社会経済分析ガイドラインの作成 リスク管理戦略研究チーム 岸本 充生
化学物質のリスク管理を適切に行うために必要な社会経済分析の方法を簡単に解説したガイドラインとデータベースをCRMホームページ上に作成している。
トップページの左半分は、費用と効果の計算および集計方法のガイドライン、右半分が各種データベースになっている。データベースは、死亡影響や非死亡影響に関する健康改善効果を金銭や時間の単位で定量的に表現するための係数を既存研究から収集したものである。
文書としてのガイドラインは欧米でもいくつか存在するが、使いやすさと各種情報へのリンクを併用することができるメリットを考え、ディレクトリ型のものを試みた。
社会経済分析は今後、規制影響分析(RIA)の中でも利用されることが予想され、必要性はますます高まるだろう。そのため現在、RIAデータベースを作成中である。
ここでは、RIAを行うにあたって、欧米で過去に行われた類似の対象についての解析を参考にできるように、ジャンルごとにまとめている。米国では20年以上の歴史を持つRIAは、日本でも2004年から試行期間が始まっており、半年で40数件のRIAが実施された。RIAの実施は近いうちに義務化されることになっている。
国際学会参加報告
欧州環境毒性化学会(SETAC Europe)年次総会 生態リスク解析チーム 石川 百合子
2005年5月22日〜26日、フランス北部のリールで開催された欧州環境毒性化学会(SETAC Europe)年次総会に参加した。全体の発表件数は、口頭発表427件、ポスター発表1,100件であった。
生態影響に関する研究発表が半分以上を占めており、その他に暴露評価、金属や残留性有機汚染物質(POPs)、医薬品についてのリスク評価、ライフサイクルアセスメント(LCA)などの発表があった。ヒト健康影響に関する発表件数は、全体の1割にも満たなかった。
基調講演は3件あり、複合的なリスク評価のアプローチや、欧州連合(EU)を中心としたリスク評価および管理における多国間の取り組み(REACHなど)の現状を紹介したものであった。
セッション別の研究発表では、主に、化学物質の暴露評価モデルに関するものを聴いた。モデリングやデータ管理に関して、地理情報システム(GIS)を活用した事例研究が多く、CRMでもGISをどのように取り入れていけばよいかを考えるヒントが得られた。
ヨーロッパでは、暴露評価のための気象や地理情報、排出量のデータを多国間で共有する必要があるため、合理的かつ効率的にデータを管理することに関心が払われているようであった。
ポスター発表は、国際会議場の正面入り口に近い広間のラウンジで行われた。ポスターのパネルがジグザグに設置されていたため、隣の発表者と対面する形になり、さらに、数人のお客さんが来ると、圧迫されて、少々居心地が悪かった。
筆者は、昨年9月に公開した産総研−水系暴露解析モデル(AIST−SHANEL)について、モデルの概要と多摩川における事例研究について発表した。隣では、ヨーロッパで有名な河川モデルGeo-referenced Regional Exposure Assessment Tool for European Rivers(GREAT−ER)に関する地形データの解析研究の発表を行っており、ヨーロッパの研究者の関心が集まっていた。
隣のポスターには、次々とたくさんのお客さんが来るので、筆者は自分のポスターから遠ざかることになってしまい、初めのうちは、GREAT-ERはEUが河川流域全体のリスク評価のためにGISベースで国際的な共同研究プロジェクトとして開発したモデルなので仕方がないと思ったが、AIST−SHANELについても知ってもらおうと、隣のポスターを見終わった人に積極的に声をかけて説明した。
AIST−SHANELが時空間的に詳細な水系暴露濃度を求めることができ、さらに、生態リスク評価やリスク削減対策評価まで行える世界で唯一のモデルであることを伝えた。投げかけられた質問の多くは、入力データの操作方法に関するもので、水系モデルを普及させるためには、入力データの操作や管理が簡単であることも重要であることを実感した。