断熱型熱量計による標準溶液の純度の不確かさ評価(その3)

 

 断熱型熱量計による標準溶液の純度の不確かさ評価については、簡易解析法をすでに本ホームページ「断熱型熱量計による標準溶液の純度の不確かさ評価」(簡易評価法)で解説しましたが、ここではもう少し突っ込んだ数学モデルを立てて解説することにします。本ホームページ「断熱型熱量計による標準溶液の純度の不確かさ評価(その2)」との違いは「縮分」(reduction)の誤差を考慮したことです。

 

下図のように、CRM(認証標準物質)としてアンプル詰めした標準溶液の純度の認証値を決めるため、断熱型熱量計を用いてアンプル詰めした標準溶液の純度を測定し、アンプル詰めの誤差分散(アンプル間分散)と測定誤差分散(測定間分散)を求めることにより、認証値として必要なCRMアンプル1本の純度と標準不確かさを求めてみましょう。

 

 

調製した標準溶液の母液(純度の(真の)値は母平均とする)から小分けしたアンプル1本(i番目のアンプル)の純度の(真の)値をとすれば

 

               

 

となります。ここで、はアンプルに小分けしたときのアンプル間のバラツキ誤差です。

 

一方、断熱型熱量計による純度測定はアンプル5本をまとめて1個の被検溶液とするのであるが、その被検溶液は3種類(3種類にグループ分け、すなわち、)作るのであるから、それらのグループの中で番目のグループの番目のアンプルの純度の(真の)値をとすれば

 

             

 

となります。ここで、はサンプリングした番目のグループのアンプル間のバラツキ誤差(真値からのカタヨリ)であり、

 

               

 

と書くことができます。ここで、はグループ間の真値からのカタヨリであり、はグループ内のバラツキ誤差すなわちアンプル間のバラツキ誤差です。もしグループ分けするときに完全にランダム抽出できていたとすればグループ間の真値からのカタヨリであるは限りなく0に近くのみの成分と考えてよいでしょう。実際、本ホームページの「断熱型熱量計による標準溶液の純度の不確かさ評価」(簡易評価法)ではそのような取り扱いをしています。

 

 したがって、

 

               

 

となります。ところで、被検溶液はこのようなアンプルを5本まとめて1個の被検溶液としたものであるから、番目のグループのアンプル5本をまとめて1つにした番目の被検溶液にした(縮分した)ときの「縮分」(reduction)誤差とすれば、番目の被検溶液の純度の(真の)値

 

               

 

となります。ここでについてはランダムな誤差であるからその期待値と分散は

               

 

とします。またについても同様に

 

               

 

とします。一方、の期待値と分散は

 

               

 

であるから、

 

               

 

となります。さらに、縮分誤差についてもその期待値と分散は、同様に

 

               

 

となります。

 

断熱型熱量計による純度測定は1個の被検溶液について3回の繰り返し測定を行うのであるから、繰り返し番号をとすれば、番目の被検溶液の純度の測定値

 

             

 

となります。ただし、は測定のカタヨリ(被検溶液間のカタヨリ)であり、番目の被検溶液についての回目の測定誤差(測定内のバラツキ)です。これら誤差の期待値と誤差はやはり

 

               

 

および

 

               

 

とみなします。

 

したがって、最終的な測定値の完全な数学モデルは

 

               

 

となります。ところで、この式の右辺の成分の誤差はお互いに交絡していて通常の統計解析ではそれらの分散を区別して算出することはできないので、それらの誤差成分をまとめてとすることにします。すなわち

 

               

 

とすると、測定値の数学モデルは

 

               

 

となります。もちろん、このという真値からのカタヨリについてもその期待値と分散は

 

               

 

と書くことができます。現実問題として、ランダムサンプリングをきちんと行ったとすれば、の成分の中であるいはは小さくが主成分であると考えることができ、したがって

 

               

 

とおくことができます。

 

この数学モデルは一元配置実験分散分析(1段枝分かれ分散分析)モデルに相当しますので、被検溶液間の変動の水準数(被検溶液の種類の数)を、測定の繰り返し数をとすれば、ANOVA表は

 

変動要因

水準数

繰り返し数

自由度

不偏分散

期待値

被検溶液間の変動

被検溶液内の測定誤差変動

               

となります。一方、標本の総平均

 

             

 

で、これは標準溶液の母液あるいはアンプルあるいは被検溶液の純度の平均値であり、母平均の推定値となります。すなわち、

 

               

 

および

 

 

より

 

               

 

であるから

 

               

 

であり、よって

 

               

 

となります。同様に、

 

               

 

だから

 

               

 

より、

 

               

となるので

 

               

 

となります。ただし、としました。

 

したがって、標準溶液の母液のもつ純度の分散は、測定値の総平均値の推定値と母液の純度の(真の値である)母平均との偏差平方和であるから

 

               

 

となりますが、は互いに独立で、およびなので

 

               

 

となります。よって求める母液の純度の標準不確かさ

 

               

 

です。

 

また、アンプル1本当たりの標準不確かさすなわちは、アンプル1本の純度の測定値の推定値を測定値の総平均値とみなせば

 

   

 

となります。よって、アンプル1本の純度の標準不確かさは

 

               

 

となります。

 

よって、求める認証値は

 

               

 

のようになります。ただし、包含係数としました。

 

 

 

 

(参考)いろいろな分散

 

あるいは

 

 

としても求められます。

 

これは、また、

 

 

であるから、とおけば

 

 

となります。あるいは

 

 

となります。

 

 

これは、また、

 

 

であるから、とおけば

 

 

となります。