実感と現実のギャップ

上家氏写真

環境省環境保健部
環境安全課

上家 和子


暑い季節がやってきました。ことに都市部ではヒートアイランド現象のためか、天気予報の予想気温はすでに真夏並みとなっています。先ごろ、厚生労働省から平成16年の人口動態統計が発表され、少子化の進行が大きく報じられましたが、人口動態統計は悉皆調査で細かくみていくといろいろなことがわかります。たとえば、暑熱による死亡は449人、寒冷による死亡は244人でした。暑さ寒さは人の健康に対して事故的ばく露以外の環境因子としては最大の因子といえるかもしれません。しかし、暑熱による健康影響は「熱射病」という新鮮味のない言葉に集約され、暑さは日々実感し辟易し、かつ、多くの命が失われていても、ほとんど注目されません。

一方、紫外線は、かつては「真っ黒に日焼けした元気な子ども」などとポジティブに受け止められていたものが、一転、白人の皮膚がんデータなどから「浴びすぎに注意、子どもにも日焼け止めを」と全く逆の評価となり、注目度が高まっています。しかし日本人の皮膚がんの死亡率は、年齢構成の差異による影響を排除した年齢調整死亡率でここ30年間の年次推移をみると、むしろ減少傾向となっています。

人の健康や生態系への影響を最小限にするための環境管理をリスクベースで展開することは既に基本認識といえるでしょう。しかし、感覚的な実感は現実に起こっている事象や冷静なリスク評価結果と乖離しています。新しい要因、新たな状況、ことに海外の情報、さらには目新しい用語などから受ける感覚的な不安は大きく、一方、昔から知られている状況、古くから使っている物質、さらには耳に馴染んだ用語からはたとえ実際に曝されていても、被害が生じていてさえも、脅威を感じにくく、対策は進みにくい、というのが現実ではないでしょうか。

化学物質のリスク評価手法は進化し定着してきていますが、それらの結果をできるだけ正確に伝える情報提供手法についてはまだまだ未開発と言わざるを得ません。ゼロではないリスクについて、コミュニケーションをどう図るか、その手法の研究の必要性が痛感されます。 

6月9日、環境安全課では、熱中症保健指導マニュアルと紫外線保健指導マニュアルをいずれも改訂して同時に環境省ホームページにアップしました。

http://www.env.go.jp/chemi/heat_stroke/manual.html

http://www.env.go.jp/chemi/uv/uv_manual.html

作りっぱなしのマニュアルを出しっぱなしにするのではなく、どのような反響があるのか(ないのか)検証していくことで、情報提供のあり方を捉える一助にもしていきたいと考えています。


化学物質リスク管理研究センター

独立行政法人 産業技術総合研究所