━ 市民が活用できる環境リスク情報提供を ━

環境監視研究所
特定非営利活動法人有害化学物質削減ネットワーク(Tウォッチ) 

中地 重晴


多くの市民が化学物質に対し漠然とした不安を感じ、ゆとりある社会の実現をさまたげていると言われている。これまで社会が化学物質をどう管理するかは、もっぱら行政、産業界、研究者など専門家と呼ばれる人たちに委ねられてきた。

最近、原発の検査結果の隠蔽、事故隠しや食肉偽装事件、未認可食品添加物の使用事件など、大企業でも管理体制が不十分であったことが明らかになった。そうした現状の中で、市民が積極的に化学物質による環境リスクを把握し、その管理に参加することで、暮らしの中の有害化学物質を減らし、ひいては地球全体の環境リスクの削減に向け行動することが求められている。 

環境中への化学物質の排出・移動量を集計公表するPRTR制度も施行されて4年目を迎えた。本年度からは届出対象事業者の猶予期間も過ぎ、本格運用が始まった。筆者らはPRTR情報公開データを市民生活に役立たせるためにNGOを結成し、事業者からの届出データの検索が容易にできるウェブサイトを運営している。 

過去2年分の集計データが公表されたが、市民の関心は今ひとつといえる。PRTRデータや環境モニタリング結果などを二次加工し、環境リスク情報を提供しているウェブサイトは、CRMはじめ、国や地方自治体、その研究機関などかなりの数になる。カウンターなどからみれば、どのサイトもまだまだアクセス数が少ないといえる。 

なぜ、市民の関心を呼ばないのか。その理由は、市民には内容がわかりにくく、難しすぎるように思う。よく、市民に科学的リテラシーがあるのかという問いかけがなされるが、それを向上させる機会が学校教育を含めた現行の制度では不十分である。環境教育の取り組みは、学校教育だけでなく、社会教育としても必要である。

市民と事業者、行政の間でリスクコミュニケーションを図るとすれば、認識の共通化、同じ土俵で意見が言い合える関係が求められている。環境リスクをどのように市民にわかりやすく情報提供していくかは、研究者や市民活動体にとって、大きな課題だといえる。 

今まで「よらしむべし、知らしむべからず」と市民に対する説明責任が希薄だった日本において、市民向けPRTR情報提供活動を通じ、有害化学物質の排出量だけでなく、使用量の削減にも結びつけていきたいと考えている。


化学物質リスク管理研究センター

独立行政法人 産業業技術総合研究所