げられた.2006年10月2〜3日にはワシントンDCで,ナノテクノロジーとLCAに関するワークショップが開催された.2007年10月25〜26日にはMichigan大学で同様の会議が開催される.Votaw氏(Wilmer Cutler Pickering Hale and Dorr LLP)による「不確実性の舵取りをする:ナノテクの環境健康安全に関する法的リスク管理戦略」では,事業者が直面する法的リスクを,認知リスク,不均等な規制,未成熟な規制の3つに分けて説明した.Walsh氏(DuPont)とBalbus氏(Environmental Defense)の2人は「責任あるナノテクノロジーのための枠組み」で,2005年9月から始まったEnvironmental DefenseとDuPontの間のパートナーシップの活動を紹介した. 


□ T4-A ポスタープラットフォーム「ナノテクノロジーのリスク解析と意思決定局面」 
Shatkin氏(The Cadmus Group Inc.)による「ナノ材料のリスクを管理するためのCadmusの適応的リスク評価フレームワーク」,Renn氏(University of Stuttgart)による「ナノテクノロジーのリスクと見通しを分析する2つのフレーム」(これはIRGCのWhite Paper No.2「ナノテクノロジー・リスク・ガバナンス」の話だ),Wenger氏(University of Michigan)の「ポリアクリルアミド・ナノ粒子の薬物動態学,組織分布,排泄」,Bjornstad氏(Oak Ridge National Laboratory)の「新規技術の規制:進歩と見込み」,Peterson氏(RC Pless. Intertox, Inc.)による「ナノ粒子によるリスクを評価するための挑戦」,Siegrist氏(ETH Zurich(スイス連邦工科大学チューリッヒ校))による「ナノテクノロジー食品の購入意欲:感情と社会的信頼の役割」(信頼→感情→ベネフィット/リスクというモデルを実証). 

 


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