AISTANS紹介・研究概要
産業技術総合研究所(産総研)は,新構造材料技術研究組合(ISMA)に参画し,自動車などの輸送機器の抜本的な軽量化を目指した新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業【革新的新構造材料等研究開発】の下で,2017 年度より産総研つくばセンターにて,小型電子加速器中性子源の開発,および,産総研中性子解析施設(AISTANS, Analytical facility for Industrial Science and Technology using Accelerator based Neutron Source)の構築を進め,2019 年度に最初の中性子ビーム発生に成功して,材料分析に供しています.
自動車などの輸送機器の軽量化は省エネ化社会の実現に直結します.軽量化のために,鉄鋼などの構造材料の高性能化や,一つの部材に複数の材料を用いるマルチマテリアル化のための高度な接合技術が求められています.そのためにさまざまな材料分析手法が利用されていますが,材料を壊さずに内部の情報を得る非破壊分析手法の重要性が高まっています.中性子はX線と同様に物質透過性に優れたプローブとして知られています.中性子はX線と比較して,金属をより透過し,樹脂をより透過しない特徴があるため,両プローブを複合的・相補的に使うことでより優れた分析が可能になります.自動車等に用いられる構造材料,接着・接合技術の高強度化やこれらの結果を基にした車両重量の抜本的な軽量化に貢献することを目的に,中性子解析装置の開発と分析法の研究を進めています.
AISTANS(装置/施設)の概要を図1,2に,仕様を表1,2に示しました.加速器からの高エネルギー電子ビームを金属ターゲットに照射して,高エネルギー中性子を発生させます.材料評価に適した低エネルギーの中性子を得るため,ターゲット周辺に設置した減速材(固体メタン)を通して中性子速度を減速します.こうして得た低エネルギー中性子は,計測ビームラインを飛行して試料に照射されます.試料背後に設置した二次元検出器で中性子の透過率を計測することで,非破壊イメージングをすることができます.ところで,中性子は,粒子と波の両方の性質を有しています.中性子の波長を選別して透過率を計測し,そのデータを解析することで,結晶情報(結晶子サイズ,ひずみの大きさ,結晶配向性等)をイメージングすることができます.これまでに,1メートル程度の大型試料を非破壊イメージングする技術,引張試験下および昇温下における接着剤部材の評価技術(図3),異種接合材内部の非破壊3次元可視化技術等を開発し,材料評価に利用しています.また,中性子とX線CT測定が可能で相補的に利用できる環境を整えています.なお,AISTANSの開発は,東京工業大学と高エネルギー加速器研究機構と協力し,ISMAでの中性子を用いる簡便な構造材料解析技術を開発は,北海道大学の小型中性子源(HUNS)と理化学研究所の小型中性子源(RANS)と協力して進めています.
ISMAプロジェクトは2022年度末に終了しましたが,開発したAISTANSや非破壊計測技術は,産業界が有する広範な課題解決のために今後も使用されます.
エネルギー | 40 MeV (最大) |
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ビーム電流 | 250 mA |
パルス幅 | 10 microS (最大) |
繰り返し | 100 Hz (最大) |
ビームパワー | 10 kW (最大) |
減速材 | 非結合型固定メタン(20 K) |
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飛行距離 | 6.5 - 8.5 m |
ビームサイズ | 100 mm x 100 mm, 300 mm x 300 mm |
フラックス | 4.5 x 104 n /cm2/s (最大) |
ビームパワー | 10 kW (最大) |
発表・掲載日 | 2020年02月25日 |
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タイトル | 産総研中性子解析施設(AISTANS)の開所式典等を開催 *中性子を活用した非破壊分析等産業利用の更なる発展を目指して* https://www.aist.go.jp/tsukuba/ja/news/au_20200225.html |
発表・掲載日 | 2020年01月22日 |
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タイトル | 輸送機器の構造材料・部品分析向けに小型中性子解析装置を開発 *センチメートル厚の金属部品内部の結晶情報を非破壊で分析可能* https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2020/pr20200122/pr20200122.html |
発表・掲載日 | 2017年08月01日 |
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タイトル | 構造材料開発の高度化を加速する小型加速器中性子施設の構築に着手 *中性子の透過力を生かし構造部材の内部のミクロ情報を非破壊で可視化* https://www.aist.go.jp/aist_j/news/au20170801.html |
Recent status and measurement examples of the compact accelerator-driven neutron facility AISTANS
K. Kino, T. Fujiwara, B.E. O’Rourke, N. Oshima,
EPJ Web of Conferences, 298 (2024), 01002
小型中性子源AISTANSにおける透過中性子ブラッグエッジ分析による鋼の炭素含有量および残留オーステナイト体積率の測定
K. Kino, Y. Tomota, N. Oshima,
Tetsu to Hagane, (Advance published date: Jun. 21, 2024)
Development of a Bragg-edge Neutron Transmission Imaging Detector Combined with Micro-structured Boron Cathode and Glass Gas Electron Multiplier
Takeshi Fujiwara, Koichi Kino, Nagayasu Oshima, and Michihiro Furusaka
Sensors and Materials, Vol. 35, No. 2 (2023) 537–544
Neutron performance and future prospect of the compact electron accelerator-driven neutron facility AISTANS
Kino, Koichi; Fujiwara, Takeshi; Furusaka, Michihiro; Muroga, Takemi; O’Rourke, Brian E.; Oshima, Nagayasu; Tomota, Yo;
Journal of Neutron Research, vol. 24, no. 3-4, pp. 395-401, 2022
Pulsed neutron-beam flux with the supermirror neutron guide system at AISTANS
K. Kino, M. Furusaka, T. Fujiwara, B. E. O'Rourke, T. Muroga, Y. Tomota and N. Oshima
Eur. Phys. J. Plus 137 1260 (2022)
構造材料研究における小型中性子源の活用
友田陽
日本中性子科学会会報[波紋]Vol. 32, No. 4, P. 153 (2022)
Influence of carbon concentration and magnetic transition on austenite lattice parameter of 30Mn-C steel
Y. Tomota, T. Murakami, Y.X. Wang, T, Ohmura, S. Harjo, Y.H. Su, T. Shinohara,
Materials Characterization 162 (2020) 110243
Real time observation of martensite transformation for a 0.4C low alloyed steel
by neutron diffraction
Yanxu Wang, Yo Tomota, Takahito Ohmura, Satoshi Morooka, Wu Gong and Stefanus Harjo,
Acta Mater. 184 (2020) 30-40
その場中性子回折による1.5Mn-1.5Si-0.2C鋼におけるフェライト*パーライト変態の検討
友田 陽, 王 延緒, 大村 孝仁, 関戸 信彰, ハルヨ ステファヌス, 川崎 卓郎, 龔 武, 谷山 明,
鉄と鋼 106 (2020) 262-271
Newly constructed compact accelerator-based neutron facility
at AIST
Koichi Kino, Takeshi Fujiwara, Michihiro Furusaka, Noriyosu Hayashizaki,
Hidetoshi Kato, Ryunosuke Kuroda, Koji Michishio, Takemi Muroga, Hiroshi
Ogawa, Brian E. O'Rourke, Nagayasu Oshima, Daisuke Satoh, Norihiro Sei,
Tamao Shishido, Ryoichi Suzuki, Masahito Tanaka, Yo Tomota, Hiroyuki Toyokawa,
Akira Watazu, Kazuro Furukawa, Kazuyuki Nigorikawa and Takashi Obina,
EPJ Web of Conferences 231, 01002 (2020) UCANS-8
Design and construction of an electron accelerator for a pulsed neutron
facility at AIST
Brian E. O'Rourke, Takeshi Fujiwara, Kazuro Furukawa, Michihiro Furusaka,
Noriyosu Hayashizaki, Hidetoshi Kato, Koichi Kino, Ryunosuke Kuroda, Koji
Michishio, Takemi Muroga, Kazuyuki Nigorikawa, Takashi Obina, Hiroshi Ogawa,
Nagayasu Oshima, Daisuke Satoh, Norihiro Sei, Tamao Shishido, Ryoichi Suzuki,
Masahito Tanaka, Yo Tomota, Hiroyuki Toyokawa, Akira Watazu,
Nuclear Inst. and Methods in Physics Research B 464 (2020) 41-44
Design of a compact electron accelerator-driven pulsed neutron facility at
AIST
Koichi Kino, Takeshi Fujiwara, Michihiro Furusaka, Noriyosu Hayashizaki,
Ryunosuke Kuroda, Koji Michishio, Takemi Muroga, Hiroshi Ogawa, Brian E.
O’Rourke, Nagayasu Oshima, Daisuke Satoh, Norihiro Sei, Tamao Shishido,
Ryoichi Suzuki, Masahito Tanaka, Hiroyuki Toyokawa, Akira Watazu,
Nuclear Inst. and Methods in Physics Research, A 927 (2019) 407-418
産総研小型中性子解析施設AISTANSと普及活動の紹介
大島 永康, 木野 幸一, オローク ブライアン, 藤原 健, 加藤 英俊
中性子産業利用推進協議会 季報「四季」, Vol.62, P.5, 2024年
量子ビーム(X線・陽電子・中性子)を使った先端計測・分析法
大島 永康, 加藤 英俊, 友田 陽, 軽金属, 第73巻3号, 2023年3月
Crystallographic characterization of steel microstructure using neutron diffraction (Overview)
Y. Tomota, SCIENCE AND TECHNOLOGY OF ADVANCED MATERIALS, 2020, VOL. 20, NO. 1, 1189-1206
木野幸一,加速器17巻3号 151-158 (2020)
産業技術総合研究所の新規中性子解析施設(AISTANS)の紹介
大島永康, 木野幸一, オロークブライアン, 田中真人,放射線化学110号 45-50 (2020)
Opening ceremony for AISTANS
NMIJ Newsletter No.12, 6 (2020)
招待講演・依頼講演(一部のみを掲載しています)
大島 永康:【産業界が使いやすい中性子源を目指して ~AISTANSの起動】、 第3回中性子産業利用の研究会(茨城県中性子利用研究会 令和4年度第1回 iMATERIA 研究会 合同開催)、 オンライン講演、2022年4月21日
Yo Tomota: Invited Lecture "Current developments of neutron scattering measurements for steel research, 第181回日本鉄鋼協会春季講演大会、International Organized Session " Current developments in nondestructive analysis using synchrotron radiation, neutron, and muon -Towards application of cultural heritage research-" (on line) (2021年3月18日)
友田 陽:招待講演【鉄鋼の階層的上均一組織と上均一変形定量化の進歩と課題】、日本鉄鋼協会第180回春季講演大会シンポジウム・鉄鋼のミクロ組織要素と特性の量子線解析研究会最終報告会【量子ビームを用いた組織解析に基づく特性予測の進歩】(on line) 、2020年9月16日
木野幸一,他,【産総研設置中性子装置の状況】,複合原子力科学研究所におけるビーム利用を中心とした次期中性子源の検討Ⅱワークショップ,2020年1月
Yo Tomota: Invited Lecture "New Insights on Phase Transformations in Steels Revealed by In Situ Neutron Diffraction", 3rd Asia-Oceania Conference on Neutron Scattering (AOCNS 2019), November 16th-21st, 2019, Howard Beach Resort Kenting, Pingtung, Taiwan
友田陽: 基調講演【マルテンサイト変態を伴うリューダース変形に関する考察】, 日本鉄鋼協会第178回秋季講演大会シンポジウム【鉄鋼材料の上均一変形と力学特性】,(岡山大学 津島キャンパス)2019年9月13日
大島永康,【構造材料分析のための小型中性子解析装置の開発】,先端材料技術展(SAMPE
Japan)【革新的新構造材料等研究開発】プロジェクトに関するシンポジウム,2019年9月
木野幸一,-加速器中性子源の現状と展望-新たなイノベーション創出にむけた中性子科学と加速器科学の融合-【電子加速器を用いた小型中性子源と産業利用:加速器に関する課題】,第16回日本加速器学会年会,2019年7月
木野幸一,他,【産総研設置中性子源】,J-PARC ワークショップ小型から大型中性子源の施設連携研究会,2019年3月
木野幸一,【産総研設置中性子装置でのハイパワー電子ビーム使用に関わる対応状況】,複合原子力科学研究所におけるビーム利用を中心とした次期中性子源の検討Iワークショップ,2018年12月
木野幸一,【産総研(新構造材料技術研究組合連携スペース)にて建設中の小型電子加速器中性子施設について】,京大炉におけるビーム利用のための次期中性子源検討Ⅴワークショップ,2018年1月