伊有害大気汚染物質自主管理計画の実績と今後の取り組みについて
経済産業省化学物質リスク評価室長  獅山 有邦


◆有害大気汚染物質自主管理計画の経緯

平成8年5月の大気汚染防止法改正において、有害大気汚染物質対策についての事業者の責務が追加されたことにともない、通産省と環境庁(当時)が関係業界団体に対し、有害大気汚染物質の自主的な削減を図る「自主管理計画」の策定を要請した。

関係業界団体の「自主管理計画」の進捗状況については、産業構造審議会有害大気汚染物質対策WG(座長:中西準子)において、チェック&レビューを毎年度行ってきた。

平成15年度で第2期自主管理計画が終了したことをうけ、第8回有害大気汚染物質対策WG(平成17年5月12日開催)において、これまでの有害大気汚染物質自主管理計画の評価が行われ、有害大気汚染物質自主管理に係る今後の取組について審議・とりまとめが行われた。

自主管理計画参加団体は74団体、対象物質は12物質である(アクリロニトリル、アセトアルデヒド、塩化ビニルモノマー、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、ジクロロメタン、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、1,3-ブタジエン、ベンゼン、ホルムアルデヒドおよび二硫化三ニッケル・硫酸ニッケル)。

◆第2期自主管理計画の実績と評価

表1に示したように、個別物質毎の総排出量において、全12物質が平成15年度目標を達成し、全12物質の総排出量についても、平成15年度目標を大幅に達成した。

(独)産業技術総合研究所化学物質リスク管理研究センター(CRM)において、環境中濃度予測モデル(AIST−ADMERおよびMETI−LIS)を活用した暴露評価が、有害大気汚染物質12物質のうちニッケルを除く11物質を対象に実施され、「高濃度となる場所は、ほとんど全ての物質で特定事業所の敷地内か極近傍である。

また、自動車など事業所以外の発生源が支配的な物質もあり、事業所からの排出の寄与は全体的に低いと言える」との評価結果が示された。

さらに、・大気環境濃度の推移、・環境基準値・指針値等と環境モニタリングデータとの比較、等から、事業者の自主管理計画に基づく有害大気汚染物質対策として、多様かつ多数の事業者が様々な手法により排出削減の取組を柔軟に進めた結果、大気環境濃度の平均が3年間を通して改善傾向にあり、最終的には目標を上回る削減を達成するなど、第1期自主管理計画に続き大きな成果を上げたものと評価された。

表1 有害大気汚染物質第2期自主管理計画の実績

◆有害大気汚染物質自主管理に係る今後の取組

有害大気汚染物質自主管理に係る今後の取組については、以下の理由により、これまでのように全国一律に業界単位等で削減取組を実施する意義は薄れており、個別企業毎に取組をフォローする方が効率的であるとの基本方針が示された。

1) モニタリングデータ、暴露評価の結果から、環境基準値 等を超える地点は大きく減少、さらに、2年続けて環境 基準値等を超える地点は更に少なくなっている。

2) 平成13年度から実施されているPRTR制度により日本全  国における個別企業ごとの排出地点、排出量を把握する  ことができるようになった。

3) 平成17年度から新たにVOC規制が始まり、VOC全体と  して2010年までに30%の削減が求められており、有害  大気汚染物質のうちニッケル化合物*を除く11物質は  VOCの対象となっているため、削減の取組は引き続き行  われることが予想される。

*ニッケル化合物については対象となる企業が限定されるため、個別対応が 可能と考えられる。

◆今後のフォローアップ

今後は、業界単位の管理目標値の設定と実績評価にかえて、PRTRデータを活用し、対象物質別に(例えば、総量、業種別に)排出量を分析し、平成17年度末に公表される平成16年度PRTRデータの分析結果から毎年、産業構造審議会で報告することとしている。

リスク評価手法の開発、リスク評価書の策定とともに、行政、事業者および市民が活用できるリスク評価支援ツールの開発と公表はCRMの掲げる重要な課題です。既に、化学物質の大気中濃度を推定し、暴露評価を行なうAIST−ADMERとMETI−LISが公開されていますが、このリスク評価支援ツールを用いてCRMが実施した有害大気汚染物質暴露解析が、事業者が実践してきた有害大気汚染物質の自主管理対策の評価に適用されました。

これからも、環境行政における自主管理の促進にCRMの開発したリスク評価ツールが役立つよう、既存のツールの普及と新たなツールの開発を推進していきたいと思います。


化学物質リスク管理研究センター

独立行政法人 産業業技術総合研究所