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Ⅲ−4 IT・サービステクノロジー 〜データ革命で価値づくり〜

 製品の使用価値に重きを置いた顧客目線のものづくり、あるいはものづくりとサービスを一体化させた新たな価値づくり(ことづくり)は、製品やサービスの供給者と顧客との「価値の共創」といえる。顧客をよく知り顧客視点の情報を集め、サービスの設計や製品づくりに生かすため、情報技術(IT)を活用した顧客理解の科学と技術(サービステクノロジー*3)が必要になる。

 ITはグーグルやフェイスブックなど巨大なビジネスを生んできた。これからも思いがけない革新があり新たなビジネスが誕生するのは間違いない。サイバー空間で形成される「評判」は貨幣とは別の価値尺度を生み出す兆しがある。フリーミアム(無料の製品やソフトウエアの提供)やゲーミフィケーション(ゲームデザインの手法を応用した顧客獲得)など、顧客の行動を誘導する新たなモデルにも注目する必要がある。サイバー空間での新ビジネスの探求に果敢に挑むベンチャー企業を育てたい。

 新しいものづくり・ことづくりの成否は経営のITへの理解度(リテラシー)と活用度がカギを握る。戦略的なITの利活用への理解が深い経営幹部の育成を急ぎ、ITの進歩に遅れをとらないよう組織改革を不断に進める必要がある。

 データは活用してはじめて「資産」になる。蓄積しただけでは「負債」に過ぎない。データを漏えいや不正使用から安全に守りつつ、多様なサービスの利用を可能とするセキュリティ技術が求められている。医療機関や行政が蓄積したデータを有効に利用することで、高齢者の健康な生活や病気の予防を促す医療サービスが実現できる。日本が世界に先駆けて経験する超高齢化社会の課題解決をIT利用によって成し遂げることができれば、その経験と技術は諸外国でも活用できるだろう。

 以下の3点を提言する。

① もの・ことづくりを目指して「サービステクノロジー」の研究開発と活用に取り組もう。

 サービステクノロジーの活用を通じ小売や飲食、観光などサービス産業の生産性を高められ海外への事業展開にも有効な手段となる。製造業でも顧客が受け取る製品の使用価値を知り、その情報をものづくりの現場にフィードバック、供給側の論理を優先しがちな従来のものづくりから、顧客視点を重視したもの・ことづくりに進化させることが可能になる。

② 情報(データ)をヒト、モノ、カネに次ぐ経営資源として活用し新ビジネスを創造しよう。

 良い製品、より安価な製品をつくれば売れるという時代ではない。供給側の主導で製品の機能や価格を決められた時は、開発・製造部門が技術を先鋭化した高機能製品を営業部門が売りさばくという図式が通用した。しかし顧客が供給者を上回る発言力を備え製品やサービスを選択する時代においては、ITの活用を通じ顧客の欲求をデータで把握し、ものづくり・ことづくりに素早く反映させる仕組みが求められる。

 またウェブ上の「評判」価値をはじめ、新たに生まれる多様な価値を活用する新ビジネスがこれから台頭するだろう。

 こうした経営環境に適応するには大量のデータ(ビッグデータ)をリアルタイムで分析し的確に経営判断に生かすことが求められる。経営におけるITの利用拡大は不可避である。日本企業はものづくり最優先で大きな成功を収め、その成功体験から経営も組織も脱していない。企業経営者はITを使いこなす能力を経営者にとって必須の要件と心得て、ITの利活用でビジネスの変革に努める責務がある。

③ ビッグデータを活用するための情報セキュリティ技術を開発・利用しよう。

 新しいビジネスの創造にはビッグデータの活用が必要だ。もっと多くのデータを、もっと多様なセンサーや情報源から、素早く得ることが経営戦略をたてるのに重要だが、これらのデータはプライバシーや個人情報保護への配慮を怠ると深刻な危機を招く恐れがある。情報を「保護する」と同時に「活用する」という要求を満たすためには、データ活用に伴うリスクを極小化する情報セキュリティ技術が求められている。


 <政府や産業界、大学と協働する日本全体での取り組み>

  • 大学や公的研究機関でサービステクノロジーの研究開発を拡充し、企業とともに、成果の積極的な実利用に挑む。また、それが実行しやすい環境づくりに努める。
  • 製造業のサービス化、あるいは異業種連携を通じてもの・ことづくりを加速するため、参画する企業などと事業連携しやすいよう知的財産や利益配分のルールなどについて具体的な指針づくりを進める。
  • 政府や自治体などが保有する行政データや科学データなど公的なデータを開放するとともに、活用するための制度を整えて二次利用を促し、新たなサービス創造を後押しする。
  • データを活用した新たなサービス創造の実践例をつくりビジネスモデルを生み出す。また、新規参入業者が受注と成長の機会を見出せるように、企業の前例踏襲や実績重視の傾向が顕著な購買や調達の規定の見直しを進める。
  • 企業はITの活用をIT担当部署の仕事とするのでなく経営戦略と表裏一体のものと位置付け、ITの利活用に適した業務プロセスの見直しを心がける。また、ITベンダーは、企業ニーズを的確に把握し、ウィン・ウィン(win-win)の関係を築くべく、的確なサービスの提供に努める。
  • ITによる社会システムのスマート化を進める上で、情報システム障害やサイバー攻撃などのリスクを極小化するために、データセンターや暗号デバイスの高セキュア化技術、信頼性の高いシステム構築技術などの研究開発を推進する。また、研究開発の成果を評価認証制度などの確立へもつなげて日本の高信頼・高セキュアシステムの輸出を促進する。
  • ビッグデータの蓄積・活用に伴う、プライバシー情報などの流出リスクを極小化するために、暗号化・匿名化、アイデンティティ管理・アクセス制御、ヒューマンファクターなどの手法・技術の研究開発を推進する。

*3 サービステクノロジーは、顧客との共創によって、より高い使用価値を生むサービスや製品を設計するのに必要な技術群を指す。例えば、顧客が製品や事業を使いサービスを受け取る瞬間の満足度を把握して設計に生かす顧客理解のための技術、顧客自身が自らの実現したい価値をより明確に理解できるようになることを支援する技術、サービスの提供過程の可視化やサービスプロセスの機械化、自動化による生産性向上、POS(販売時点情報管理)データなど巨大な顧客データから新たなビジネス機会を見出すビッグデータの活用などがある。

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