誤差伝搬則の複雑な系への応用

 

いま2つの物理量(たとえば化学物質の濃度とその分析計での読み値)を回測定し、それぞれ、という観測データが得られ、またそれら両者の平均値としてが得られたものとします。すると各観測値は、それぞれの平均値からの偏差をとすれば

 

 

 

となります。したがって、観測値のそれぞれの組についての不偏分散をとすれば

 

 

 

であり、各観測値にはそれぞれだけの標準不確かさがあることになります。また、平均値に関しては不偏分散を

をデータの個数で割った程度のばらつき(分散)(標準不確かさで言えば)があることになります。

 

さて、ここで各観測値は何らかの関数曲線

 

 

の上で定義できるものだとすると、その関数の平均値は

 

 

 

となるはずです。つまり真の値はこの定義式から算出されるですいてされるものになります。一方、現実問題としては、対応するデータを関数

 

 

 

に逐次代入演算しての相加平均としての平均

 

 

 

を算出し、これをもって真の値の推定値とすることもあります。しかしながら、一般に両者の値は一致しないのが普通です。唯一、一致するケースは関数の線形結合でがともにそれぞれ正規分布からの標本であれば、もまた正規分布となり、その母平均

 

 

 

となることが証明されています。しかもこのような場合の標本からの母平均の推定値としては

 

 

 

から計算されるあるいは相加平均

 

 

 

から計算されるのどちらの値を使ってもよいとされています。しかし、このケース以外の一般の場合には両者は一致することはなく、通常

 

 

 

の方が真の値(母平均)に近くなることがわかっています。

 

ところで、ある関数の形がわかっていて、しかも個の観測データから逐次を計算し、最終的にやその平均値のばらつき(分散)を見積もりたい場合があります。すると、上述したように、もし関数が線形であれば、

 

 

 

と置くことができます。関数が非線形であればこうはならないが、データ数が多くその分布が正規分布に近い場合には、上式は近似的に成り立ちます。また観測データの間にはやはり近似的に

 

 

 

となります。またの不偏分散

 

 

 

となるので、この式に上述のの関係式を代入すると

 

 

 

となります。ここで、右辺の第3項にあるは確率変数の「共分散」と呼ばれるもので一般にはにはならないが、が独立であればその期待値はとなるので、が独立である仮定(通常の標本ではこのような場合がほとんどである)すれば、この項は無視できて

 

 

 

または不偏分散を母分散の推定値であるという形にすれば

 

 

 

あるいはまた、不偏分散を標準不確かさの二乗で表せば

 

 

 

という関係式が得られます。これがいわゆる「誤差伝搬則」あるいは「不確かさの伝搬則」と呼ばれるものです。つまりある関数の誤差分散は個々の変数の感度係数(偏微分項)の二乗に誤差分散を掛けたものの単純和になるという法則です。いま確率変数のデータ数が同じ()であるとすれば、

上式の両辺をで割ることにより母平均の最良推定値の分散

 

 

 

のようになります。

 

次に、この誤差伝搬則のもう少し複雑な系への応用について紹介します。たとえばある関数に乗る個の観測値の水準のデータが実際にはそれぞれ個の平均値であった場合には、個々の観測値はであり、個の観測値の組はで書き表すべきであり、またそれらが水準毎に相異なる誤差分散を持った正規分布をしているとします。このような個の観測値の組のデータに対するの誤差分散はどのようになるかを誤差伝搬則でみることにします。すると水準のデータの組から算出されるの誤差分散

 

 

 

であることは上述の一般式より明らかです。したがって、求めるべき全観測値に対する関数の誤差分散は上式の両辺の総和をとって

 

 

 

となります。ただし、は独立であり、また間にも相関性はなくランダムな誤差しかないものとしました。