note
受講等のお問い合わせ

AIST Design School for science in society

INTERVIEW 03
大本綾講師
(株式会社レア共同代表/クリエイティブ・プロセス・デザイナー)

「人生をかけて
取り組みたいこと」
それをゆっくり掘り起こすこと
から社会は変わります

「北欧では学びは与えてもらうものではなく、自ら作るもの」と語る大本綾氏は、さまざまな組織に伴走しながら、
北欧、とりわけデンマーク社会の要素を取り入れた教育プログラムの研究開発や実践を行っています。
産総研デザインスクールでも、デンマークのビジネスデザインスクール、KAOSPILOTの手法を日本向けにアレンジした講義を行い、またカリキュラム全体に対してもアドバイス。
こうした取り組みの全ての始まりは、大本氏自身がKAOSPILOTで学んだ3年間にあります。KAOSPILOTでの体験が、自身の変化にどうつながっていったのか。話を伺います。
人生をかけるテーマが見えなかった
人生をかけて取り組みたいもの。KAOSPILOTに出会う前、それがわからずもがいていた時期がありました。2011年、東日本大震災から3ヶ月後、石巻市での瓦礫掃除のボランティアに参加したのですが、自分が生まれ育った国がたった一日でこんなふうになるのか、とあらゆる価値観が揺さぶられました。いつ何が起きるかわからない自然災害は、まさに、日本のカオスであると感じました。

大量の瓦礫を必死に掃除するなかで、こうした社会の深刻な課題に対峙するには、大きなことを達成しようとするのではなく、まずは仲間とともにできることから始めてみる。それがいかに大事か、身をもって感じました。

でも、自分が取り組みたいのは具体的にどんな課題か、ということまでは分からなかった。当時から、ビジネスは社会を豊かにする手段である、という考えをもってはいて、そういう仕事をしたいと思っていました。ですが、その手段を導き出すための、関心をもてるテーマや働き方が全く見えなかったんです。
震災後、復興がテーマのイベントに参加した時に、たまたまKAOSPILOTの卒業生に出会いました。社会起業家でありながら平和学を学んでいるデンマーク人の方で、運命の出会いじゃないですけれど、私はこういうふうに生きたいんだ! と心から思える人でした。社会の課題というのは、いつも複雑で混沌としているから、一人で解決しようとすれば、それに押し潰されてしまうこともあります。そうではなく、色々な人を巻き込み仲間を作ることで、時間はかかるけれども、一歩ずつ解決に向け進むことができる。彼女の話を聞いて、そう感じました。その後、他の卒業生にも会いましたが、どの方も人格者で人として素晴らしく、また人間的な魅力にも溢れた人たちでした。ここに行けば私の探しているものがあるのでは、という思いでKAOSPILOTに飛び込んだのです。
It’s starts with you.
正解は自分の中にある
KAOSPILOTに留学した3年間は、起業家精神とクリエイティブ・リーダーシップを中心に学び、デンマーク、イギリス、南アフリカ、日本での社会や組織開発のプロジェクトに携わりました。私にとっては目からウロコの連続で、学びの概念が180度変わりました。なかでも印象的だったのは「正解は自分の中にある」という学びの姿勢。さまざまな理論やハウツーを教え込まれる、というのは真逆。イメージとしては、頭の中をパカッと開けられ、中のものを全て取りだし、それまでの価値観や考え方などを全て手放した時に、そこに残る「光るもの」を見つけられるような学びです。

学ぶ意義やモチベーションというのは、既に自分の中に眠っているのです。さらには、それらを発見した時、目の前には全く異なる目的をもった人たちが集まっている。そうしたカオスな状況のなか、どのような未来を一緒に創っていけるのか? その手法を、経験を通して体得します。
KAOSPILOTの哲学は、絶妙な負荷のかけ方にもあります。人には、負荷をかけないと気づけないことや、新しい境地に辿り着けない部分がある。KAOSPILOTでは生徒に負荷をかける一方で、生徒を信頼し、「必ずできるから大丈夫」と信じさせてもくれる。その両輪が、個々の力を引き出してくれるのです。

最も強烈だったのは、3年間の集大成として行われたリーダーシップを学ぶ2泊3日のキャンプ。どこで何をするかは秘密で、チームごとに3日分の食糧を用意して行くのですが、到着した所は雪の降る森。そこで、全ての食糧が没収されるんですね。チームで力を合わせ、タスクごとにリーダーを交代しながら、時間内に目的地に辿り着くことができれば食糧を返してもらえる、という内容でした。

私がリーダーになった時に、寒い上、4ℓ分の水が入ったリュックを背負って長距離を歩くだけでしんどくなり、リーダーなのに人をリードできない状態になりました。その時に初めて、人に頼ることは大事、ということを、身をもって感じたのです。自分はリーダーとしてどう行動すべきか? 身体的にも精神的にも追い込まれた状況では、その自分らしいアプローチや可能性に気づくことができる。またそうした特別な体験から得られた発見は、体と心に刻み込まれるものです。
そこまでカオスな環境を作るのは、スクールとしては周到に準備を重ねた上であっても、かなりのリスクが伴います。その上で、そうした学びの環境を作っているKAOSPILOTは世界的にも貴重なスクールだと思います。
志があって初めて、共創が生まれる
産総研デザインスクールでは、2018年の開校時よりカリキュラム全体へもアドバイスさせていただいています。なかでもKAOSPILOTの手法を日本の方向けにアレンジした授業が「クリエイティブ・リーダーシップ」です。
KAOSPILOTでは、人生をかけて成し遂げたいものは何か? について、自分の内なる声から発せられるものをclear voiceと呼び、これを発する訓練をします。そこに着想を得て、産総研デザインスクールではWill(志)の概念を作りました。こうした心の奥底から生じる感情や思想は、他者を巻き込んでいく最初の起点になるもの。そのWillを開発するプロセスを、丁寧に時間をかけて行っているのが「クリエイティブ・リーダーシップ」の特徴です。

日本の教育では、自分が好きなことや違和感をもっていることは何か? について対話や考察する場が、北欧に比べてかなり少ないと感じます。ゆえに、そうした思いは皆さんの中には眠っていますが、自然に出てくるものではない。ですので、言葉だけでなく、さまざまな表現を使ったり、他者と共有したり、色々な方法で働きかけ、ゆっくり時間をかけて掘り起こしていきます。

志があって初めて、共創が生まれます。私自身がKAOSPILOTに出会って、志を見つけ、それを生業にもさせていただいています。特に現代の若い世代には、自分の「好き」が分からない、やりたいことが分からない、といった人がたくさんいます。彼らが自分の志と出会い、仲間を見つけ、より良い未来の社会を生みだせるように。そのためにも、これからもさまざまな学びの場やきっかけを作っていけたらと思います。
PROFILE

大本 綾(おおもと・あや)

1985年生まれ。大学卒業後、株式会社グレイワールドワイドで大手消費財メーカーのブランド戦略、コミュニケーション開発に携わる。2013年にデンマークのビジネスデザインスクール、KAOSPILOTに初の日本人留学生として受け入れられ、2015年6月に卒業。帰国後、北欧社会をヒントに、「人の想い」から始まるプロジェクトを支援・実践する共創型アクションデザインファーム、株式会社レアを設立。
https://www.laere.jp/
^
産総研デザインスクール公式noteでも
講師陣や修了生のインタビューなど
さまざまな情報を随時公開しています