− 国際学会参加報告 −


環境毒性化学会(SETAC)第4回世界会議環境暴露モデリングチーム 井上和也 



11月14日〜18日、米国オレゴン州ポートランドで開催された環境毒性化学会(SETAC, Society of Environmental Toxicology and Chemistry)第4回世界会議にCRMから内藤航、東野晴行、石川百合子、井上和也の4名が参加した。この会議での発表件数は、口頭発表881件、ポスター発表1,323件(abstract bookによる)と膨大な数にのぼっていたが、その大半は水系における生態影響を論じたものであり、著者の関心の高い大気汚染物質のヒトへの影響を扱った発表は、きわめて少なかった。

CRMからは、日本における、フタル酸ジ(2‐エチルへキシル)のヒトおよび生態リスク評価、ベンゼンの暴露評価およびジクロロメタン暴露による健康影響リスクに関する研究、並びに水系暴露評価モデルAIST-SHANELの開発に関する発表を行なった。 

全体的な会議の印象としては、著者の専門外であるものが多かったため学問的価値の判断は難しいが、少なくとも、発表そのものについてはいずれもよく洗練されたものばかりであり、大いに感銘を受けた。 

筆者は、ジクロロメタン暴露による日本人の健康影響リスクについてポスター発表を行なった。当日は、セッション開始と同時に、次々と来客があり、「これは盛況になりそうだぞ」と一瞬期待したが、残念ながら、数分で来客はぱたりと途絶えてしまった。参加者の興味も、やはり水系における生態影響が主流であると感じた。しかし、数分間ではあったが、世界の研究者と同じテーマについて議論できたことは、今後の研究活動にとって大きな刺激になった。 

最後になったが、本会議では、当センターの内藤研究員が会議の運営委員として、早朝から深夜に至るまで精力的に活動していたのが印象的であった。このような研究者の努力がなければ、到底今回のような大規模な会議は支えられないであろう。内藤研究員をはじめ、会議の運営にご尽力なされた方々に敬意を表したい。


欧州リスクアナリシス学会(SRA Europe)年次総会リスク解析研究チーム 小野恭子 



11月15〜17日、フランス、パリで開催された欧州リスクアナリシス学会 (SRA Europe, Society of Risk Analysis Europe) 年次総会にCRMから岸本充生、小野恭子の2名がそれぞれ「日本における有害大気汚染物質自主管理計画」および「カドミウムの物質フロー」と題したポスター発表で参加した。この学会は、これまでCRMの行っているリスク評価・管理研究とは異なるスタイルのリスク研究の場であったが、リスク研究の奥の深さを改めて実感した。 

"I'm sorry, I'm an engineer...."開会のセッションでこのような発言をたびたび耳にした。この学会の特徴をこの一言がよく表している。たしかに、以降の発表では、"engineer"が専門とする、現場における実証的なデータを用いた定量的なリスク評価を行った研究や、リスク削減技術やリスク評価手法の開発に関する発表はほとんどなく、「人はリスクにどう対処するか」を研究するリスク認知研究、それに関連した事例研究、リスクに対処する枠組みをヨーロッパとしてどのように構築するかを考えるもの(これは研究の域にはまだ達していないようだが)の3つの領域に大別される研究の発表が主流であった。「民主的な意思決定」、「参加」、「規範的な」という言葉がよく聞かれ、未来像を熱く語る研究者もおり、ヨーロッパ社会を引っ張ろうという自負が感じられた。 

研究対象は原子力発電、地球温暖化による海面上昇、遺伝子組換え食品、医療事故、災害(化学プラントの地震や火災による損害)などが多く、これらの不確実性は化学物質暴露による不確実性とは比較にならないくらい大きい。このようなリスクがヨーロッパ社会における主要な関心事であること、そして日本も、やがてこれらのリスクに対応する知恵が求められる時期が来ることを強く感じた。

また、会期中知り合った研究者たちは、社会心理学、心理学のバックグラウンドを持つ研究者が多かった。日本でも、このような分野の知見がリスク研究に果たす役割が大きくなっていくのか、それとも別のアプローチが主流になるのかはまだ分からないが、今回の学会への参加は、CRMとしての今後の方向性を考えるよいきっかけであった。


化学物質リスク管理研究センター

独立行政法人 産業業技術総合研究所