誤差伝搬則と全微分(偏微分)との関係

 

 変数についてのある関数

 

 

と定義したときのの微小変化量はそれぞれの変数について関数を偏微分した係数(偏微分係数あるいは誤差伝搬則では感度係数とも言う)にそれぞれの変数の微小変化量を掛け合わせて足した総和(全微分)

 

 

 

になります。

 

 

 そこで、この全微分についての式の両辺をそれぞれ二乗すれば

 

 

 

となります。ここでは微少量であるので変数および関数の誤差(不確かさ)と見ることができ、それらの二乗の期待値(平均値)は母分散に相当します。すなわち

 

 

 

となります。また、共変量の期待値(平均値)は

 

 

 

のように、母共分散あるいは母標準偏差およびにを掛けたものになります。ただし、は変数の母相関係数と呼ばれるもので、

 

 

で定義されます。ここで、は変数についての母集団のそれぞれの母平均です。

 

したがって、全微分の二乗の期待値(平均値)は

 

 

 

となりますが、これが「平均二乗誤差(誤差分散)の伝搬則」あるいは簡単に「誤差伝搬則」と呼ばれるものに相当します。変数の誤差の間に相関がなければ(すなわち変数の誤差が独立であれば)、誤差伝搬則の一般式である上式はもっと簡単になり

 

 

 

のように共分散項が取れたもの(相関がない)になります。

 

 不確かさの分野では、標本についての統計処理から推定される母標準偏差(母分散の平方根)の推定値という記号で表現する場合が多いので、上述の誤差伝搬則の一般式は、母相関係数を標本相関係数に置き換えて

 

 

 

のように表します。変数の誤差(不確かさ)の間に相関がなければ(すなわち互いに独立な振る舞いをする誤差であれば)、上式は

 

 

 

のように簡単になります。

 

 ところで、の誤差が独立である場合の誤差伝搬則

 

 

 

の偏微分係数を簡単のために

 

 

 

のように簡略化した記号で書き表せば

 

 

 

のように書き改めることができます。

 

 一方、ある関数の重みの母分散に逆比例するものとして定義されるので、勝手な比例定数を(重みがたまたまの場合の関数の分散に相当する)とすれば、重み

 

 

 

と定義することができます。あるいは上式を書き改めて

 

 

 

のように、ある関数の母分散を任意の比例定数(重みがたまたまの場合の関数の分散に相当する)を使って書き表すこともでき、このときのことを分散係数(variance coefficient)と呼びます。

 

 したがって、この分散係数を使って誤差伝搬則を書き直せば

 

 

 

のような「重みの伝搬則」が導かれます。また、この逆数は関数の重みであるので

 

 

 

なる式を、重み付き残差法(weighted residual method)による最小二乗近似法(least square method)として有名なDeming法などでは、変数の観測方程式の重み関数と呼んでいます。すなわち、Deming法では、観測データにあてはめる近似解としての関数の重み付き残差

 

               

 

を最小にするようにして、最終的な関数の形のパラメータ(たとえば近似解としての関数を1次式とすれば、その観測方程式はとなりますが、このときの決めるべきパラメータは(直線の切片)と(傾き)です)を決めることになります。