リスク評価の知恵袋シリーズ−1
大気拡散から暴露まで−ADMER・METI-LIS
花井リスク研究所 花井 荘輔
共著:中西準子、花井荘輔、東野晴行、
吉門 洋、吉田喜久雄
丸善株式会社、 定価3,150円
2005年1月に出版が開始され既に12冊が刊行されている「詳細リスク評価書シリーズ」に続き、「リスク評価の知恵袋シリーズ」の刊行が始まりました。新しいシリーズのねらいは、中西センター長が「刊行にあたって」で次のように述べています。
「当事者としては、「ついにここまでくることができた!」の感が深い。(・・・)これまで詳細リスク評価にひたすらとりくんできた。(・・・)知恵袋シリーズは、個々の物質のリスク評価に横串を入れ、そこで使われた方法論やツールを抜き出し、まとめ、その原理を説明するために書かれたものであり、リスク評価の頭脳の説明である。」
このシリーズの具体的な考え方は「あとがき」に示しました。化学物質のリスク評価に関する科学・技術は広く深いものです。個々の科学技術の詳細は、それぞれの専門書に任せざるを得ませんが、このシリーズは、
・式を書く
・根拠を示す
・引用資料を明示する
・専門用語間の関連をつける
などによって、関連周辺分野との関係を追求する道筋の提供を目指しています。できるだけ多くの参考資料を引用することによって、次へ進む道筋をわかりやすく示しました。
シリーズ1では、CRMで開発された暴露評価関連のモデルをとりあげました。
1−ADMER−暴露・リスク評価大気拡散モデル
ADMERは、広域(最大は全国レベル)における5km(最新版では最小100m)平方のグリッド単位の大気中濃度を推算するシステムです。トルエンをはじめ揮発性の高い化学物質の場合には、まずこのシステムで広域の濃度分布を推算し、後で述べるMETI-LISで高濃度域の濃度分布を細かく調べるというプロセスがほぼ確立されました。排出量の設定にはPRTR公表データを活用します。あまり馴染みのない大気安定度・混合層高さなどについても基本を解説しています。
2−低煙源工場拡散大気濃度推算システム (METI-LIS)
METI-LISは、事業所などの発生源からの排出による周辺濃度の推算システムです。ADMERと同じように気象データとしてはアメダスデータを活用します。ベンゼンやブタジエンなどの場合は無視できない近傍の道路を通行する車両からの排出量を線源として処理します。高さが低い排出源の場合は、建物による巻き込みで地上濃度が高くなる傾向にありますが、その程度を評価する機能を組み込んでいます。入手困難な資料からその考え方をかなり詳しく解説しています。
3−媒体間移動量の評価
環境中に排出された化学物質がレセプターに至る過程を推算するためには、基本的な環境媒体(大気・土壌・水・底質)から、植物・家畜・魚介類などの暴露媒体への物質の移動・分配・分解−環境動態−を評価する必要があります。大気中のガス態と粒子吸着態との間の分配平衡を記述するJunge定数の意味などに触れた後、CRMで開発された
Risk Learningの機能を解説しています。
4−暴露量 (摂取量)の評価
暴露媒体から体内への取込量評価が暴露量を決めます。吸入・経口の他に、経皮吸収・吸収率などの問題を解説しています。
内容は、データ入力−処理−結果の出力、という流れでまとめ、それぞれの部分でも前後の関係がわかるようにと意識しました。いくつかの観点から記述した場合が多いので、繰返しが多いと感じられるかもしれません。
構成は、見開きの左ページに文章で解説し、右ページには、理解を助ける図や表を並べる配置を原則としました。解説の文章が足りないところは、想像力で補って理解を広め、深めて欲しいと思います。
知恵袋シリーズでは、ふつうの解説書では扱っていないようなことも敢えて取り上げています。リスク評価のためのツールを現実に使おうとすれば、そこでつまずくことが多く、しかも、他で説明を見つけるのが非常に難しいのです。
リスク評価の科学と技術は、広く深いものです。これですべてというものはあり得ません。議論を積んで深めて行く必要があり、知恵袋シリーズがそのきっかけのひとつとなることを期待しています。
*リスク評価の知恵袋シリーズは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)委託のプロジェクト「化学物質のリスク評価及びリスク評価 手法の開発」のテーマ「リスク評価、リスク評価手法の開発及び管理対策の削減効果分析」の研究成果です。