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Ⅲ−6 国際標準化 〜知財大国へ「技術外交」強化〜

 国際標準の役割が大きく変わったことを認識する必要がある。世界貿易機関(WTO)のTBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)が1995年に発効し、工業製品などの規格は国際標準への適合が要求されるようになった。欧州主導のデジュール(公的)標準づくりが活発化し、例えば国際電気標準会議(IEC)で策定される国際標準は90年代前半の年間約100件から最近は年間500件にも達する。

 ものづくりも一国内の垂直統合型から国境を超えたサプライチェーンによる分散化が進み、製品自体もスタンドアローンではなく通信による相互接続で機能を発揮するものが圧倒的に増えた。その結果、ものづくりにおける標準化の持つ意味は一段と大きくなった。

 国際標準づくりの早い段階から参画し自社や自国に不利にならない規格とすることが産業の国際競争力には不可欠である。日本の携帯電話メーカーがその優れた技術にもかかわらず、国際規格を逃した結果、世界市場をつかみ損ねたのは記憶に新しい。にもかかわらず、日本では国際標準の意義について産業界などの認識は依然として高いとは言えず、国際標準化機関では中国や韓国の存在感が増している。

 国際標準づくりは今や、国や産業、企業の存亡をかけた「技術外交」であり、規格をめぐるインテリジェンス(情報収集と分析)の競争である。日本の産学官は協力して国際標準化機関に人材を派遣し情報を集め、国際機関において規格づくりのかじ取りができるリーダー人材を育成する必要がある。また戦略的に重要な技術領域において積極的な提案を行い標準づくりの主導権をとっていくことが日本の産業を元気にするためには不可欠と考えられる。技術開発が終わってから標準化を考えるのでは遅く、解決すべき課題を早くから見据えて標準化戦略を築くことが必要だ。

 国際標準化機構(ISO)やIECは国際標準をエネルギーや資源のムダを減らし持続可能な社会を実現する手段としてとらえ始めた。国際標準づくりは持続可能性に照らして将来技術の望ましいあり方を議論する場になった。そこで説得力をもつのは環境負荷の低減や安全、高齢者・障害者への配慮といった世界共通の価値に根差した技術開発の理念だといえる。

 製品やサービスが国際標準に適合しているかどうかを判断する認証の働きも重要さを増している。認証機関が新しい技術の安全性や信頼性を評価し市場投入の道を開きイノベーションを促す。自国に国際的な認証機関があれば技術動向に関する世界の情報がおのずから流入する。日本の認証機関は欧米に比べ規模や事業展開の意欲において見劣りする。欧米の機関と伍して新産業の成長支援に貢献する認証機関が日本に必要だ。

 以下の2点を提言する。

① 企業は最高標準化戦略責任者(チーフ・スタンダード・オフィサー、CSO)を任命し国際標準化戦略を事業戦略に直結させよう。

 企業は国際標準づくりを事業戦略に明確に位置づけ、自社のコアビジネス、基幹的な技術開発に携わる人材を国際標準化活動に投入する。国際標準化によるオープン化戦略と知的財産権による囲い込み戦略の組み合わせをバランスすることが国際競争においてきわめて重要だ。企業内で知財、標準化、研究開発の各部門が一体となって知的財産、国際標準化、研究開発戦略づくりに取り組む必要がある。

 国際標準化機関で議論を先導する人材には技術力、英語力、外交力が求められる。こうした人材を一朝一夕に育てることはできない。多くの人材を国際標準づくりの様々なプロセスに参画させ経験を積み能力を磨くことから始めたい。

 日本から提案する標準化案の合意形成や人材育成などを通じ、工業会や学会が国際標準化活動に貢献する余地は大きい。大学においては標準化活動などに貢献した研究者を積極的に評価するようにし産学連携を後押しする。

② 国際的な存在感のある認証機関を産学官連携で育てよう。

 筑波大学発のロボットスーツなど日本で誕生した新技術であっても安全性や信頼性を担保する仕組みがなければ製品は市場に投入されずイノベーションも起きない。認証を海外機関に求めれば費用がかかるだけでなく技術情報を流出させるばかりだ。日本の認証機関はその設立経緯から、新技術分野を積極的に開拓するよう動機づけられていない。認証機関の機構改革・意識改革を進め、日本が重視する技術分野で世界の企業が認証を求めてくるような存在感のある組織に生まれ変わる必要がある。新技術の認証に挑み市場化を後押しするベンチャー的な認証機関も育てたい。


 <政府や産業界、大学と協働する日本全体での取り組み>

  • 企業に役員クラスの最高標準化戦略責任者(チーフ・スタンダード・オフィサー、CSO)を任命し、国際交渉力によって自社のオープン化戦略をリードする人材を明確に位置付ける。これと最高技術開発責任者(CTO)が展開する知財戦略、クローズド戦略のバランスによって、競争力ある事業戦略を構築する。
  • ナノテクノロジーやロボットなど日本が負けられない技術に関し、工業会や学会が協力し国際標準化の提案づくりに戦略的に取り組む。標準化活動に取り組む研究者・技術者を政府や大学が評価し支援する仕組みをつくる。
  • 国際標準化機関における幹事国引き受け件数を2015年までに欧米並みに引き上げる政府の目標を確実に達成する。
  • 新技術の市場化には機能性、安全性などの分野で、国際的に通用する認証が重要であり、日本の産業界は、その重要性を共有するための啓発活動を推進する。
  • 国際標準と認証の体系を学ぶ機会を工業会や学会が設ける。資格制度を設け習得者へのインセンティブにし、標準化や適合性評価に携わる人材のすそ野を広げる。日本電気制御機器工業会がつくった「セーフティアセッサ資格制度」は好例だ。

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