計量標準総合センター : National Metrology Insutitute of Japan (NMIJ)

基本単位の標準(電気)

電気標準の変遷

電気の最も基本的な量は、電流・電圧・抵抗の3つです。これらはオームの法則で関連づけられるので、このうちの2つを選んで基本的な標準としています。この考えは、現在に至るまで一貫しています。標準が発展してきた歴史と、その結果現在の標準がどの様に作られているのかを説明します。

1908年(明治41年)に日本も参加した万国電気単本位会議が開催され、国際電気単位が決議されました。ここで、国際電流単位(国際アンペア)は銀分離器、国際抵抗単位(国際オーム)は水銀抵抗原器によって定めることに決まりました。

その頃産総研の前身のうちの一つである電気試験所で直流低周波の研究・開発が始められました。

しかしこの時代の国際電気単位による標準はいわゆる電磁気学の法則を用いるものではありませんでした。

1928年の第一回電気諮問委員会(1927年設置、1997年に電気磁気諮問委員会に改称)で電磁気学に基づき、将来絶対単位を採用する方針が決定され、絶対測定を実施する方針が決まりました。国際的に先進国を中心にこれらの絶対測定が実施されました。日本でも1930年代に電流天秤(国産)を用いて国際アンペアの絶対測定、相互誘導標準器(英国国立物理学研究所製)を用いて国際オームの絶対測定が実施され、1937年の第5回電気諮問委員会で報告されました。これらの成果を受け、1948年より国際単位系SIの枠組みの中で電磁気学に基づくアンペアの定義の利用が開始されました(国際単位系SI という言葉は、1960年に決議)。この定義は磁気定数 μ0 を定義値とすることと同意でした。ここで他の量と合わせて、電気関係量の標準は従来の国際電気単位から有理系であるMKSA単位系、制度上はその拡張版であるSIに移行しました。しかし絶対測定は定常的な実施が困難であるため、実際の運用としては、ウェストン電池とマンガニン抵抗器を用いて電圧と抵抗標準が維持されました。

その後、1956年にカリキュラブルクロスキャパシタという中心円柱電極とそれを取り囲む様に配置された円柱電極からなる装置が発明されました。これを用いると、キャパシタンスの値を極めて小さな不確かさで、長さの標準から測定できます。キャパシタンスの絶対値が決まれば実は抵抗の値も絶対測定が可能です。

1962年には、超伝導材料で絶縁体もしくは金属を挟んだトンネル接合素子(ジョセフソン接合素子)と呼ばれる素子に、高周波(ミリ波など)を照射すると、交流ジョセフソン効果と呼ばれる効果により、階段状の量子電圧が発生することが発見されました。この量子効果を用いる標準は、従来の古典的な電磁気学の法則に基づく電気標準と比較すると、全く新しい標準の実現方法でした。その階段状の量子電圧は照射する高周波の周波数とプランク定数、そして電気素量のみの組み合わせからなる式(V = (h/2e)f)で決定でき、いわば「ゲームチェンジング」的な技術でした。

電気試験所から改称された電子技術総合研究所(後の産総研の一部)では、これらの新しい方法・効果を用いた標準の研究・開発が勧められ、1977年頃にはこれらに基づく標準が確立しました。

1980年には、半導体中の薄い界面に閉じ込められた電子に磁場をかけたときに階段状に量子化されたホール抵抗が発現することが発見されました。これは量子ホール効果と呼ばれます。この効果でもジョセフソン効果と同様に、プランク定数と電気素量から抵抗が実現(R = h/(ne2))できました。これに関しても電子技術総合研究所はじめ先進各国の標準研究所で研究・開発が進められました。

ここで、ジョセフソン効果にはジョセフソン定数:2e/h、量子ホール効果にはフォン・クリッツィング定数:h/e2と呼ばれる、量子力学的に電圧・抵抗を記述する特徴的な物理定数が現れます。共にプランク定数 h と電気素量 e のみからなる物理定数です。

1990年から多くの先進国でジョセフソン効果と量子ホール効果による電圧と抵抗の標準が実現しました。ただし当時、電気標準以外の方法(力学量の標準など)も用いるプランク定数と電気素量の測定における不確かさは、比較的大きいものでした。これらを電気標準に用いると、最終的に大きな不確かさになってしまいました。

一方ジョセフソン効果や量子ホール効果自体の「普遍性」(それらの効果がどの程度再現性があり、値が普遍的に実現できるか)は極めて高いものであることは明らかであり実験的にも実証されておりました。そこで電気標準では、ジョセフソン定数、フォン・クリッツィング定数に対し、不確かさを持たない数値を暫定的に与え、その数値を基準に電圧標準、抵抗標準を実現すると言う手順を取りました。これらの値は協定値と呼ばれました。これにより、すでに電気関係量において高度に発達していたアナログ・デジタル技術、高分解能計測技術の基盤を担うのに十分な標準の確立に至りました。

協定値はその時点で、可能な限り他の標準との関係を実効的には崩さない様に慎重に決定されましたが、論理的には他の標準との協調性を失うものでした。つまり、プランク定数や電気素量の測定に大きな進展が見られても電気標準はその恩恵を受けることができません。よって、プランク定数と電気素量の不確かさの小さい絶対測定が実現し、それらを定義値とした上で、改めて電気標準の基準である、ジョセフソン定数、フォン・クリッツィング定数の値が決定されることは電気標準の悲願となりました。

2019年5月20日をもって改定されたSIは、まさにこれが実現したことになります。プランク定数と電気素量の定義値を利用し、ジョセフソン定数、フォン・クリッツィング定数は共に「定義値」として利用できることになりました。アンペアの定義も同じく電気素量の定義値に基づいています。ここで、電気標準は完全にSI単位の協調的枠組みに返り咲いたことになります。

これらの経緯を図1に示します。

もちろん1990年時点で設定された協定値と改定SIで精密計測を元に決定されたジョセフソン定数、フォン・クリッツィング定数は異なることになります。しかしその差は極めて小さいもので、産業界で利用されている標準にはほとんど影響を与えずに改定SIへの移行が完了しました。この差を参考までに表1に示します。

現在電気標準では、ジョセフソン効果電圧測定装置、量子ホール効果抵抗測定装置、誘導分圧器校正装置、キャパシタンス測定装置、交流抵抗測定装置、交流電流比校正装置 交流電圧用交直変換器、交流電流用交直変換器、交直差測定装置 などの特定標準器(国家計量標準)および関連する測定器・標準を開発・維持しています。

電気標準の経緯

図1

SI改定における電気関係の校正値の相対変化量

表1


アンペアの定義
アンペア(記号は A)は、電流の SI 単位であり、電気素量 e を単位 C(A s に等しい)で表したときに、その数値を 1.602 176 634 × 10-19 と定めることによって定義される。ここで、秒は ∆νCs によって定義される。
アンペアの定義の補足
この定義は、1 アンペアとは、1 秒間に電気素量の 1/(1.602 176 634 × 10−19) 倍の電荷が流れる電流であることを意味している。