重み付き平均(加重平均)

 

 ある物理量を何人かで繰り返し測定し、得られた測定値のそれぞれの平均からxについての最良推定値を求めたい場合があります。いま、簡単のために二人の測定者がある量を繰り返し測定した結果の平均値がそれぞれであり、またそれらの標準偏差がそれぞれであったとします。すなわち

 

                測定者

                測定者

 

のような測定結果が得られたとします。このとき二人の平均値をどのように組み合わせたら物理量に対する最良推定値が得られるかを考えてみることにします。ただし、が測定誤差よりも大きい場合にはつじつまの合わない(inconsistent)測定であり、二人の測定者のどちらか、あるいは双方におかしな測定があったと考えるべきであり、の大部分が系統誤差に相当することになります。このような場合はこの系統誤差をなくすような注意深い考察が必要です。しかし、注意深い測定を行えば、一般にはは測定誤差の中に入るようなつじつまの合う(consistent1)な測定結果を得るのが普通であるから、問題は二つの測定値からどのようにすれば真の値に対する最良推定値が得られるかということになります。すぐ思いつくのは二つの測定値の単純平均値を最良推定値とする、すなわち

 

               

 

であるが、これは両者の測定誤差がというように異なっている場合は両者の測定を同じように扱うことは適切ではなく、註深く読みとった測定値には相応の重みを付けて平均化する必要があることに思い至るでしょう。

 

 この問題は「最尤法」を用いて解くことができます。いま両者の測定値は物理量の真の値の周りに偶然誤差をもってガウス分布しているものと仮定します。すると、測定者という測定値を得る確率

 

               

 

であり、測定者という測定値を得る確率

 

               

 

となります。測定者という測定値を得、測定者という測定値を得る確率は、それぞれの確率との積になります。すなわち

 

               

 

のようになります。ここで指数部分の

 

               

 

のように、真の値からの測定値のずれを標準偏差で割ったものの平方和です。最尤性原理によれば実際の観測値が最も確からしいときに未知量の最良推定値が得られる、すなわち、の最良推定値は確率が最大のとき、つまりが最小となるときのの値となります。これは二乗和を最小にする方法であるから「最小二乗法」とも呼ばれます。したがって、の最良推定値はこのにつおて微分した導関数をと置くことにより求めることができます。すなわち

 

               

 

より

 

               

 

となります。ここで

 

               

 

で定義される重みを導入すれば、真の値の最良推定値は重み付き平均値

 

               

 

で表現できます。もし、両測定において測定誤差の重みが同じであれば、であるからの最良推定値である重み付き平均は単純平均に当然ながら一致します。

 

 また、上述の二つの測定についての重み付き平均をある量についての個の独立した測定値

 

               

 

についても拡張でき、その真の値の最良推定値は重み付き平均値

 

               

 

となります。ここで、重みは個々の誤差分散

 

               

 

のような関係が成り立ちます。

 

 重み付き平均は測定値の関数であるから、の誤差分散は誤差伝搬則によって計算でき

 

               

 

あるいは

 

               

 

となります。すなわち、重み付き平均の重みは個々の重みの総和に等しく、重み付き平均の誤差分散は重みの逆数となります。

 

 重み付き平均をこれからは簡単のために変数の通常の平均値の記号で書き表すものとすれば

 

               

 

のように書き表すことができます。

 

 重み付き平均の標準偏差

 

               

 

などの残差を用いて

 

               

 

のようにして求めることができます。真の値

 

               

 

という形で表され、不等式

 

               

 

が成立する確率はです。

 

 

重みの決め方

 

 はじめから測定値に対応する重みが与えられている場合は問題ないが、与えられていない場合は次の二通りの場合のみ重みを簡単に決めることができます。一つは個の測定値がそれぞれ回ずつの繰り返し測定の算術平均で、しかもこれら回の測定精度がすべて等しいと見なされる場合には、重みは

 

               

 

のように、各測定回数と同価であるとすればよい。もう一つの場合は、個の測定値のそれぞれに対応する標準偏差がわかっている場合で、このときは任意の正の定数を選んで

 

               

のようにして決めます。これらの式を等式ではなく近似式で表したのは、重みの決め方は近似値で十分であるからです。したがって、これらの重みは、後の統計計算で用いられる場合に簡単に計算できるように、の値で調整して、整数で表記するのが好ましい。標準偏差と同じように重みもまた通常1桁あるいは2桁の値で表示するのが通例ですので、重みの最大値はを超えないような整数とするのが望ましい。

 

 重み付き標準偏差は個の測定値の残差を用いた

 

               

 

のような定義式から求めるのではなく、不確かさの伝搬則を使って、もっと簡単な近似値

 

               

 

として求めることもできます。この近似値と標準偏差

 

               

 

の関係にあるのが望ましく、もしもであれば、与えられた標準偏差のうちのどれかが過小評価されていると考えられ、重み付き平均によって真の値を推定することは断念した方がいいと考えられます。

 

 また、上述のこれら二つの方法で重みを決めるに足るだけの信頼すべきデータが得られ場合は、いろいろな経験や理論的考察から適当な整数比を仮定して重みを決めることになります。