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AIST Design School for science in society

INTERVIEW 02
江渡浩一郎
(メディア・アーティスト/産総研主任研究員)

本人の意識をどうもつか?
それが中心的な課題になる
スクールです

産総研の主任研究員であり、産総研デザインスクールの運営にも関わる江渡浩一郎氏。現在も欧州スタディツアーに同行したり、現地でのファシリテーションを行うなど、プログラムに関わっています。
国内外のデザイン思考やクリエイティブに関するワークショップを研究し、自らもプログラムを開発・運営するなかで、産総研デザインスクールの特異性を感じてきました。
「最大の価値は欧州スタディツアーにある」と話す江渡氏に、2023年に同行した欧州スタディツアーのエピソードを含め、デザインスクールの魅力について伺いました。
クリエイティブ・ワークショップへの思い
2000年、ロンドンを拠点にするデザイン集団TOMATOが、自分たちのデザインメソッドを教えるワークショップに参加した時に、衝撃を受けました。それまで私は頭でっかちな部分があって、理屈の上で納得し腑に落ちてからものを作り始めるところがあったのですが、そうではなく、目の前に紙と鉛筆があったらまず何かを書き(描き)、そこから何かを受け取る、ということが大切にされていたのです。ものづくりの意味を教わった、という心地がしました。以来、こうした類のワークショップを研究するようになり、自分で主催していたこともあります。ですので、クリエイティブ・ワークショップにはとても思い入れがあります。
こうしたワークショップでは、手を動かし、ものを作ることが強調される場合が多いです。プロトタイピングとしての何かを作り、その過程を通して学んだり、それをツールとして使い、社会の違う分野の人たちとの繋がりをもち、共通意識を作っていったり。そこを主に掘り下げていくことが多い。対して、産総研デザインスクールでは、クリエイティブ・リーダーシップの姿勢にフォーカスしています。何よりも、本人の意識をどうもつか? それが中心的な課題になるスクールです。

ゴールのひとつは、受講生がリーダーシップを取りながら自分でワークショップを主催できるようになること。実際、欧州スタディツア―では、受講生が現地でワークショップを主催します。自分たちのコミュニティとは違う人と触れ合い、参加者を集めて、その場でルールを合意して、うまく場を作り、そこで自分たちが伝えたいことを伝えたり、逆に彼らの考えを受け取る、ということをする。それは受講生にとっては、8ヶ月間の学びのハイライトです。
他のスクールとどう違うのか?
私自身は初年度である2018年に、受講生として参加しました。その時から、なぜ他のスクールとこんなに違うのか? というのは長年気になるところでしたが、2023年の欧州ツアーで初めてKAOSPILOTの創設者であるウッフェ・エルベックさんや現校長のクリスター・ヴィンダルリッツシリウスさんにお会いして、ようやく合点がいきました。産総研デザインスクールの出発点でもある彼らの思想に触れることで、改めてすごい学びの場だと感じました。
彼らとの対話は、記憶に残る瞬間が多数ありました。ウッフェさんは、大きな紙に絵を描きながら、彼の人生を振り返りつつ、自分はこう考えてきた、ということを切々と、情熱的に語ってくれました。仲間を作る場を設けたい、というところからKAOSPILOTという名のビジネススクールを開き、運営を軌道に乗せてから、代表の座を譲り、彼自身は政党を立ち上げてリーダーに。その政党を第3の勢力として発展させたことで、デンマークの文化大臣になりました。それらの過程は「毎回エッジに向かっていった」という点で共通していました。それぞれの領域で、ここのエッジを膨らませるべきだというポイントを探し、そのなかで一定の場を作り上げ、次の場を探すことを繰り返されていた。その根底にあったのは、エッジを広げることが社会における自分の役割だという考えでした。自分の人生をどう決めてきたか。それが感情の部分で全ての整合性が取れていて、それが何よりも素晴らしいと感じました。

クリスターさんとは、KAOSPILOTで受講生がワークショップを主催した直後、興奮冷めやらぬまま、対話の場が設けられました。女性の受講生から、自分は女性ということで辛い思いをしてきた、という話があがり、それに対してクリスターさんが考えを述べると、その受講生が感極まってしまうといったシーンもあって、それが解決に繋がるかどうかは別として、そうした心の深い部分を通わせるような交流がありました。

お二人の話はどちらにも、自分の人生のリーダーシップをどう発揮するのか、という問いが根底にありました。日本で人生というと、どうしてもカギかっこ付きの「人生」になってしまうんですけれど、それを自分でどう設計し、どうマネージするかについて考えよう、というメッセージを彼らから受け取りました。
社会実装とは事業化であり共創そのもの
GAFAなどのプラットフォーマーの影響については、もう何年も言われていることですが、プラットフォーマーという言葉の意味が、日本ではまだ正しく理解されていないように感じています。例えば、自動車業界では様々な車種があり、シェアの小さいメーカーでも、十分存在価値はあるわけですよね。ですが、プラットフォームというのは、そこに乗っかることに意味がある基盤なので、わずかしか残りません。ですから、業界3位や4位にはほとんど意味がないわけです。

日本も生き残れるのではないか、といった考えもありますが、自動車だと生き残れていますが、コンピューターやスマートフォンだと生き残れないのはなぜか? そこに正しく向き合い、理解する必要があります。

これまでは、そもそも利益の上げ方がはっきりしていたため、技術力を高め優れた製品を作るだけで産業は成り立ってきました。ですが、今は産業の枠そのものを作らなくては生き残ることはできません。既存の考えを捨て、新しい考えにシフトしなければならない。
技術という点では、「社会実装」がもう何年も前から強調されていますが、元々の社会実装とは事業化を目指すことであり、ともに利益を上げることです。そのためには、それぞれの立場を抜きにして、各々の武器を見極め、新しい利益の在り方をともに考え、発想を共有し、そこに基づいて一つの事業をともに行っていく必要がある。これは一般に「ビジネス開発」と呼びますが、実は共創そのものなんですよね。

私が産総研デザインスクールを重要だと思うのは、こうした背景があります。私がデザインスクールに期待する部分でもあります。
PROFILE

江渡浩一郎(えと・こういちろう)

東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了。博士(情報理工学)。国際メディア研究財団研究員、多摩美術大学情報デザイン学科非常勤講師を経て、現在は産業技術総合研究所にて新たなモノ・コトを共創するインタラクション環境のデザイン、システム実装に関する研究を行っている。立ち上げた主なイベントに、ニコニコ学会β、Tsukuba Mini Maker Faireがある。 また、メディア・アーティストとして、インターネットを利用した活動や作品制作にも先進的に取り組んでいる。
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