研究 Reaserch

三次元反射・透過計測システムの開発

物体の色や見え(Appearance)は、印象や好ましさといった主観を与える大きな要因であり、再現性の高い色や見え方の定量評価技術の開発は、様々な生産の現場での共有の課題となっています。近年特に、光の照射・観察方向によって色の変わる(Goniochromatism)材料など、特殊色彩効果を与える様々な材料の開発・普及が進み、三次元的な物体の反射・透過特性を高精度に評価する技術が求められています。

本研究で開発した、角度可変方式の分光測定に基づく、三次元反射・透過計測システムでは、BRDF(二方向反射率分布関数)に代表される、任意の入射角と受光角の条件における物体の反射および透過特性を、波長:360 nmから830 nmの可視域において高精度に評価するが可能です。

また、BRDF測定の信頼性に関しては、分光拡散反射率に基づくBRDF標準の導出方法を新たに考案し、国際整合性が確保された国家標準(分光拡散反射率標準)に基づくトレーサビリティ体系を構築し、世界最高レベルの測定精度を実現しています。

光源の高精度な特性評価に向けた研究(応用放射計測研究Grとの連携)

照明やディスプレイなどで用いられる光源の研究開発・利用においては、光源効率の評価に欠かせない全光束や分光全放射束、光源からの光の広がりを表す配光など、光源の特性を正確に評価することが重要となります。とくに、LEDやOLED等の新規光源は配光や分光分布等の光学的特性が従来光源とは大きく異なることから、正確な評価を可能にするための新しい計量標準の確立と高精度な計測技術の開発が求められています。

そこで、既存の配光測定装置にマルチチャンネル型分光器を導入した分光配光測定装置や、分光式球形光束計を用い、光源の測光・放射測定に関する高精度な計測技術の開発、および、光源評価技術を応用した新規仲介用標準器の研究開発を行っています。 近年では、LEDの全光束、分光全放射束評価のため、日亜化学工業(株)との共同研究により、可視域全域の分光測定に適した新しい標準LEDの開発にも成功しています。

・可視光全域の波長をカバーする、世界で初めての標準LEDを開発(産総研プレスリリース

シリコンフォトダイオードの応答非直線性とその波長依存性に関する研究

光減衰器などの光デバイスの性能評価(減衰や反射率など)には光パワー測定だけではなく、広いパワー範囲測定できるシリコンフォトダイオード(Si PD)の様な光センサーの応答非直線性を高精度に評価する必要があります。

評価したSi PDの応答非直線性は、可視光から近赤外波長帯で数%~十数%まで変化しており、強い波長依存性を示すことが分かっています。この様な非直線性の発生原因をモデル化した理論との比較検討も進め、波長依存性の理論的な予測や、光センサーの性能向上にむけた技術開発を行っています。

・田辺稔, 木下健一 照明学会誌(掲載決定)
・M. Tanabe et al., Applied Optics, Vol. 55, pp. 3084-3089 (2016)
・M. Tanabe et al., "Applied Optics, Vol. 54, 10705-10710 (2015)
・田辺 稔 産総研TODAY VOL.14-10  2014

積分球に基づく高精度絶対反射率測定技術

反射は最も基本的な光学現象の一つであり、物質の光学的評価において欠かせない要素です。特に、紫外域から近赤外域における分光拡散反射率測定は、物体色測定や分光分析などで広く用いられており、高精度かつ信頼性の高い測定が求められています。

産総研では、独自の絶対分光反射率測定技術として、積分球を用いた測定において最大の不確かさ要因である、積分球内面の反射率不均一性を従来型の約1/10程度まで低減した積分球を開発すると共に、積分球の不完全性に対する補正を加味した新しい測定法を開発しました。これにより、波長250 nmから2500 nmの波長域での分光拡散反射率測定を世界最高レベルの精度で実施することが可能です。

この研究成果は、我が国の分光拡散反射率標準の確立に結びついており、基幹比較(CCPR-K5)によって確認された国際整合性を加えて、色彩関連産業での標準白色板のトレーサビリティの確保をはじめとする、様々な分光分析技術とその応用技術の信頼性を支える基盤となっています。

検出器ベースの光放射標準の源流となる高精度光パワー測定に関する研究

光度や照度、光束、照度応答度といった測光量では、絶対光パワー(W)を源流とする校正体系が構築されています。絶対光パワー(W)は、入射光を高効率に吸収する黒色面と測温素子、電気抵抗器などから構成される受光キャビティを液体ヘリウム温度で動作させる電力置換型極低温放射計を用いて測定します。光吸収と電熱とによる温度上昇を極低温下で比較することにより、電力(W)に基づく高精度な光パワー計測が可能です。

これまで、入射レーザ光の高品質化や入射窓透過率測定方法の開発などを行い、絶対光パワー計測の高精度化を進めるとともに、分光応答度(A/W)など下流の検出器標準に繋ぐためのトラップ型光検出器の開発を行ってきました。現在は、極低温放射計に基づく高精度光パワー応答度測定装置を長期的かつ安定に運用するための技術開発に取り組んでいます。