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Ⅱ.総括提言

Ⅱ−1 俊敏なオープンイノベーションの推進によりグローバルな成長市場をつかめ

 成長市場(新経済圏)は新興国とネットにある。中国やインドなど新興国での中間所得層の拡大と情報技術(IT)の普及が、世界経済に地滑り的な構造変化をもたらしている。経済協力開発機構(OECD)によれば、世界の中間所得層は2009年の18.4億人から、30年には2.7倍の48.8億人に拡大し、およそ3分の2(32.2億人)はアジア・太平洋地域に住む。また国際電気通信連合(ITU)によると、すでに世界人口の3人に1人(24億人)はインターネットにアクセス可能であり携帯電話契約者数は60億人(普及率87%)に達する。サイバースペース上に文字通りのグローバル市場が出現した。

 日本の国内市場で育てた技術や製品で世界市場に打って出る日本企業の「勝ちパターン」はもはや通用しなくなった。製品やサービスづくりの初期段階から世界市場、とりわけ新興国とネットの「新経済圏」を、視野に入れて開発を進めないと、グローバルな成長から取り残される。ニーズが多様で、技術進歩も著しい「新経済圏」で競争力を高めるため、企業は世界の技術や人材を取り込み変化に俊敏に対応できるオープンイノベーションの環境づくりが急務だ。

 大学や企業、研究機関は国内の研究環境の魅力を高め海外から多くの研究者を招くと同時に、日本から海外へも研究者を派遣しグローバルな研究ネットワークを構築していく必要がある。現実には、日本の研究者総数に占める外国人研究者の割合は1.3%にとどまり21世紀に入って低下している。海外へ長期派遣(30日超)される研究者も減少傾向にあり研究現場の内向き化が進む。欧米や新興国がこぞって優秀な頭脳を招きよせる人材獲得競争にしのぎを削るなか、グローバルネットワークから日本はこぼれ落ちる恐れがある。

Ⅱ−2 グローバル課題の解決に率先して挑み、世界が必要とする新しい価値を創造しよう

 20世紀は、科学の進歩が新しい知や技術を爆発的な勢いで生み出し社会の発展を先導してきた。21世紀は、社会が抱える課題や矛盾の克服のため、持てる知識や技術を総動員する「課題解決型」の科学技術の追求へ、発想を転換する時だ。20世紀型の社会発展のままでは、新興国の経済成長によって地球上のエネルギーや食糧資源を消費し尽くされ地球環境に過大な負荷がかかる。例えば中国の人口1人当たりの電力消費量は現状では日本の3分の1にも満たないが、日本と同等の電力消費社会となれば、それだけで世界の電力消費を4割押し上げる。日本が培ってきた省エネルギー、省資源の環境関連技術は豊かさの追求と環境の保全を両立させる潜在力を持つ。

 グローバルな課題の解決に資する研究開発に率先して挑戦すれば、高機能・高性能といったこれまでの技術先導型とは異なる新しい価値(例えば環境親和性、安全・安心など)を日本の技術や製品、サービスに与える。政府は課題解決型の研究開発をより強力に促す必要がある。日本が生む新たな価値を広く普及するため、国際標準や認証制度づくりで主導権をとれるよう、産学官が一体的に取り組む体制を整えよう。高齢化問題も日本の知恵を世界に生かす分野だ。生産年齢人口(15〜64歳)に対する高齢人口(65歳以上)の比率は、日本が38%と世界で突出して高いが、世界全体でも日本の後を追いかけるように高齢化が進む。高齢者が快適に過ごせるような技術やシステムを日本が先頭を切って実現すれば世界に貢献できるはずだ。

Ⅱ−3 ものづくり一辺倒から脱し、新しい価値づくり(ことづくり)重視への転換を目指そう

 2年ほど前、米アップルの多機能携帯端末「iPad(アイパッド)」に多数の日本製部品が採用されていたことが話題になった。日本は高品質で高性能の部品供給にとどまらず、新しいサービスや顧客価値を創造する製品を開発し高い利益率を確保できるビジネスモデルに転換しなくてはならないと指摘された。しかしiPadの新モデルでは日本製部品の多くが韓国製に置き換えられた。成長市場では技術は猛烈な勢いで拡散する。DRAMや液晶、太陽電池などで繰り返されたことだが、品質や性能など製品価値だけでは市場で優位を保てない。ものづくりは大事だが、日本の産業はものづくり一辺倒を超えて、ユーザーに新しい価値の発見と満足をもたらす、価値づくり(ことづくり)産業への転換を果たさねばならない。その点で「もの・ことづくり」の重要性を指摘している経済同友会の主張に共鳴する。

 米ゼネラル・エレクトリック(GE)はジェットエンジンを売るのではなくリースし、航続距離に比した課金で利益を得ている。ユーザーは買い取りに比べ少ない資本とリスクで便益を手にし、GEは製品の遠隔監視によって顧客や市場の情報を迅速に得てメンテナンスでも収益を得る。価値づくりのビジネスモデルの一例といえる。日本でもコマツの「コムトラックス」システムは重機の稼働状況を常にモニタリングして迅速なアフターサービスを提供するとともに、世界市場の動向を即時に把握し、同社の世界市場での地位を足固めしている。日本企業はものづくりの強みに、価値づくりをプラスアルファするビジネスを目指し研究開発段階から問題意識を転換する必要がある。

 公的研究機関や大学も、ものづくりの発想を超えるアイデアの創出や人材の育成が求められる。インターネット上の文書検索を飛躍的に容易にし、ネット時代の幕をあけた「ワールド・ワイド・ウェブ」を生んだのはスイスにある素粒子物理学の研究所だったことを大学などの研究者は今一度、思い起こすべきだ。東日本大震災の後、東北の復興や電力改革の議論でスマートグリッド(次世代送電網)への関心が高まった。発電機など装置単体ではなく、ITで統合した電力システム全体を地域の実情に即して設計し提供することは、重電分野での新たな価値づくりの一例だ。ほかにも上水道や医療、防災など社会インフラのIT化に取り組む動きは世界にある。震災復興を新しいサービスや技術、社会システムを創造する好機と考えたい。

Ⅱ−4 イノベーション拠点を国内に創設し、産業のグローバル展開が国内にも高度人材の雇用を増やす成長の道筋を見つけよう

 世界経済に占める日本のGDPの比率は1994年のピーク(17.8%)から縮小し2010年には8.7%となり中国に抜かれて世界第3位になった。内閣府の推計では30年には5.8%にまで低下する見込みだ。国内市場の縮小に加え、新興国市場での競争に対応するため製造拠点のグローバル展開は避けがたい。国内の雇用を量的に維持し質の面でさらに高めるため、研究開発や商品デザイン、人材育成などイノベーション創出の拠点を国内につくり込んでいくことを考えなければならない。製品やサービスを一から生み出すアイデア創出の拠点を国内に設け、そこで手腕を発揮する人材を育てる。同時に海外からも高度な知識や技能を備えた人材を集め、国内雇用を維持し社会をより豊かにする新しい成長の道筋を見つけ出す戦略を産学官で考えよう。

 現状では日本の総研究開発投資(09年度17.2兆円)は07年度以降減っている。企業が投資を絞り政府の科学技術予算も増加が鈍った。政府は民間の研究開発投資を促すとともに、イノベーションを効果的に誘発するよう規制・制度改革を迅速に進める必要がある。また、基礎・基盤研究から応用研究、実用化までを一気通貫で進める枠組み(イノベーション・プラットフォーム)が要る。ナノテクノロジーの世界拠点づくりを目指す産学官共同の「つくばイノベーションアリーナ(TIA)」が目指す「アンダー・ワン・ルーフ(共創場)」の考え方はその先行例だ。日本の産業が長年培ってきた高度なクラフトマンシップ(職人芸)なくしては、作れない部品や素材がある。貴重な技能を育む中小・中堅企業を日本の競争力の一翼として支えることも必要だ。

Ⅱ−5 プロデューサー型の才能を育て、人材の開国を急ごう

 技術で勝っても市場で負ける。優れた技術と製品開発力を有しながら、海外企業に市場を明け渡す産業が目立つ。明確な未来ビジョンを持ち多様な人材を動かしてイノベーションを実現する「プロデューサー型」の人材が日本には少ないからだと指摘される。米アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏のようなカリスマは意図して育てられるものではない。しかし日本から第2、第3のジョブズ氏が誕生する可能性を広げるため、人材の多様性と流動性を高める努力が要るのではないか。企業内の多様な部署、あるいは企業や大学、政府などのセクターを超えて人材が闊達に動く環境を整えるため、企業も政府、大学も人材登用の仕組みを大胆に見直してもらいたい。プロデューサー型人材の育成には、起業家精神やイノベーションについて学び実践する新しいカリキュラムを大学が開発し若者たちに教えていく必要もある。

 政府は「留学生30万人計画」を掲げ留学生の受け入れの拡大を目指しているが、受け入れ数は主要先進国で最低のレベル(日本約12万人に対し米国約58万人、英国約38万人)にとどまる。日本人の海外留学者数も04年の8万3000人をピークに減り09年は6万人弱になった。若者の海外志向の衰えが指摘される。また政府がかつて進めた「ポスドク(博士研究者)1万人計画」は当初の狙いに反し、期限付きの研究職ポストを渡り歩く「高学歴ワーキングプア」を多数生み出した。政府の人材育成策は十分な成果をあげていない。人づくり能力の低下は日本の知的な生産力や産業競争力をむしばみ、いったん落ちた力の復元には長い時間を要する。

 政府だけでなく、産業界や大学も強い危機意識を共有すべき時だ。大学の秋入学への移行など「人材の開国」に向け思い切った改革が動き出す兆しがある。海外からの頭脳流入は国内の人材を切磋琢磨(せっさたくま)させる。大学は英語だけで学位取得を可能にし、企業は留学生のインターンシップを受け入れ、海外の頭脳への門戸をもっと広げよう。海外留学で才能を磨いた日本の若者を、企業や大学は積極的に評価し若者の海外進出への意欲を後押ししてもらいたい。イノベーションを起こすのは自然科学系の研究者だけではない。新しい社会制度の発案、優れたデザインも変革の重要要素だ。社会・人文系でも独創的なアイデアで海外と競える人材を育てる戦略を描く必要がある。

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