質量の単位「キログラム(記号:kg)」の起源は18世紀末のフランスです。当時は、水1リットルの質量として定義されていました。1889年には、白金イリジウム合金で作られた世界に一つしかない分銅「国際キログラム原器」の質量を1 kgとする定義に移行しました。
国際キログラム原器はパリ郊外にある国際度量衡局で厳重に管理されていましたが、表面の汚染などによってその質量が徐々に変動している可能性のあることが問題となっていました。これをうけて、2019年には、普遍的な物理定数であるプランク定数を基準とする現在の定義に移行しています。世界中どこでも変わらず、また、時間とともに変動しないプランク定数を基準とすることで、定義の再現性と普遍性が大幅に向上しています。
キログラムの定義の基準となっているプランク定数の値は、2017年7月までに産業技術総合研究所を含む五つの国立標準研究機関で測定された八つのプランク定数の値から導かれました(図1)。それぞれの値は、キッブルバランス法もしくはX線結晶密度法によって、国際キログラム原器の質量を基準として測定されました。現在では、これら二つの方法を用いて、プランク定数を基準としてキログラムを実現することが可能となっています。
図1 キログラムの定義の基準となるプランク定数の値の決定に採用された八つの測定値
産業技術総合研究所では、X線結晶密度法を用いてキログラムを実現します。プランク定数を基準として、様々な原子一個の質量を導出することができます。そこで、シリコン単結晶球体(図2(左))中のシリコン原子を数えれば、球体の質量を決定することができます。図2(右)はシリコン球体中の原子を数えるために産業技術総合研究所が開発したレーザー干渉計です。
図2 プランク定数を基準にしてキログラムを実現するためのシリコン単結晶球体(左)と球体中の原子数を計測するために、球体直径を原子サイズレベルの精度で計測するレーザー干渉計(右)
産業技術総合研究所では、プランク定数を基準として質量を校正した1 mg から20 kgのステンレス鋼製の分銅群を質量の国家標準として運用しています。これらの分銅を基準として様々な分銅の質量を校正し、質量標準として供給しています。
詳細な情報は次の研究グループのHPをご参照ください。