1: | トレーサビリティってなに? |
昔から、測定値の誤差には、かたよりとばらつきがあるといわれてきました。かたよりは測定値が測定対象の真の値からどれだけ平均的にずれているかを、ばらつきは測定値の広がりを表しています。実際の測定値の一つ一つの値は、それがどれだけ真の値からずれているか分かりません。しかし、平均的にどれだけずれているか分かれば、それを補正することができますから、より正確な測定を行うことができます。平均的なずれの大きさを知るために行われるのが「校正」です。校正では、より正確な値が分かった標準を用いて下位の標準の値や測定値がどれだけずれているかを調べます。
より上位の標準を用いた校正を繰返していけば、最終的には国の計量標準にたどり着きます。このような校正の繰り返しを「校正の連鎖」とよんでいますが、校正の連鎖により国の計量標準に対する平均的なずれが明らかになっている標準や測定の結果を「トレーサビリティ」がとれた標準あるいは測定の結果と言います。すなわち、トレーサビリティがとれた測定では国家標準に対する平均的なずれの大きさが分かっていることになります。このずれを補正すれば、かたよりのない測定が可能になります。
このような校正の連鎖も測定に基づいて行われるわけですから、ばらつきから逃れることはできません。一回一回の校正で、どれだけの不確かさでかたよりが推定されているかを積み重ねていけば、国家標準に対するかたよりの大きさの正確さが分かることになります。従って、それぞれの校正での不確かさを明確にしておくことがトレーサビリティの必要条件になります。
JCSSトレーサビリティ制度では、<参考>にあるようなトレーサビリティの要素を要求しています。
<参考> URP23-03 IAJapan トレーサビリティ方針より
5. 計量計測トレーサビリティの概念
5.1 計量計測トレーサビリティの定義
用語「計量計測トレーサビリティ」は、VIM3 で次のように定義されている。
計量計測トレーサビリティ(metrological traceability)[VIM3 2.41]:個々の校正が測定不確かさに寄与する、文書化された切れ目のない校正の連鎖を通して、測定結果を計量参照に関連付けることができる測定結果の性質。
5.2 計量計測トレーサビリティを確認するための要素
ILAC P10:2002 では、トレーサビリティは、以下の 6 つの基本要素によって特徴付けられる、と述べている。この方針において、用語「計量計測トレーサビリティ」又は「トレーサビリ
ティ」を使用する場合には、これらの要素が考慮されている。
(1) 「切れ目のない校正(比較)の連鎖」:通常は国家標準又は国際標準である、その団体に容認された標準(計量参照)へさかのぼる。
(2) 「測定の不確かさ」:計量計測トレーサビリティ連鎖の各段階について、測定の不確かさは合意された方法に従って計算され、全体の連鎖について総合的な不確かさが計算又
は推定できるように表記されなければならない。
(3) 「文書化」:連鎖の各段階は、文書化され一般的に認知されている手続きに従って実施され、その結果は記録されなければならない。
(4) 「能力」:連鎖において 1 つ以上の段階を実施する試験所・校正機関又はその他の機関は、(例えば認定されているという証明によって)その技術能力に関する証拠を提示しな
ければならない。
(5) 「国際単位系(SI)への参照」:校正(比較)の連鎖は、可能であれば SI を実現する一次標準で終わらなければならない。
(6) 「校正周期」:校正は、適切な間隔で繰り返されなければならない、これらの間隔の長さは、多くの要因(例:要求される不確かさ、使用頻度、使用方法、装置の安定性等)に依
存する。