電子・イオン3次元運動量同時計測装置
 更新 2011/2/23

物質の構造や電子状態を調べる手法として光電子の角度分布を測定することが広く行われている。 固体の場合は試料の方向を定めた光電子の角度分布を測定することが当然のようになされている。 分子の場合には、分子が自由に回転するので、分子の方向を定めて測定することは不可能と考えられてきた。 そのため分子の方向を360度で平均した角度分布がもちいられてきた。 しかし、分子の方向を定めないと理論との精密な比較ができず、分子の性質を探求するのに不十分である。 そこで、個々の分子の方向を定めた光電子の角度分布を測定する手法を開発してきた。  分子の方向は、光電子を放出した分子が解離して生成するイオンに着目し、イオンの方向を測定することによって決定できる。 したがって同じ分子から生成される電子とイオンの運動量を測定することによって、分子の方向を定めた光電子分光を実現できた。 図1に測定原理の概略図を示す。光を吸収した分子から放出される電子は左側に、イオンは右側に電界と磁場によって集め、 超高速2次元検出器によって到達位置と時間を計測する。この測定位置と時間から個々のイオンや電子の運動量 (運動エネルギーと放出方向)を導き出すことができる。これにより方向の定まった分子から放出される 光電子の方向を求めることができる。1分子での測定結果を集めて光電子の放出分布を得る。

 図2に方向を定めた二酸化炭素分子(CO2)のC1s軌道から放出される光電子の角度分布の一例を示す。 励起光は、320eVの軟X線で、水平に直線偏光している。このときに分子が偏光方向と同じ方向に向いている場合と 垂直に向いている場合の光電子の角度分布を極座標で表している。分子の方向と励起光の偏光方向によっ て光電子の放出角度分布が大きく変化するのがわかる。これは、分子と偏光との関係による光電子の運動量と光電子が 放出原子の周りの原子に散乱されてから放出されることに起因する。電子が分子から放出されるときには、 直接放出される場合や隣接した原子によって散乱されてから放出される場合があるため、角度分布は、分子の構造、 分子の振動モード、分子内のポテンシャル、光電子のエネルギーなどを反映する。 したがって、分子内の特定の原子からの光電子を観測することにより、分子内の特定原子周辺の構造を知ることが可能となる。 クラスターの構造解析等への応用が期待される。


図1a 電子・イオン3次元運動量同時測定装置の概略図


図1b 電子・イオン3次元運動量同時測定装置の写真


図2 方向を定めた二酸化炭素分子(CO2)のC1s軌道から放出される光電子の角度分布。励起軟X線のエネルギーは320eV。

AIST Today 2004年11月号 トピックス