はじめに
臓器が傷害を受けたとき、その傷害が大きいと臓器移植が考慮される。しかし、臓器提供者数の不足や移植免疫による拒絶反応等、簡単には解決できない問題がある。また、場合によっては、このような傷害の時人工物で臓器を置換することもある。たとえば、関節が傷害を受けたときには、関節全体を切除して人工物に置き換える人工関節置換術をおこなう。しかし、この人工関節はあくまで人工の物体であり、移植された周囲の組織とくに既存の骨組織となじまず、人工関節がぐらつき、せっかく移植した人工関節を抜去せざるを得ないことがある。これらの問題を解決するために、我々は人工関節に自家(患者)の細胞とその細胞由来の自家組織(骨組織)をあらかじめ組み込むという、独自の発想による細胞を用いての新規の再生医療を開始した。
方法(間葉系幹細胞を用いた関節再建)
このような再生医療を考える場合、どの細胞を選択すれば良いのであろうか。もちろん、採取する細胞が再生されうる組織へ分化する事が一番の条件である。その次に考えるのは、やはり容易かつ採取することによる患者への障害が少ないことが大事であろう。これらの点を考慮した場合、骨髄細胞は非常に魅力的である。骨髄は注射針(骨髄針)により容易に採取可能で、この採取された骨髄には骨をつくる骨芽細胞になりうる間葉系幹細胞が存在する。
今回おこなった方法は奈良医大で患者から骨髄を採取して、テイッシュエンジニアリング研究センターに持ち込む。センター内のヒト細胞のみをあつかう特殊な部屋(クリーンルーム)でこの骨髄から間葉系幹細胞を培養により増殖する。その培養幹細胞を骨形成能力のある骨芽細胞へ分化させたのち膜状の骨を人工関節上で形成させる(再生培養骨の形成)。これらの過程において,数回の検査を行い、無菌性ならびに安全性を保っていることを確認している。そして、この再生培養骨を再度奈良医大へ搬送して移植治療をおこなった。
展望
今回の治療は変形性関節症の患者に適応したが、移植された患者自身の細胞が新生骨を誘導することが確認できたので、リウマチを含む他の種々の骨関節疾患や腫瘍にも適応できうる。さらに、最近の報告により骨髄間葉系幹細胞は神経細胞、肝細胞、心筋細胞等のおもいもつかない細胞へ分化することがわかってきた。
すなわち、我々が開発した本方の応用により、骨関節疾患のみならず神経、肝疾患等種々の臓器障害に対する再生医療が可能となり、本法はまさに臓器移植を回避できうる夢の治療へと発展する可能性がある。
自己細胞組込型人工関節