詳細リスク評価テクニカルガイダンス−詳細版その4−

花井リスク研究所 花井 荘輔

 

前号につづき、詳細リスク評価テクニカルガイダンス−詳細版その4を紹介します。

●詳細版(その4)

−分布のあるデータの処理−より定量的な評価のために

化学物質の確率的リスク評価(Probabilistic Risk Assessment,PRA)に必要な分布をもつデータの処理法の基本を解説しました。中心の問題は、モンテカルロ(Monte Carlo,MC)法ですが、その発展として、ベイズ解析、マルコフ連鎖モンテカルロ(Markov Chain Monte Carlo, MCMC)法の基本も対象としました。これらの統計処理手法の詳細は専門書に譲らざるを得ませんが、これらの手法を化学物質のリスク評価に応用する考え方を整理しました。 

また、これまでに公開された詳細リスク評価書での分布データ処理の状況をまとめました。 

いわゆるPRAでは、データの変動性V:Variabilityと不確実性U:Uncertaintyの処理が重要です。ヒトの体重のような分布Vをもつデータを暴露評価に反映させるには、その分布の型(例えば対数正規分布)を反映するランダムサンプリングが必要であり、モンテカルロ法が標準的に使われます。さらに複雑な系では、データ不足、あるいは記述力不足によるUの寄与と、データの本質的な変動によるVの寄与を分離して解析することにより系に関する理解が深まりますが、そこで2次元モンテカルロ法が顔を出します。 

多くのデータ項目についてその分布の型をすべて実験で決めることは不可能です。出発点として専門家の判断を事前確率分布とし、利用できる観測データを加えて実際をよりよく反映する事後確率分布を得ようというのがベイズ解析の基本です。 

リスク評価でますます重要になりつつある生理学的ファーマコキネティクス(Physiology-Based PharmacoKinetics,PB-PK)解析では、多数のパラメータが階層構造的に組み合わされた複雑なモデルを解析的に解くことは困難なので数値シミュレーションが利用されます。そのプロセス−例えば、ベイズ法によるモデル化、サンプリング、繰返し計算による収束解へ−にマルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法が利用されます。 

現在のところMCMC法のリスク解析への応用はフランスのF.Y.Boisらの欧州勢が主導している印象ですが、2006年の秋には、米国環境保護庁(U.S. EPA)が主催した関連のワークショップが開催されており、今後盛んになるのではないかと思われます。 

各項目のやや詳しい解説を付録としました。

付録T 分布型の選択  
付録U モンテカルロ法  
付録V サンプリングの方法  
付録W ベイズ法  
付録X MCMC−マルコフ連鎖モンテカルロ法  
付録Y 測定データそのもののバラツキ

 

 


化学物質リスク管理研究センター

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