F分布
分布(F-distribution)は、正規分布、分布、分布などと並んで、推測統計や不確かさを論じる上で極めて重要な分布であり、いま自由度がそれぞれであるカイ二乗変数とが互いに独立であるとき、その比
は分布をします。分布はまたスネデカーの分布(Snedecor’s F-distribution)あるいはフィッシャー分布(Fisher distribution)とも呼ばれます。
この分布の確率密度関数は次式で与えられ、その出現確率は自由度とによって特徴づけられます。
あるいは
ただし、
をベータ関数と言います。ベータ関数は、が整数の場合(それぞれとする)は
という性質を持っています。
また、変数の逆数であるも自由度で特徴づけられる分布をすることから、変数の分母子の取り方はどちらをとってもよいのであるが、通常分子が大きくなるように変数を選ぶ場合が多い。
ところで、カイ二乗変数とは2つの正規母集団とからそれぞれ互いに独立に抽出した大きさがそれぞれの標本(不偏分散はそれぞれ)に相当するものであるから、変数は
のように変形でき、母数として母平均に関係なく母分散のみを含む式となります。
いま、2つの正規母集団の母分散が等しい()ならば、上式は2つの標本の不偏分散比のみの関係式となり、これが分布をすることになります。
この関係式は2つの正規母集団の分散が等しいかどうかを検定するのに用いることができる非常に便利でかつ重要な関係式で、分散分析などの統計処理においてもしばしば用いられます。
そこで、ここでは分布を用いた2つの正規母集団の分散の検定方法を紹介することにします。いま、2つの正規母集団とに対して、
帰無仮説および対立仮説
をたてます。この帰無仮説が正しければ、
は自由度の分布をすることになるので、2つの標本の不偏分散比から算出したを有意水準における分布の理論値とを比較します。もし、このとき、
ならば、帰無仮説は危険率で棄却され、対立仮説を採択することになり、
ならば、帰無仮説は棄却できず、2つの母集団は等分散である可能性が高いと言えます。
この場合は両側検定となるので、は、と比較するのではなく、と比較しなければなりません。
一方、何らかの知見からあらかじめ母分散の方が母分散よりも大きいことがわかっている場合には、あるいは対立仮説としてを予測する場合は、帰無仮説に対して
対立仮説
を検定することになり、このときは上図のような片側検定(右側検定あるいは上側検定)となります。すなわち、2つの標本の不偏分散比から算出したを有意水準における分布の理論値とを比較します。もし、このとき、
ならば、帰無仮説は危険率で棄却され、対立仮説を採択することになり、
ならば、帰無仮説は棄却できず、2つの母集団は等分散である可能性が高いと言えます。
また、上とは逆に、対立仮説としてをとるときには、棄却域は
のような片側検定(左側検定あるいは下側検定)となります。
確率変数が分布すなわちに従うときには、次のような特徴があります。
まず、確率変数の平均と分散は
となります。また、確率変数の逆数はに従います。さらに、の右側点はの左側点の逆数に相当します。すなわち
という関係が成立します。
分布の自由度のうち自由度が十分大きくなれば、分布は自由度の分布に従う量を自由度で割ったものの分布によって近似できることが知られています。