産総研-水系暴露解析モデル AIST-SHANEL Ver. 1.0公開
生態リスク解析チーム 石川 百合子

 

◆はじめに

2005年11月1日、産総研−水系暴露解析モデル(AIST-Standardized Hydrology-based AssessmeNt tool for chemical Exposure Load、通称AIST-SHANEL) Ver.1.0を公開した。2004年に公開されたAIST-SHANEL Ver.0.8は、多摩川、日光川、石津川、大聖寺川の4水系を対象としていたが、Ver.1.0では、利根川・荒川、淀川、木曽川などの広域水系を追加、解析領域は全13水系に拡張された。また、月平均流況における濃度計算の導入によって、計算時間が大幅に短縮された。

さらに、水系から一部大気へ揮発したり、大気から沈着したりする化学物質についても解析が可能となった。AIST-SHANEL Ver.1.0の公開によって、主に水系に排出されるPRTR対象物質について、利根川や淀川など人口密度や排出密度の高い広域水系における空間的な暴露評価と対策評価が可能となった。本モデルを化学物質評価・管理のツールとしてより多くの方に活用していただきたい。

AIST-SHANEL Ver.1.0の使い方

AIST-SHANEL Ver.1.0は、一般の人々でも操作しやすいユーザーフレンドリーなモデルになっている。 

まず、評価したい水系を選択し、対象化学物質の全国ベースのPRTRのデータと、物質に関する基本的な情報(蒸気圧、分子量、水溶解度、有機炭素水分配係数、半減期、下水処理除去率など)を入力することによって、水系暴露濃度を月ごとに1kmメッシュ単位で推定する。化学物質が使用される業種や用途によって、河川へ直接排出される量や下水処理場から排出される量の面的な違いを把握し、水系暴露濃度が高くなる地域を推定することができる。

図1のような化学物質の濃度の面的分布では、排出量が高い地域で濃度が高いのか、または、下水処理水の放流先で濃度が高くなっているのかを見ることができる。図2は、ある地点における化学物質の時系列変化を示しており、どの時期に濃度が高くなるか、河川の流量が多くなるとどの程度濃度が低下するのかなどの情報を簡単に把握することができる。さらに、図3に示すように、生態リスクの観点から、水生生物に影響が出る濃度を超える確率を水系全体で見ることもできる。

生態リスクの削減が必要な場合、業種や用途別の化学物質排出量削減や下水処理場での除去率向上に関わるモデル入力部分を変えて計算することによって、リスク削減対策が化学物質濃度の低減にどのような効果を持つかの評価が可能となる。 

このように、このモデルの利用によって、排出源と水系暴露濃度との因果関係を見ることができ、事業者の水系における化学物質の自主管理や、地方自治体の流域管理に活用することができる。また、教育機関でも水系のリスク評価とはどのようなものかを学習するための教育用ソフトとして、利用することができる。今後、AIST-SHANELの解析事例を増やし、紹介することによって、モデルの有用性を広く伝えていく計画である。



図1. 利根川・荒川水系におけるノニルフェノールエトキシレート濃度の面的分布図



図2. 利根川・荒川水系の取手地点におけるノニルフェノールエトキシレート濃度の時系列変化



図3. 利根川・荒川水系におけるノニルフェノールエトキシレート濃度の5.0r/mを超過する確率

 

* AIST-SHANEL Ver.1.0のソフトと操作マニュアルは、ホームページ (http://www.riskcenter.jp/SHANEL/)からダウンロードができます。
** 本ソフトウェアは、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) からの受託研究による研究成果です。


化学物質リスク管理研究センター

独立行政法人 産業業技術総合研究所