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第27回北米環境毒性化学会年会参加報告
生態リスク解析チーム 内藤 航
2006年11月5日から9日にかけてカナダ・モントリオールで開催された北米環境毒性化学会(SETAC)第27回年会に参加した.SETACは環境毒性学および環境化学の分野では世界最大の学会である.今回は要旨数(発表件数)が1900弱(うちポスター発表1000程度),同時に進行するセッションの数が12あった.会場が非常に広いため歩く距離が自然に長くなり,学会期間中は常に脚に疲労を感じた.
今回の年会では,個人的な関心が高かったせいかもしれないが,「重金属」をキーワードにしたセッション・発表が多いように思えた.環境中における重金属類の存在形態や生物への取り込まれやすさ(bioavailability),Biotic Ligand Model(BLM)に関するセッションは多くの観客を集めていた.BLMは水生生物に影響を及ぼす重金属類の濃度を水質による違いを考慮して推定するモデルである.現在諸外国ではbioavailabilityを考慮した重金属類の水質クライテリアや基準値を設定していこうという動きがある.その重要性の主張,ベースとなる基礎データの提示,BLMの利用可能性の検討等に関連する発表が多くあるように思えた.BLMの適用は,現時点では限られた物質や生物種に対してのみ検証されたに過ぎず,実際の生態リスク管理・対策に及ぼす影響は不明瞭な部分も多いと思われる.そのような状況においても,BLMのような新しい考え方や知見を生態影響に関するリスク管理・対策に積極的に取り入れようとする欧米の姿勢は参考にすべきではないかと思う.
生態リスク評価に関する発表の大部分は個体レベルをエンドポイントとした評価であり,個体群レベルでリスク評価を行ったという発表はほとんどなかった.個体群レベルの評価に関連する発表の中には,個体群レベルの評価の重要性を説く講義のような発表が未だにあり,個体群レベルをエンドポイントとした生態リスク評価・管理はまだまだ浸透しておらず実践レベルには程遠いのだなと感じた.その反面,手前味噌になるがCRMの主張する個体群レベルの評価・管理に関する発表は未成熟だが冒険的であり斬新さがあるように思えた.
その他学会の発表テーマを俯瞰的なみた感想を以下にあげておく.生物蓄積や底質毒性に関する発表は例年通り数多くあり盛況であった.LCAのセッションには,リスク評価の手法や考え方を取り入れたLCAやLCIAの発表があった.底質汚染の負荷源の把握に関連した環境鑑識学(Environmental Forensics)のセッションが復活した.ナノマテリアルの生態影響や環境動態に関する発表数が年々増加しているなと思った.医薬品,PFOS・PFOA,難燃剤等の環境中モニタリングデータを示す発表が多かった.
余談になるが,モントリオール滞在中,SUSHI SHOPと称する店をよく目にした.おしゃれな店構え,モダンな内装,鮮やかな巻き寿司(写真あり)が印象的だった.味は悪くなかった.