光ネットワーク研究チーム

研究目標
図1: ダイナミック光パスネットワーク

図1: ダイナミック光パスネットワーク

超分散コンピューティングなどの新たなICTシステムでは、大容量かつ低遅延のデータ通信が必須であり、高性能な光ネットワークを土台(プラットフォーム)としてシステムを構築していく必要があります。

当研究チームでは、「ダイナミック光パスネットワーク(Dynamic Optical-Path Network; DOPN)」に関する研究開発を実施しています。このネットワークでは、エンドユーザ間を光ファイバリンクで直結し、ユーザやアプリケーションからのリクエストによって光信号の経路をダイナミックに切り替えるという動作が可能です。その結果、超大容量・低遅延・低消費電力を特徴とする光ネットワークを実現することができます。仮想化技術にもとづく完全自動制御により、光の物理層を意識することなく誰もが容易に扱え、どこにでもつながる光ネットワークの実現を目標としています。そのために必要なキーテクノロジーとして、光スイッチを用いる新たな光ネットワークアーキテクチャ、仮想化や自動制御技術、そして高度な光伝送技術や信号処理技術の研究開発を推進し、これらの技術を社会実装することを目指します。


重点研究

(1) 光ネットワーク仮想化・制御技術に関する研究

従来の光ネットワークでは、「オールインワン方式」と呼ばれる、必要な機能を全て備えた大規模な通信装置を構成単位とする設計手法が採られてきました。一方、光ネットワークを必要とするアプリケーション領域が拡大する中で、様々なニーズに柔軟・迅速・効率的に対応するため、新たなネットワーク構成手法である「ディスアグリゲーション方式」の議論が活発化しています。ディスアグリゲーション方式は、通信装置を機能ごとに分割し、必要に応じて組み合わせるという構成手法です。この方式によって、アプリケーションの要請に合わせた柔軟かつ多様な装置構成が実現可能となります。機能の多様化や構成変化の迅速化が進むと考えられる将来の光ネットワークインフラを構築する手法として、この方式は必須の技術です。

ディスアグリゲーション方式を実現するうえでの課題として、ネットワークを構成する光コンポーネントなどの要素数が増加すること、さらにはそれらの組み合わせの増加により管理制御が複雑化することなどが挙げられます。これを解決する技術として、詳細な光コンポーネント単位のモデル化及びその自動処理手法を開発しました。図2に開発したFunctional Block-based Disaggregationモデル(FBDモデル)の概略を示します。従来手法では、ノードを一つの箱(ブラックボックス)として抽象化するようなモデル化がなされていました(図中ネットワークレベルモデル相当)。開発したFBDモデルでは、光スイッチなどの光コンポーネントをモデル化し、それらの接続トポロジを記述したノードレベルモデル、ノード間の接続トポロジを記述したネットワークレベルモデルというような階層構造をとるように設計しています。さらに、光コンポーネント内の経路設定機能を、整数線形計画法という数理的な手法で定式化し、それを機械可読なモデル言語でFBDモデル内に埋め込むようにしています。その結果、光通信ノードの経路設定機能解析や光ネットワーク全体にわたる経路計算を自動で処理することが可能となり、ディスアグリゲーション方式の課題となる管理制御の複雑さを、自動処理により解決可能なモデル化手法となっています。

これまでにダイナミック光パスネットワークテストベッドにおけるFBDモデルを用いた光ネットワークの管理制御システムの実証実験(論文へのリンク)、FBDモデル活用による光ネットワークトポロジアップデートの迅速化実証実験(論文へのリンク)、FBDモデルを用いた光パス経路計算の計算時間評価(論文へのリンク)など、有効性の評価を行っています。また、FBDモデルを基にした光ネットワークのトポロジ情報生成ツールを公開しています(サイバーフォトニックプラットフォームコンソーシアム(CPPC) Webページへのリンク)。

図2:Functional Block-based Disaggregationモデルの概略

図2:Functional Block-based Disaggregationモデルの概略

(2) データセンター・次世代コンピューティング向け大規模・高速光スイッチシステムに関する研究

現在のデータセンターは、多数の電気パケットスイッチを多階層に接続する構成をとっています。今後、データセンターの規模をさらに拡大していく上で、電気パケットスイッチの消費電力と通信帯域がボトルネックとなります。この課題を解決するために当研究チームでは、データセンター等の大規模情報システムに光スイッチを適用することを検討しています。このような用途においては、光スイッチの大規模化(1000ポート超)や、高速化(数マイクロ秒オーダ)が必要となります。また、数十万ポート規模の光スイッチが達成できると、多数の計算資源を動的に再構成できることから、次世代コンピューティングへの応用も期待できます。

図3(a)は、光波長と空間資源を組み合わせた大規模・高速光スイッチの構成を示しています。カラーレスコヒーレント受信と名付けた方式を適用することで、従来方式よりも光スイッチのポート規模を2~6倍向上することができ、検討の結果、1000ポート以上の光スイッチを実現できることを報告しています。また、高速切り替え可能なシリコンフォトニクス波長可変フィルタを光受信器側に用いることで、数マイクロ秒オーダの高速光スイッチングを実現しています。詳細はこちらの論文をご参照ください。

ポート規模の更なる拡大に焦点を当てた研究にも取り組んでいます。図3(b)は、複数のスイッチを並列かつ多段に接続したClosネットワークと呼ばれる構成を示しており、小規模のスイッチを多数組み合わせることで、ポート数が10万を超える大規模なスイッチを構築できます。当研究チームでは、シリコンフォトニクス技術を活用して産総研が開発した、ポート数32×32のマトリクス光スイッチ(同種のスイッチチップとしては世界最大規模)を用い、これを多段に接続することで131,072ポートの光スイッチネットワークを構成し、スイッチング総容量125ペタビット毎秒を達成可能であることを、伝送実験によって2021年に原理実証しました。さらに、性能の制限要因となるポート間クロストークの影響を詳細に解析しました。技術の詳細については、こちらの文献およびプレスリリースをご参照ください。

図3: 大規模・高速光スイッチシステムの構成例

図3: 大規模・高速光スイッチシステムの構成例

(3) 波長分割多重信号長距離伝送時の非線形波形劣化補償に関する研究

波長分割多重(WDM)信号を長距離の光ファイバ伝送路で伝送すると、伝送媒体である光ファイバの非線形性が原因で信号波形に歪みが発生し、送信波形と異なる波形で受信され、結果として多くのビット誤りが生じ、伝送距離や情報量が制限される要因となります。この波形歪みを補償する技術の研究が世界中で盛んに実施されていますが、当研究チームではデジタル信号処理や光信号処理を用いた手法の開発に取り組んでいます。

図4は、長距離伝送後のWDM信号に対して、受信側でコヒーレント受信した後にデジタル信号処理を実施することで非線形波形歪みを補償する際の計算ブロック図を示しています。送信時の光波形を推定するために、線形と非線形の波形発展を交互に繰り返して、受信光信号波形を逆伝搬させる計算を行いますが、非線形発展の際に、チャネル内で発生する非線形位相シフトである自己位相変調(Self-Phase Modulation; SPM)に加えて、チャネル間で発生する相互位相変調(Cross-Phase Modulation; XPM)の効果も考慮することで、精度を高めることが可能です。さらに本方式において、機械学習技術によってパラメータを最適化し、補償性能を最大化する手法を提案し、数値シミュレーションや伝送実験によって効果を確認しました。詳細はこちらの論文をご参照ください。

図4: デジタル信号処理を用いて非線形波形歪み補償を行う際の計算ブロック図

図4: デジタル信号処理を用いて非線形波形歪み補償を行う際の計算ブロック図


「VICTORIESオープンイノベーションハブ」として、光伝送評価施設を提供しています。光源・任意波形発生器・光変調器を含む光送信機と、コヒーレント受信・オフラインデジタル信号処理を実施可能な光受信器からなる光伝送評価施設を用いて、光伝送路や光デバイスの伝送特性評価にご利用いただけます。
本件連絡先:victories連絡先

保有技術

・最大容量90Tbps、消費電力6kWのダイナミック光パスネットワークテストベッド設計運用技術
・光ネットワーク仮想化・制御技術
・光デバイス制御技術、大規模スイッチシステム実証
・高度な変調・信号処理方式によるデジタルコヒーレント伝送技術
・非線形光学にもとづく光信号処理技術


主要特許・論文