国際学会参加報告  
Indoor Air 2005     リスク管理戦略研究チーム 篠原 直秀


2005年9月4日〜9日、北京国際会議場(中国、北京)で開催されたIndoor Air 2005(第10回室内空気質および気候に関する国際会議)に参加した。その発表件数は口頭発表とポスター発表を併せて934件(Indoor Air, 2005, 15(Sup.11)による)であった。

学会の主なテーマは、室内環境(温度快適性、生産性評価、経済評価、フィールド試験等)、汚染物質の発生源(バイオエアロゾル、チリ・粒子、カビ、環境タバコ煙、発生源およびシンク、臭気、殺虫剤等)、汚染物質の分布(室内汚染分布、モデリング等)、汚染物質のコントロール(空気清浄機、発生源制御、ビルディングデザイン、換気、政策、ガイドライン等)、健康影響(アレルギー・喘息、発がん、慢性呼吸器疾患、シックビルディング症候群等)の5つであり、同時進行的にこれらの分野における発表が行われた。

筆者は、ホルムアルデヒドの簡易放散量測定器に関する発表を行ったが、大変多くの質問を受け、その必要性を改めて強く認識した。また、発表に参加してもらえなかった人達にも、会期中を通して食堂や廊下などで宣伝して回り、様々な意見を得ることができた。筆者が主に参加したのは、汚染物質の発生源に関するセッションであるが、長期的な発生量予測に関していくつか興味深い発表が見られた。

また、テルペン類とオゾンの反応など二次生成に関する発表も多く、今後ますます注目されるテーマだと思われる。ただし、会議の全体的な印象としては、単に測定しただけの結果の発表や考察が十分とはいえない発表も多く、前回のIndoor Air 2002と比べると刺激される研究は少なかった。また、フォーラムでの議論を聞いていると、化学者(measurer & modeler)、建築屋、医療関係者などの間で相互理解が足りないことから議論がかみ合わないテーマも多く見受けられた。

今後、室内環境の研究においても、研究分野間の交流、情報交換などがさらに必要となっていくと思われる。そのような場面において異なる分野の研究者の間をつなぐ役割を果たすものとして、CRMのリスク評価研究の重要性が益々高まっていくと考えられる。



平成17年度 社団法人環境科学会 奨励賞受賞のことば
リスク管理戦略研究チーム チームリーダー 蒲生 昌志

このたび、社団法人環境科学会より奨励賞をいただきました。ご選考いただいた先生方および環境科学会の関係者の皆様に心よりお礼申し上げます。

受賞理由は、「化学物質の健康リスク定量評価に関する研究」が環境科学の発展に貢献する独創的な研究と認められたため、というものでした。私は、博士論文の頃から(当時の指導教官はCRMの中西センター長)、適切なリスク管理のためには、化学物質のリスクは相互に比較できるような形で評価されるべきであると考え、リスクを損失余命(寿命の短縮)という尺度で表現すること、また、影響の出現確率の推定に個人差の考え方を積極的に取り入れることに取り組んできました。

これまで、シロアリ防除剤クロルデンの禁止についてのリスクトレードオフの解析および日本における主要な環境汚染物質のリスクランキングを始めとして、苛性ソーダ製造の水銀電極法の禁止、また、ケミカルタンカーの乗組員の健康評価などの応用にもかかわりました。いまだ十分とは思いませんが、リスク管理における定量的なリスク評価の役割を社会や研究コミュニティに知らしめるのに、多少なりとも貢献できたと思っています。

リスクを高い精度で定量的に推定するためには、これからも多々やるべきことがあります。一方で、最近は、リスク評価の結果を使っていかに上手に意思決定するかという問題にも興味が出てきました。リスク評価には不確実性がつきものですが、それを単にリスク評価の限界として捉えるのではなく、不確実性を前提として、リスクの過大評価と過小評価のバランスをとった意思決定を行なう考え方を示していきたいと思っています。そのためには、定量的なリスク評価の必要性はさらに増加しますし、不確実性解析や社会経済分析といった要素の重要性もこれまで以上に高まるものと考えられます。

今回奨励賞をいただいて認識を新たにしたのは、自分の研究が周囲の関心を集め、少なからずの期待を受けているということです。単純に嬉しいというより、むしろ自分が期待に応えられるだろうかと身の引き締まる思いがします。ただ、少なくとも一つ言えることは、リスクを定量的に評価して管理するという考え方が、環境科学における一つの研究の流れとして認識されてきたということであり、この点については、大変喜ばしいことだと思っています。これまでご支援をいただきました多くの皆様に、深く感謝いたします。


化学物質リスク管理研究センター

独立行政法人 産業業技術総合研究所