研究概要
情報通信ネットワークの通信量は年率20~40%以上の増加率で激増しています。インターネット上の動画サイトや動画チャットの普及、2011年7月の地上波放送のデジタル化に伴う通信量の増大は、将来も当分続き、現在の千倍ものネットワーク総容量が必要になると考えられています。
ところが、情報通信ネットワークの主たる構成機器であるルータの国内総消費電力の調査結果を見ると、2001年におよそ7億キロワット時と推定されたのに対し2006年の調査ではその10倍以上に増加していることが分かります。2006年時点での国内の年間総発電量は、およそ1兆キロワット時であることから、ルータはその1%の電力を消費していたことになります。一方、この間のインターネット通信量を調べてみるとやはり10倍以上の増加となっています。この傾向に従うと、千倍のネットワーク通信量のためには、より高性能なルータの台数を増やし千倍の供給電力が必要ということになります。これではルータだけで総発電量を大きく上回る電力供給が必要ということになり非現実的です。
このような背景の下に、「光ネットワーク超低エネルギー化技術拠点」(英名:VICTORIES: Vertically Integrated Center for Technologies of Optical Routing toward Ideal Energy Savings)は、文科省科学技術振興調整費「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成」事業として平成20年度に独立行政法人産業技術総合研究所(現・国立研究開発法人)内に形成されました。平成23年度からは地域産学官連携科学技術振興事業費補助金の中の事業として拡充強化して継続することがきまりました。現在よりも千倍大きいネットワーク容量を、現状程度の電力消費で実現する革新的ネットワーク技術の創出を目指した、垂直融合型の研究拠点です。
現在急速に増設されているネットワークは、主に電子ルータによって構成されていますが、本拠点では、巨大スループットを、電子ルータと比べて数桁も小さい消費電力で実現できる可能性を持つ「ダイナミック光パスネットワーク」技術の創出を目指しています。この技術を実現し、将来のイノベーションに結びつけるには、基盤技術である光デバイスから伝送、ネットワーク、そして、アプリケーションまでを垂直統合する、プロアクティブな新しい形の研究体制が必要です。
本拠点は、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)の中で電子光技術研究部門、情報技術研究部門、ナノエレクトロニクス研究部門などの組織を横断するように形成され、主要な協働企業や大学との連携体制を構築しています。そうして、ネットワーク・アプリケーション・インターフェース技術、光パスコンディショニング、シリコンフォトニクスの3つの異なるレイヤーにおける要素技術開発を行うと同時に、これらを垂直的に統合・議論する、ネットワークアーキテクチャ・スタディグループを運営しながら、新しいネットワーク技術の創出に取り組んでいます。
本拠点活動に参加する協働企業は、平成22年度まで、日本電信電話㈱未来ねっと研究所、㈱富士通研究所、古河電気工業㈱、㈱トリマティス、日本電気㈱、の5社でしたが、平成23年度から富士通㈱、日立電線㈱、㈱フジクラ、㈱アルネアラボラトリ、住友電気工業㈱の5社が、平成25年度から日立電線㈱に代わり北日本電線㈱が新たに加わり、10社の体制で研究を推進します。また、光ネットワークアーキテクチャの世界的権威である名古屋大学佐藤健一教授にネットワークアーキテクチャ・スタディグループを総括していただいています。