曝露・リスク評価大気拡散モデル(ADMER):ADMER開発と普及の歩み
環境暴露モデリングチーム 東野 晴行
ADMER(正式名称:産総研−曝露・リスク評価大気拡散モデル(National Institute of Advanced Industrial Science and Technology - Atmospheric Dispersion Model for Exposure and Risk Assessment : AIST-ADMER)は、関東地方や近畿地方のような地域スケールでの化学物質濃度の時空間分布の推定を対象としており、5×5kmの空間分解能と6つの時間帯でかつ1カ月の平均値の推定を実現できるモデルである。ADMERには、大気中濃度および沈着量の分布を推定する機能に加えて、グリッド排出量を作成する機能、気象データを加工・解析する機能、暴露人口分布の計算のように推定濃度を解析する機能などが含まれている。また、計算操作や結果の管理を助けるグラフィック・ユーザー・インターフェイスや、発生源、濃度、沈着量分布のマッピング表示、任意の地点での値の抽出など、暴露評価に用いる基本的な機能はほぼ実装されている。
ADMERは、(独)産業技術総合研究所(産総研)化学物質リスク管理研究センター(CRM)のインターネットホームページ1)に公開されており、誰でも無償でダウンロードして利用することができる。同じようなソフトウェアでこのように公開されているものはわが国では他に例はない。すでに2,000人近くのユーザーがありこの種のソフトウェアとしては、わが国で最も普及しているモデルである。ダウンロードデータから、ADMERのユーザーを分野別に見ると、製造業に従事している人が最も多く、次いで官公庁、学校教育機関、コンサルタント業となっており、企業や自治体での感心が高い。
ADMERの開発により、シミュレーションモデルの専門家だけでなく、リスク評価に携わる研究者や評価者、さらに国や自治体などの行政担当者や企業においても広域の時空間濃度分布の推定が可能となり、化学物質のリスク評価、とくに時空間分布を考慮したリスク評価が進展した。2003年4月と2004年10月には50人規模の講習会を実施したが、いずれも初日で定員に達するほど注目度が高かった。ADMERは、産総研および(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の化学物質総合評価管理プログラムの代表的な研究成果の一つであり、同プログラムで実施されたほとんど全てのガス状物質の初期および詳細リスク評価に利用されているほか、国、自治体、教育機関、企業など様々な場所で活用されている。
今後は、ADMERの基本グリッド間隔である5×5km以下の濃度分布を推定する機能(サブグリッドモジュール)の開発、公開を予定しており、自治体等から根強い要望がある沿道など観測地点が発生源から近い場合や郊外都市のように都市規模が5kmより小さい場合の再現性が向上し、適用範囲がさらに広がる見込みである。また、今回の特集でご紹介するように、日本以外の地域で適用可能な国際版の開発にも着手しており、中国広州地域周辺(珠江デルタ地域)での実証試験も既に行っている。経済発展が著しく化学物質による環境汚染が深刻化しているアジア諸国など、今後リスク評価が重要となってくる地域において、ADMERのリスク評価進展への貢献が期待される。
図1.ADMERのインターフェイス画面と主要機能の概略図
〈参考文献〉
1) ADMER インターネットサイトhttp://www.riskcenter.jp/ADMER/
2 )東野晴行・北林興二・横山長之・高月峰夫・米澤義堯、「化学物質運命予測モデルの開発 ―長期平均的大気環境濃度推定モデルの開発―」、大気環境学会誌、Vol.35(4)、p.215-228 (2000)
3) 東野晴行・北林興二・井上和也・三田和哲・米澤義堯:「曝露・リスク評価大気拡散モデル(ADMER)の開発」、大気環境学会誌、Vol.38(2)、p.100〜115 (2003)
4) 東野晴行・井上和也・三田和哲・米澤義堯:「曝露・リスク評価大気拡散モデル(ADMER)全国版の開発と検証」、環境管理、Vol.40(12)、p.58〜66 (2004)
5) 産業構造審議会 化学・バイオ部会リスク管理小委員会 第8回有害大気汚染物質対策WG 資料6「有害大気汚染物質暴露評価について」 (2005年5月12日)