− 新研究員紹介 −
−社会での技術の利用をどう律するのか− 北海道大学公共政策大学院 倉田 健児
客員研究員
これまでの私の職業経験の大部分は、行政官としてのそれだった。特に、技術に関連し、また、技術を背景とした政策の企画・立案、実施に携わることが多かった。
こうした職業経験をとおし、いつの間にか私の心の中を一つの疑問が占めるようになってきた。それは、我々が生きるこの社会において、我々が生きる上で欠くことのできない様々な技術の利用を、我々はいかに律すべきか、ということだ。
若干の背景を述べておきたい。現在の我々の生活は、技術によって支えられている。人間が生存していく上で不可欠な食料やエネルギーの供給はもちろんのこと、空調の効いた部屋、自らの足を動かすことのない目的地への移動、遙か彼方にいる友との臨場感溢れるコミュニケーションなど、技術は我々の生活を豊かで快適なものとする上で、欠くことのできない存在となっている。
我々がより豊かで快適な生活を望む限り、この目的を叶えるために新しい技術が開発され、そして我々の生活へと導入され続けていくだろう。その一方で、技術に対する忌避とでもいうべき感情が社会の中から湧き出してきているのではないか、との印象を行政に携わる身として強く抱くようになった。
技術の利用によって人の生命、健康、自然環境に悪影響を及ぼすのではないかとの懸念、さらには新たな技術の利用は既存の社会秩序や慣習、通念とは相容れないのではないかとの想い、こうしたことを背景に、技術の社会での利用に対し様々な議論が交わされるようになってきている。CRMが主な研究対象としている化学物質のリスクに関しても、同様のコンテクストの中で熱い議論の対象となっている。
私自身は、社会での技術利用のあり方は、技術が利用される社会において、様々な個人の価値観の集積であるその社会総体としての意思決定に委ねられるべき、との考え方が基本ではないかと考えている。
その一方で、こうした決定は、科学的事実に基づく論理的思考、すなわち科学的方法に基づいて導出される事実および事実解釈を踏まえてなされることが望ましいとも思う。ただ残念ながら、科学的方法が方法論として確立しておらず、また、結論の再現性が乏しいなど科学的方法そのものに問題がある場合も多々存在するのではないか。
先に触れた考え方の基本はそれとして、社会での技術の利用をどう律するのかと具体的に問われると、現段階ではこれ以上の答えは見いだせていない。今般、20年余の行政官としての勤務の後に、大学への出向という機会に恵まれた。さらに、CRMにも籍を置かせていただくという幸運に恵まれた。この機会を活かし、先の問い、社会での技術の利用をどう律するのかを、CRMの中で考えてみたい。
【略歴】
・1984年 慶應義塾大学大学院工学研究科修士課程修了
・1984年 通商産業省入省
・1990年 ノースカロライナ州立大学客員研究員
・2001年 京都大学大学院エネルギー科学研究科博士後期課程修了
・2005年 北海道大学公共政策大学院教授
リスク解析研究チーム 研究員 牧野 良次
横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程において経済学博士の学位を取得した後、CRMにおいて第一号非常勤職員(PD)として、1,4-ジオキサン詳細リスク評価書の作成に従事してきました。 CRM入所以来、自然科学系の研究員の皆さんとの議論を通じて、日々大きな刺激を受けております。自己の専門分野である経済学を中心にしつつも、他分野の知識・思考法を積極的に吸収し、リスク評価書の作成やリスク管理政策の立案などに貢献したいと考えています。
リスク解析研究チーム 外来研究員 石上 愛
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程に在籍中同研究科の助手を務めた後、今年度より日本学術振興会特別研究員として、環境と健康の空間的共変動に関する研究に取り組んでいます。またCRMでは、リスク解析研究チームの一員として、主に空間情報科学的な視点から、GISを用いた暴露およびリスク詳細化手法の開発に参画します。このニュースレター読者のみなさんと同様に、私自身、CRMの継続した活発な研究成果にはいつも刺激をうけています。これからも、可能な限り定量的にリスクを評価・予測し、その限界や不確実性を示すと同時に、実社会での観測データや意思決定との接点を忘れず、積極的に取り組んでいきたいと考えています。
健康リスク評価チーム 特別研究員 鈴木 一寿
東京工業大学大学院において原子核工学を専攻し、プルトニウムの内部被曝線量評価に関する研究で学位を取得しました。保健物理学分野で使われる呼吸気道モデル等を応用して、CRMでは、浮遊粒子状物質の体内動態予測モデルを開発し、これを活用した化学物質のリスク評価システムの構築に取り組みたいと思います。
環境暴露モデリングチーム 特別研究員 樊 g (Fan Qi)
出身は中国の江西省で、中国中山大学環境科学工程学院大気科学系において、数値シミュレーションによる霧の解析で理学博士の学位を取得し、その後中山大学大気科学系の教員として1年あまり勤務しました。CRMでは、環境暴露モデリングチームの一員として、AIST−ADMERの中国への適用の研究を行っていきます。