研究内容 Research

電気標準を利用した蓄電デバイス性能評価法の研究



  • 蓄電デバイスの劣化とインピーダンス評価イメージ

  • 開発中の電気特性評価システムと蓄電デバイス

最近、リチウムイオン電池や電気二重層キャパシタ等が社会普及し、注目されています。これらは蓄電デバイスと呼ばれ、市場の拡大が続いています。電気を大量に蓄え、しかも早く出し入れできる高性能蓄電デバイスの探求レースが、大学・企業・研究機関の間で繰り広げられてきました。これらの性能向上により、再生可能エネルギー発電における電力平準化への利用など、グリーンイノベーション実現の要となりうるからです。


  • 蓄電デバイス評価の基準となるキャパシタンス標準

  • 電気標準技術を基礎とした開発計画イメージ

その一方、リチウムイオン電池で発火事故が発生するなど、蓄エネルギーの高密度化に伴う危険性も無視できなくなっています。 最近では、デバイスの劣化を早期に検出できる技術への期待が高まっています。 劣化状況を精密に診断する技術として、電子顕微鏡や高輝度放射光による微視的評価がありますが、 この方法は、デバイスの分解が前提であるため、運用中のデバイスを逐次チェックするためには、 非破壊かつデバイスにとって負担の少ない評価法が求められます。 電気特性評価はこれに適しており、特に、微小な交流電気信号を与え、その応答をはかるインピーダンス評価法が有力な手段です。 しかし蓄電デバイスは、その性質上、非常に低いインピーダンスであり、測定が困難であることから、 劣化を早期に検出できる精密測定技術は未成熟の段階と言えます。産総研では、キャパシタンス標準を中心に、 低インピーダンスの標準と測定技術を開発してきました。 これらを基準とした、蓄電デバイスの電気特性評価を高精度化する研究開発を推進しています。

坂本 憲彦, 金子 晋久, スマートグリッド, 5巻3号, pp.34-38 (2015).
N. Sakamoto and H. Fujiki, CPEM 2014 Digest, pp.652 (2014).

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広帯域電力標準の研究

広帯域電力標準は、商用周波数帯からMHz帯までの電力計測の技術インフラとして開発を進めています。 EMC規制による高調波計測ニーズは基より、最近ではEVや分散電源の普及による主要部インバータからのスープラ高調波やリップルノイズ等、kHz~MHz帯の電力計測ニーズが注目されています。 この分野は欧米や中国での研究が中心ですが、広帯域の位相計測精度や分圧精度の向上は課題の一つとされています。 産総研では、この分野の標準化に向け、これまでにない発想より、1 MHzまでの位相計評価などの様々な研究成果を上げています。

T. Yamada, et al., IEEE Trans. Instrum. Meas. 73, 1500307 (2024).
T. Yamada, et al., IEEE Trans. Instrum. Meas. 70, 1503006 (2021).
T. Yamada, et al., IEEE Trans. Instrum. Meas. 70, 1500307 (2020).
T. Yamada, et al., IEEE Trans. Instrum. Meas. 68, 2021 (2019).
T. Yamada, et al., IEEE Trans. Instrum. Meas. 66, 1524 (2017).など

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ゼーベック係数の新規評価技術の開発

世界的に省エネニーズが加速する中、特にエネルギー利用の最終形態である「熱」の利活用は今後益々重要となると考えられます。 熱電変換は固体のゼーベック効果を利用した熱から電気への直接エネルギー変換技術で小型分散型発電として注目を集めます。 ゼーベック係数は温度勾配あたりの電気化学ポテンシャルの勾配と定義されます。したがってゼーベック効果による熱起電力は電圧計で測定することができますが、 試料とリード線の熱起電力の差となるため、トムソン効果の実験から熱起電力の絶対尺度を求める必要があります。 しかし、トムソン効果からゼーベック係数を求める手法は大変複雑なため学術的蓄積が限られています。 さらに、数少ない先行研究も物性評価としてアプローチされているものがほとんどで、計測手法の観点からの研究は限られてきました。

産総研では、独自に考案した新規測定手法を用いて、ゼーベック係数の評価研究に着手しました。 実効値の等しい交流信号と直流信号を試料に印可した擬一次元熱伝導をフーリエの式から厳密に解析し、 熱物性値、試料寸法、熱損失によらずゼーベック係数を導出可能な簡便で正確な新規手法を考案しました。 高精度な断熱式トムソン係数評価装置を製作し原理実証実験を進めています。

Y. Amagai, et al., Measurement 225, 114002 (2024).
Y. Amagai, et al., Measurement 205, 112205 (2022).
Y. Amagai, et al., Appl. Phys. Lett. 117, 063903 (2020).
Y. Amagai, et al., Rev. Sci. Instrum. 91, 014903 (2020).
Y. Amagai, et al., AIP Advances 9, 065312 (2019).
Y. Amagai, et al., IEEE Trans. Instrum. Meas. 64, 1576 (2015).など

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薄膜型サーマルコンバータの開発


  • 薄膜型サーマルコンバータ写真

  • 薄膜型サーマルコンバータ概略図

交流電圧標準を導く方法は、熱型の交直変換器(サーマルコンバータ)を用いて直流電圧標準と比較測定する交直変換方法です。交直変換器は交流電圧標準を導くために、各国標準機関で用いられています。このため、交直変換誤差が小さく、その評価が可能なサーマルコンバータの開発は、独立した標準機関としての役割を果たす上でも重要なテーマでありますが、製作可能な標準機関も少なく、安定に入手することは困難な状況です。加えて、従来のサーマルコンバータは、交流・直流電圧の入力ラインであるヒータ線と出力ラインの熱電対間の電気的結合により、交直変換誤差の値が高周波領域で、出力回路に依存して変化する問題がありました。産総研で開発したサーマルコンバータは、熱電対を従来のヒータ線に沿った配置から、入力Hiから離した零電位の入力ラインLo側に配置することで、入出力間の良好な電気的絶縁が得られ、高周波特性の再現性を大幅に改善することに成功しました。10 Hzから1 MHzの交直変換誤差は、世界のトップレベルにあります。現在、開発したサーマルコンバータ素子を市販化しており、国内の校正事業者と他国の標準機関10カ国以上に供給しています。

Y. Amagai, et al., IEEE Trans. Instrum. Meas. 72, 1003507 (2023).
Y. Amagai, et al., IEEE Trans. Instrum. Meas. 70, 1501707 (2020).
H. Fujiki, et al., IEEE Trans. Instrum. Meas. 68, 1921 (2019).
Y. Amagai, et al., IEEE Trans. Instrum. Meas. 68, 1907 (2019).
H. Fujiki and Y. Amagai, IEEE Trans. Instrum. Meas. 66, 1364 (2017).
H. Fujiki, et al., IEEE Trans. Instrum. Meas. 64, 1754 (2015).
H. Fujiki, et al., Synthesiology 8 127 (2015).
Y. Amagai, et al., IEEE Trans. Instrum. Meas. 64, 1570 (2015).
Y. Amagai and H. Fujiki, IEEE Trans. Instrum. Meas. 63, 3011 (2014).
Y. Amagai, et al., Electr. Eng. Jpn., 18, 3011 (2014).など

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熱電効果を利用した固体中の熱制御技術に関する研究


  • 「熱インダクタンス現象」の概念図(左)と、原理実証実験の結果(右)

通常、熱は高温から低温へ流れます。我々は熱伝導方程式に基づき、電流による固体材料中の熱の流れを理論的に解析し、熱が低温から高温へ局所的かつ過渡的に逆流する「熱インダクタンス現象」の発現条件を明らかにしました。 さらに、理論に基づき電流周波数を最適化することで、固体材料における熱の逆流を、熱電材料を用いて実験的に証明しました。 小型・集積化が進む電子機器では、性能劣化や故障を防ぐため、熱の制御が重要な課題となっています。 このような研究は固体材料の従来にない高度な局所的熱制御技術に道を拓くもので、これまで困難であった小型・集積電子部品内の熱が集中する箇所の効率的な局所冷却や放熱技術への応用が期待されます。

K. Okawa, et al., Commun. Phys. 4, 267 (2021).

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ダイヤモンド量子センサを利用した精密電流計測

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、分散型電源やインバータの大量導入が見込まれています。これらの機器を効率的に利用するためには、それぞれの機器の状態を正確に把握し、精緻に制御する必要があります。そのため、正確な電力評価のための精密電流計測技術が求められています。ダイヤモンド中の格子欠陥である窒素空孔中心(NVセンター)は、外部磁場によって電子のスピン状態が分裂するため磁気センサとして利用することができます。我々はNVセンターを磁気センサとするダイヤモンド量子センサを、従来の精密電流計測技術である電流比較器に導入することで電流計測の高度化を目指す研究を進めています。

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