研究目的

凖結晶とは、結晶のように周期性は無いが、高度な規則を持った固体です。半導体の性質を有する準結晶(半導体準結晶)は未だに発見されておらず、存在するかどうかは固体物理学の基本的問題の一つとなっています。また、半導体準結晶は、結晶における立方晶より高い正20面体の高い対称性によって多くのキャリア・ポケットを持ち、複雑構造によって低い熱伝導率をも持つことから、高性能な熱電材料としての期待も大きく、その開発研究に関心がもたれています

一般に、材料の金属的性質から半導体的性質への転換は、金属結合から共有結合やイオン結合への割合を増やすことで可能です。Al系やB系正20面体クラスター固体は、共有結合を有しているため、これらを評価し制御することが、半導体準結晶開発を進めるうえで重要です。さらに、これら共有結合は、AlやBで構成された正20面体クラスターの中心に存在する構造型空孔と相関があるとされており、構造型空孔を評価することは、本研究を進める上で重要だと考えられます。

陽電子は、材料中に入射すると1ナノ秒以下の短時間のうちに消滅します。陽電子の消滅までの寿命は、材料中の空孔の有無で変化するため、陽電子プローブによって空孔を高感度に評価できます。

本研究の目的は、陽電子プローブを用いた正20面体クラスター固体(準結晶、近似結晶)中の共有結合の評価法を確立し、それを利用して半導体準結晶を創製し、高性能熱電材料の開発を加速することです。

  研究内容

 

Al系準結晶や近似結晶中のAl系正20面体クラスターは、中心の原子の有無によって、金属結合―共有結合転換を起こします(図1)。この空の正20面体クラスター中心は、構造型空孔と呼ばれますが、この空孔評価に陽電子プローブが有用です。

まずは、電子線やX線回折等で構造解析が可能なAl系近似結晶やB系結晶において、共有結合性の増減と、陽電子プローブを用いた空孔分析結果との相関を調べます。その結果を基に、電子線やX線回折で構造解析が容易でない準結晶において、陽電子プローブを適用する予定です。

同時に、実験的に得られた構造を基本にしたAl系やB系近似結晶モデルにおいて見つけた半金属や半導体的バンド構造を、最局在ワニエ関数を用いて解析することにより、バンドギャップ形成機構を明らかにしたいと考えています。

  産業化に向けた取り組み

得られた成果を効率的に活かす環境づくりのために、企業ニーズ調査をすすめています。確立した分析手法は、OILの枠組みを利用し、他材料へも展開したいと考えています。

[1] Y. Takagiwa, K. Kimura, Science and Technology of Advanced Materials 15, 044802 (2014).