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Ⅲ−2 革新的医療・創薬 〜豊かな高齢化社会へ技術力結集〜

 医学や生命科学における日本の基礎研究力は高く、独創的な新薬を市場に出せる潜在力を備えた世界でも数少ない国のひとつである。しかし優れた基礎研究が新薬の実用化に効果的に結びついているとは言えない。

 日本を元気にするには、がんや生活習慣病、認知症などの新薬を世の中に出すプロセスを効率化、迅速化する必要がある。政府や大学は製薬企業が手掛ける創薬に戦略的・総合的な支援と協力を行い、革新的な新薬に挑む企業がその努力に見合った対価を得られる環境をつくることが大事だ。

 iPS細胞などを利用した再生医療の実用化が視野に入っている。臨床応用ガイドラインづくりなど患者の治療を実現するのに必要な環境を整えるとともに、細胞培養装置など必要な機器類の低コスト化を目指した研究開発と安全性の確保に取り組む。世界で再生医療が普及していけば関連の機器は有望な輸出産業になりうる。

 日本はものづくりの力を医療の分野では十分に生かせていない。超高齢化社会を迎えた日本を元気にするため、医療の現場にある多様なニーズをくみ取り、革新的な医療機器の開発・実用化に挑みたい。高い技術力を備えた中小企業のものづくり力を医療機器の分野に生かそう。新技術の早期実用化のため許認可の仕組みを改善する必要がある。

 以下の3点を提言する。

① 創薬プロセスの効率化を通じて新薬を生み出そう。

 スーパーコンピューターによる分子シミュレーションやゲノム情報の活用を通じ、新薬候補の化合物が持つ効能や副作用を前臨床段階でより的確に知ることができる。創薬支援の基盤技術の開発に産学官の連携で取り組み、創薬プロセスを効率化する。

② 世界に先駆けて再生医療の産業化を加速しよう。

 再生医療の早期実用化を目指す。幹細胞やiPS細胞を効率的につくり出し、患者が必要とする細胞に分化・誘導する手法を確立する。臨床応用に不可欠なガイドラインの整備などを急ぐ。幹細胞の安全性や均一性を保証できる評価技術を開発し安全性を客観的に担保できる仕組みをつくる。

 幹細胞培養にかかわる作業と周辺技術(培養液など)を効率化・低コスト化する新技術の開発に産学で取り組み再生医療にかかるコストを引き下げる。大型のクリーンルームがなくても細胞培養ができるデスクトップ・クリーンルームや細胞操作技術などで世界は横一線であり、日本のものづくり力を生かして早期に優位にたち、再生医療に必要な装置産業を新たな輸出産業にする。

③ 元気な高齢化社会をつくる医療機器の実用化に取り組もう。

 人間の筋力をサポートするロボットスーツがリハビリテーションに有効なことがわかり応用が進みつつある。人工臓器も日本が強みを発揮できる分野だ。またMRI(磁気共鳴画像装置)で体の中を見ながら超音波で腫瘍を切除する装置など診断と治療を一体で提供することで患者への負担を減らす新しい医療機器が登場してきた。高齢化社会の医療ニーズにものづくりの力でこたえるため医工連携によって革新的な医療機器の実用化を推進する。新しい機器は安全性評価の手法が未確立な場合が多い。評価手法の開発や標準化、認証の仕組みづくりを通じ新技術の実用化を後押ししたい。また、より身近な医療現場のニーズに応える医療機器の改善や在宅・看護分野の機器の実用化も重要である。


 <政府や産業界、大学と協働する日本全体での取り組み>

  • 政府、産業界、大学と連携して医・工・農が連携した創薬関連プロジェクトを推進する。
  • 新薬候補の化学物質の探索(スクリーニング)と評価や、ゲノム情報や細胞、組織などの試料提供を行う総合的な創薬支援ネットワーク、あるいは専門の機関を創設する。
  • 製薬会社や大学に眠る、未利用の候補化合物に新たな効能を見つけ出し再開発を狙う「ドラッグ・リプロファイリング」を産官学で協力して進める。
  • 再生医療臨床研究ガイドライン(指針)など制度づくりを急ぐ。制度づくりにおいては、再生医療のリスクとベネフィットを勘案しリスクゼロを求めるあまり実用化を遠ざけるような厳しすぎる規制にはしない。再生医療の効率化・低コスト化のためには、医療機関が細胞加工機関に培養工程を委託して治療を実施できるような制度の見直しも必要。
  • 再生医療に必要な周辺産業の育成に産学官が協力して取り組み実用化し、医療と医療関連装置のシステム輸出を目指す。
  • 政府は産業界、大学と協力して医療機器に関する許認可プロセスの簡素化・迅速化・オープン化(透明性の拡大)を進める。
  • 医薬と機器のコンビネーションによる革新的治療技術などに対しては医薬品と医療機器など既存医療技術の品目・枠組みにとらわれない審査体制を設ける。開発・評価の指標となるガイドラインを整備し、開発段階から評価手法を検討する体制を整備する。
  • 介護ロボットなど革新的な介護機器の利用を介護保険の対象に加え、介護のイノベーションを促す。

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