水素キャリア利用研究チーム
水素キャリアの利用促進技術の開発
研究背景
2050年のカーボンニュートラル社会の実現のためには、水素キャリアを様々なアプリケーションで安全かつ効率的に利用する技術を確立する必要があります。
当チームでは水素(H2)そのものと水素から合成されるアンモニア(NH3)を主要水素キャリアとして想定し、これら水素キャリア(H2およびNH3)の利用技術の開発を行っています。さらに水素製造に係る研究開発も行っています。
水素キャリア利用技術としては、燃焼を介したエネルギー変換に焦点を当てた研究を行っています。
具体的には、水素キャリア燃焼を利用した「ガスタービン」、「内燃エンジン」、「工業炉」、あるいは「ボイラ」の研究開発を行っています。
水素製造については、「水電解装置」の開発に取り組んでいます。
研究目標
製造工場などのカーボンニュートラル(CN)化の実現において、CN燃料として水素キャリアの発電、コジェネ、産業機械、モビリティ、工業炉などにおける利用がCO2排出削減に直結します。
将来的にも産業界での利用が欠かせないエンジンやガスタービンなどの熱機関において、水素キャリアを効率良く、安定利用する技術の確立を目指します。
さらに低コストで安全に水素を製造可能な水電解装置の実用化を目指しています。
研究内容
工業炉における燃料アンモニアの燃焼利用
熱供給でのCO2排出量は全体の約2割を占めています。特に高温域で操業する工業炉では電化が難しいことから、カーボンフリー燃料の利用によるCO2削減効果が期待されています。
当チームでは、燃料としてアンモニアを用いる工業炉の開発を行っています。
具体的には、光学計測が可能なモデル炉(内径0.4m×長さ2m)を構築し、NOx生成抑制と輻射強化手法を採用した50kWアンモニア・酸素バーナの燃焼試験を行っています。
NEDO「燃料アンモニア利用・生産技術開発/工業炉における燃料アンモニアの燃焼技術開発」(2021-2025年度)
大陽日酸(株)、AGC(株)、東北大学と共同で実施している本事業では、ガラス溶融炉向けに火炎輻射の強化を図るアンモニアの酸素燃焼バーナを開発し、輻射伝熱の評価とともにNOx低減技術の技術検証から実生産炉での実証を実施する予定です。(図1)
水素専焼エンジンの開発
産総研は企業と共同で、工場等のコジェネシステムのカーボンニュートラル化に向けて、1MW級水素専焼エンジンを研究開発しています。
4ストロークレシプロガスエンジン(ピストン径170mm×ストローク220mm)を改良した単気筒エンジンにおいて評価試験を行い、試験を通じてCO2を排出せずクリーンな水素を100%として安定燃焼できる条件を見出しました。
6気筒換算/340kW、16気筒換算/920kWでの水素専焼の安定運転に成功しています。(図2)
アニオン交換膜(AEM)水電解装置の開発
低コスト・高性能を実現しうる次世代水電解装置として注目されるAEM水電解装置の開発に取り組んでいます。
同装置は、アニオン交換膜を電解質膜として利用する固体高分子膜形水電解装置です。
アルカリ環境下で動作するため、白金やイリジウムなどの貴金属触媒の使用を回避できる可能性が高く、複極板などのセル構成部材も安価な材料を適用できる可能性が高いため、低コスト化が期待できます。
その一方先行するプロトン交換膜(PEM)水電解と同様にセル中核部に固体電解質を用いた電解質膜-電極接合体(MEA)構造を採用しているため、高電流密度域までの安定した運転が可能です。
当チームでは、電極構造や電解液組成の最適化や加圧運転対応に関する研究開発を行っています。
NEDO 燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業(アニオン交換膜水電解装置の大面積化に備えたMEA開発※)(2023~2024年度)
2030年頃までに競争力のある1MWクラス以上の大型AEM水電解システムを上市することを目指し、「高機能化」、「大面積化・スタック化」に取り組む。
さらに本事業後に開発する予定である大面積セルをベースとした「事業化に向けた指針策定」に取り組む。(図3)
※産総研、早稲田大学、北海道大学,(株)トクヤマ、デノラ・ペルメレック(株)、TOPPANホールディングス(株)の共同受託プロジェクト
主な研究成果
アンモニア燃焼ガスタービン
アンモニアを燃料とする内燃機関として小型ガスタービンの技術開発を大学、企業等と共同して進めています。
アンモニア燃焼ガスタービンの社会実装に向けて
小型ガスタービン(50kW定格)での燃焼利用に挑戦し、世界初となる、メタンとアンモニアの混焼発電と、アンモニア100%の専焼発電に成功しました(図4)。
また、燃焼後の窒素酸化物(NOx)は、基礎燃焼実験に基づいたアンモニア過濃・希薄二段燃焼コンセプトや脱硝装置により、環境規制を十分にクリアするレベルまでクリーン化することを実現しました。
さらに社会実装に向けてアンモニア噴霧燃焼によるコストダウン、起動用燃料のカーボンニュートラルへの対応なども進め、農業ハウスでの実証試験も行いました。
水素サプライチェーンおよび水素混焼発電機システムの実証
有機ハイドライドの一つであるMCHを用いた次世代コジェネエンジンにおいて、エンジン排熱をMCHの脱水素に利用する、エンジン排熱回収技術および水素とディーゼル燃料との混焼技術を研究開発しています。
ここでは、産総研と株式会社日立製作所、デンヨー興産株式会社が、福島県において導入が促進されている再生可能エネルギー電力で水素を製造し、化学変換、貯蔵、輸送を経て、水素混焼発電機システムで発電するサプライチェーンの技術を実証しました。
水素混燃発電機システムについては、発電出力300~500kW、水素混燃率40~60%で、合計1000時間以上の稼働を達成しました。
供給した水素の一部は、エンジン排熱を用いてMCHを脱水素して製造され、また福島県内産バイオマス燃料も利用することで、100%地産地消となる脱炭素型発電機システムとして期待できます。(図5)
※MCH:Methylcyclohexane
主な研究設備
ガスタービン用リグ試験機(FREA)
アンモニアガスタービンの燃焼器内部の状態を再現できるリグ試験機。
各種燃焼器や噴射ノズルを試行するベンチスケール試験や燃焼状態の可視化観察など
水素・アンモニア等レシプロエンジン評価設備(FREA、つくば)
小型から大型までのレシプロエンジンに対する水素・アンモニア等のカーボンニュートラル燃料の評価が可能。
水素専焼や、水素と天然ガス、アンモニア、軽油との混焼評価、高圧水素ガス評価の実績あり。
アンモニア・水素燃焼基礎試験装置(FREA、つくば)
アンモニア・水素の燃焼状態の可視化と排気計測、アンモニア噴霧の可視化、レーザ誘起蛍光法によるラジカル分布計測など。
メンバー
| 役職 | 氏名 | |
|---|---|---|
| 研究チーム長 | 伊藤 博 | ITO Hiroshi |
| 主任研究員 | 佐久間 雄一 | SAKUMA Yuichi |
| 主任研究員 | 范 勇 | FAN Yong |
| 研究員 | SHEHAB Hazim | SHEHAB Hazim |
| チーム付 | 井上 貴博 | INOUE Takahiro |