研究 Reaserch
検出器ベースの光放射標準の源流となる高精度光パワー測定に関する研究
光度や照度、光束、照度応答度といった測光量では、絶対放射束(W)を源流とする校正体系が構築されています。絶対放射束(W)は、入射光を高効率に吸収する黒色面と測温素子、電気抵抗器などから構成される受光キャビティを液体ヘリウム温度で動作させる電力置換型極低温放射計を用いて測定します。光吸収と電熱とによる温度上昇を極低温下で比較することにより、電力(W)に基づく高精度な放射束計測が可能です。
これまで、入射レーザ光の高品質化や入射窓透過率測定方法の開発などを行い、絶対放射束計測の高精度化を進めるとともに、分光応答度(A/W)など下流の検出器標準に繋ぐためのトラップ型光検出器の開発を行ってきました。現在は、極低温放射計に基づく高精度放射束応答度測定装置を長期的かつ安定に運用するため、機械式冷凍機に基づく極低温放射計の技術開発に取り組んでおり、将来的な校正装置の置き換えと高精度化を目指しています。
- 成果発表:2020年度 NMIJ成果発表会「低温放射計の改善に向けた取り組み」

光源の高精度な特性評価に向けた研究
照明やディスプレイなどで用いられる光源の研究開発・利用においては、光源効率の評価に欠かせない全光束や分光全放射束、光源からの光の広がりを表す配光など、光源の特性を正確に評価することが重要となります。とくに、LEDやOLED等の新規光源は配光や分光分布等の光学的特性が従来光源とは大きく異なることから、正確な評価を可能にするための新しい計量標準の確立と高精度な計測技術の開発が求められています。
そこで、既存の配光測定装置にマルチチャンネル型分光器を導入した分光配光測定装置や、分光式球形光束計を用い、光源の測光・放射測定に関する高精度な計測技術の開発、および、光源評価技術を応用した新規仲介用標準器の研究開発を行っています。 近年では、LEDの全光束、分光全放射束評価のため、日亜化学工業(株)との共同研究により、可視域全域の分光測定に適した新しい標準LEDの開発や、既存の標準電球を代替する全方向に光を放射する標準LEDの開発を行っています。
- 産総研プレスリリース:LEDを用いた全方向に光を放射する新たな標準光源を開発 - 100年の歴史を持つ標準電球への挑戦 -
- 産総研プレスリリース:可視光全域の波長をカバーする、世界で初めての標準LEDを開発
- 論文発表:Yuri Nakazawa, Kenji Godo, Kazuki Niwa, Tatsuya Zama, Yoshiki Yamaji and Shinya Matsuoka "Establishment of 2π total spectral radiant flux scale with a broadband LED-based transfer standard source" Metrologia, Volume 57, Number 6, 065024 (2020).
- 論文発表:Y. Nakazawa, K. Godo, K. Niwa, T. Zama, Y. Yamaji, S Matsuoka "Development of LED-based standard source for total luminous flux calibration" Lighting Research & Technology, Vol 51, Issue 6, pp.870-882, 2019
- 成果発表:2020年度 NMIJ成果発表会「産総研における高精度配光測定の実現に向けた取り組み」

紫外LED放射の精密測定技術の開発
近年、紫外LED光源の産業ニーズが、殺菌、水処理、紫外線硬化、 非破壊検査、皮膚治療等の様々な用途で増加しています。それら紫外線照射工程では照射面での放射照度が重要となります。
しかし、光源のスペクトルや測定距離の違いが測定値に影響することから、これまで紫外光源の高精度な評価は困難でした。当グループでは、保有する光センサの評価技術を活用して、紫外LEDの放射量の高精度評価技術を開発に取り組んでいます。
- 論文発表:木下 健一, 神門 賢二, 宮坂 勝也, 利根 俊文, 長沼 孝夫, 芹澤 和泉 「正確な紫外発光ダイオードの評価に向けたスペクトルミスマッ チング補正の重要性を検討した紫外放射照度計の比較検証」光学 49, pp.381―387, (2020)
- 成果発表:2018年度 NMIJ成果発表会「UV-LED評価のための近距離放射照度計測の改善」
- 成果発表:2017年度 NMIJ成果発表会「紫外LED製品の信頼性向上のための紫外放射照度校正」

紫外放射照度計および殺菌用紫外光源の特性評価技術
ポストコロナの新しい生活様式を目指し、ウイルス不活化を目的とした紫外照射光源の開発が盛んになっています。一方で、紫外放射は人体に有害であるため、光源の特性や照射量に注意が必要です。しかし、これらの波長域の多様な紫外光源を測定するための計測器の開発は十分とは言えません。
そこで、市販の紫外放射照度計を国家標準を用いて評価し、計測上の課題の洗い出しを行っております。さらに、適切な計測を行うための実用計測技術の開発を行っています。
シリコンフォトダイオードの応答非直線性とその波長依存性に関する研究
光減衰器などの光デバイスの性能評価(減衰や反射率など)には光パワー測定だけではなく、広いパワー範囲測定できるシリコンフォトダイオード(Si PD)の様な光センサーの応答非直線性を高精度に評価する必要があります。
応答非直線は、光を二つのパスに分け等しいパワーになるように調整し、光センサーに二つの光を同時に入射させて測定した場合と 個々に測定した場合の出力和の比を測定します。そして、任意のパワー範囲に対して、この比を測定することで取得できます。
取得したSi PDの応答非直線性は、可視光から近赤外波長帯で数%~十数%まで変化しており、強い波長依存性を示すことが分かっています。この様な非直線性の発生原因をモデル化した理論との比較検討も進め、波長依存性の理論的な予測や、光センサーの性能向上にむけた技術開発を行っています。
- 成果発表:2020年度 NMIJ成果発表会「測光用光センサの応答非直線性の評価」
- 論文発表:田辺稔, 木下健一「測光用光センサのオーバーフィル照射における応答非直線性の評価法の確立」照明学会誌, 103-6, pp.208-211
- 論文発表:田辺稔, 木下健一「シリコンフォトダイオードの応答非直線性の波長依存性」照明学会誌,101-6,pp.234-238
- 論文発表:M. Tanabe, K. Kinoshita "Supralinear behavior and its wavelength dependence of silicon photodiodes with over-filled illumination in visible range" Applied Optics Vol. 57, Issue 13, pp. 3575-3580 (2018)
- 論文発表:M. Tanabe, T. Zama, H. Shitomi "Experimental validation of nonlinearity suppression for an inverse-layer-type silicon photodiode and its prediction based on theoretical modeling" Applied Optics Vol. 56, Issue 21, pp. 5804-5810 (2017)
- 論文発表:M. Tanabe, K. Amemiya, T. Numata, D. Fukuda "Spectral supralinearity of silicon photodiodes in visible light due to surface recombination" Applied Optics, Vol. 55, pp. 3084-3089 (2016)
- 論文発表:M. Tanabe, K. Amemiya, T. Numata, D. Fukuda "Spectral supralinearity prediction of silicon photodiodes in the near-infrared range" Applied Optics, Vol. 54, 10705-10710 (2015)
- 論文発表:田辺 稔 "光センサーの応答非直線性の高精度計測-光デバイスの信頼性を支える計測技術-" 産総研TODAY VOL.14-10 2014
- 論文発表:田辺 稔 "光パワーメータの応答直線性校正の波長広帯域化に関する調査研究" 産総研計量標準報告 Vol. 8 No. 3 p.349-365 (2011)
レーザーディスプレイ・照明における放射輝度・放射照度の評価法の開発
レーザー光は、LED に比べて波長幅が狭く、その3原色を組み合わせることで広い色域を実現できます。このため、レーザーディスプレイやレーザー照明などへの活用が期待されています。この分野では、単位面積や単位立体角あたりの放射量(放射照度や放射輝度)の評価や、レーザー光の強度の測定が必要です。従来の方法では、レーザー光に最適化された放射量の評価や、人の目が感じる程度の広い光強度範囲での評価を実現できませんでした。そこで、光放射に関する国家標準を用いて、これらを評価できる新たな評価技術を開発しました。
- 成果発表:2020年度 NMIJ成果発表会「レーザーディスプレイ・照明における放射輝度・放射照度の評価法の開発」
- 論文発表:M. Tanabe, K. Kinoshita "Absolute irradiance responsivity calibration using diode lasers emitting at three wavelengths for tricolor laser applications" Optik Vol. 202 1636532 (2020)
- 論文発表:田辺稔, 木下健一「単一波長光源を用いた放射照度応答度評価システムの開発」光学, Vol.46, pp.201-209 (2017)
三次元反射・透過計測システムの開発
物体の色や見え(Appearance)は、印象や好ましさといった主観を与える大きな要因であり、再現性の高い色や見え方の定量評価技術の開発は、様々な生産の現場での共有の課題となっています。近年特に、光の照射・観察方向によって色の変わる(Goniochromatism)材料など、特殊色彩効果を与える様々な材料の開発・普及が進み、三次元的な物体の反射・透過特性を高精度に評価する技術が求められています。
本研究で開発した、角度可変方式の分光測定に基づく、三次元反射・透過計測システムでは、BRDF(二方向反射率分布関数)に代表される、任意の入射角と受光角の条件における物体の反射および透過特性を、波長:360 nmから830 nmの可視域において高精度に評価するが可能です。
また、ガラスやフィルム類の光学特性評価や化学物質の定量分析等で用いられる分光透過率測定の信頼性を確保する一助とするべく、国際整合性が確保された高精度な絶対分光透過率測定技術の開発なども行っています。
- 成果発表:2018年度 NMIJ成果発表会「分光透過率測定システムの開発および材料の高精度光学特性評価」

積分球に基づく高精度絶対反射率測定技術
反射は最も基本的な光学現象の一つであり、物質の光学的評価において欠かせない要素です。特に、紫外域から近赤外域における分光拡散反射率測定は、物体色測定や分光分析などで広く用いられており、高精度かつ信頼性の高い測定が求められています。
産総研では、独自の絶対分光反射率測定技術として、積分球を用いた測定において最大の不確かさ要因である、積分球内面の反射率不均一性を従来型の約1/10程度まで低減した積分球を開発すると共に、積分球の不完全性に対する補正を加味した新しい測定法を開発しました。
この研究成果は、我が国の分光拡散反射率標準の確立に結びついており、基幹比較(CCPR-K5)によって確認された国際整合性を加えて、色彩関連産業での標準白色板のトレーサビリティの確保をはじめとする、様々な分光分析技術とその応用技術の信頼性を支える基盤となっています。
