化合物太陽電池研究チーム
低コストⅢ-Ⅴ化合物太陽電池、高機能CIS系太陽電池の研究開発
研究背景
カーボンニュートラル実現のためには再生可能エネルギーの導入が欠かせず、中でも太陽光発電に寄せられる期待は年々大きくなっています。
第7次エネルギー基本計画(令和7年2月)においては、2023年度時点で22.9%(内、太陽光発電9.8%)の電源構成を占める再生可能エネルギーの割合を、2040年度には40~50%程度(内、太陽光発電23~29%程度)まで引き上げる見通しが示されています。
しかしながら、日本の国土面積当たりの太陽光発電導入量は既に主要国の中で最大級であり、これまで設置されてこなかった新市場への最大限の導入拡大が必須となっております。
化合物太陽電池研究チームでは、これまで宇宙用でしか使われてこなかった高性能のⅢ-Ⅴ族化合物太陽電池を低コストで作製し、無人航空機や自動車用など、移動体への応用を目指した研究開発を行っています。
また、CIS(Cu:銅、In:インジウム、Ga:ガリウム、Se:セレンなどから成る化合物の略称)をはじめとするカルコゲナイド系化合物薄膜材料で作られる太陽電池は、現在世界で広く普及している結晶Si太陽電池とは異なる特徴があり、新市場の創出が期待されます。
たとえば、軽量・フレキシブルの特徴を生かし、耐荷重制限のある場所や曲面への設置を目指した研究開発を行っています。
研究目標
我が国の太陽光発電は、2040年までに20GWの導入目標が掲げられているペロブスカイト太陽電池を中心に研究開発が進められていますが、これと他の太陽電池材料とを組み合わせたタンデム型太陽電池や、Ⅲ-Ⅴ族を用いたタンデム太陽電池の研究開発にも期待が寄せられています。
化合物太陽電池研究チームでは、Ⅲ-Ⅴ族化合物タンデム太陽電池について、2050年に広く一般の電動自動車に搭載されるための技術開発として、モジュールコスト200円/Wが達成可能な低コスト量産型ハイドライド気相成長装置(HVPE)の開発を行っています。
変換効率としては、35%を目標にしています。
また、長い研究開発の歴史を有するカルコゲナイドCIS系太陽電池を、ペロブスカイト太陽電池と組み合わせたタンデム型太陽電池の研究開発などに取り組み、再生可能エネルギーの主力電源化実現に資する低コスト・高性能太陽電池の実現を目指します。
研究内容
Ⅲ-Ⅴ族化合物多接合太陽電池の低コスト化
現在最も変換効率が高い太陽電池は、Ⅲ-Ⅴ族化合物半導体を使ったタンデム(多接合)太陽電池です。
種類の異なる太陽電池を組み合わせることで、太陽光の波長全体を吸収できるため高効率ですが、結晶成長コストや基板コストが高く一般には普及していません。
製造コストを下げるため、我々は結晶成長コストを90%削減可能なHVPE法と、低コストのSiやCIGSとⅢ-Ⅴ族を接合可能なスマートスタック法を用いて、変換効率35%超の多接合太陽電池を低コスト(200円/W)で作製する研究をしています。
この目標を達成することで、無人航空機や自動車用など、移動体への応用が期待されます。
ハイドライド気相成長法(HVPE)とスマートスタックによるⅢ-Ⅴ族化合物半導体太陽電池の低コスト化
HVPEによる結晶成長コストの低減、スマートスタックによる低コストボトムセル(CIS、Si)の利用、エピタキシャルリフトオフ(ELO)技術の利用によるGaAs基板の再利用により、Ⅲ-Ⅴ族多接合太陽電池の低コスト化を図ります。
CIS系太陽電池の研究開発
トップセルからボトムセルまで国産の「高耐久・高効率ペロブスカイトCIS軽量タンデム太陽電池」の実現を目指します。
また、そのために必要な、様々なエネルギー禁制帯幅を有する「CIS系太陽電池」の高性能化やタンデム化技術の研究開発を実施します。
高耐久・高効率ペロブスカイトCIS軽量タンデム太陽電池の研究開発
ボトムセル用CIS系太陽電池の高性能化および高性能タンデム型太陽電池を実現する接合技術の開発に取り組みます。
また、将来的に全無機材料による高性能タンデム太陽電池の実現を可能にする、トップセル用CIS系太陽電池の研究開発などにも取り組んでいます。
主な研究成果
HVPEによるⅢ-Ⅴ族化合物太陽電池の高性能化
図2はHVPEにより作製された各種太陽電池の変換効率の最高値を示したものです。
HVPE自体は古い技術であり、1970年代から研究が行われていましたが、太陽電池の高品質化に必須なAl系材料が成長できなかったため、途中開発が滞りました。
近年NRELと当チームが開発を始めましたが、高品質Al系材料の太陽電池導入に一早く成功した我々が、InGaP/GaAs2接合太陽電池、InGaP単接合太陽電池それぞれの変換効率最高記録を保有しています。
スマートスタックInGaP/GaAs//CIS太陽電池の高効率化
スマートスタック技術は、産総研が独自に開発した、低コストかつ簡便な方法で2端子の多接合太陽電池が作製可能な優れた技術です。
本技術開発において、シリコーン粘着剤を介在した新型スマートスタック開発により、InGaP/GaAs//CISの3接合セル(//はスマートスタック部)で世界最高の変換効率29.3%を達成しました。
これはCIGSをボトムセルとした2端子の多接合太陽電池では世界最高の変換効率で、世界記録として論文誌に登録されています。
軽量で曲面追従性を有するCIS系太陽電池ミニモジュールの世界最高効率を達成
1枚の軽量フレキシブル基板シートに複数の太陽電池セルを集積させた構造のCIS系太陽電池ミニモジュールで、世界最高となる光電変換効率(18.6%、面積約68cm2)を達成しています。
軽量で曲面追従性を有するボトムセル用CIS系太陽電池の世界最高効率を達成
樹脂フィルム基板上に低温製膜した狭禁制帯幅(約1.0eV)CIS系太陽電池セルとして世界最高となる光電変換効率(21.2%、面積約0.5cm2)を達成しています。
トップセル用CIS系太陽電池の世界最高効率を達成
タンデム型太陽電池のトップセル用として期待される広禁制帯幅(約1.7eV)CIS系太陽電池セルとして世界最高となる光電変換効率(12.25%、面積約0.5cm2)を達成しています。
主な研究設備
量産実証型ハイドライド気相成長装置(6インチ)
Ⅲ-Ⅴ族化合物半導体を低コストで結晶成長する装置です。
結晶成長のコストが従来技術の90%削減可能です。
大陽日酸㈱と共同で、6インチの大面積GaAs基板を用いて量産実証を見据えた研究開発を行っています。
CIS系薄膜光吸収層作製装置、太陽電池セル&集積型ミニモジュール作製プロセス設備、太陽電池性能評価装置(ソーラーシミュレータ、スペクトル感度測定装置、フォトルミネッセンス測定装置等)
CIS系太陽電池を作製する設備一式、および作製した太陽電池デバイスの性能を評価する装置群などの設備があります。
メンバー
| 役職 | 氏名 | |
|---|---|---|
| 研究チーム長 | 菅谷 武芳 | SUGAYA Takeyoshi |
| 主任研究員 | 大島 隆治 | OSHIMA Ryuji |
| 主任研究員 | 西永 慈郎 | NISHINAGA Jiro |
| 主任研究員 | 上川 由紀子 | KAMIKAWA Yukiko |
| 研究員 | 西田 竹志 | NISHIDA Takeshi |
| 首席研究員 (研究チーム付) |
石塚 尚吾 | ISHIZUKA Shogo |