福岡県西方沖の地震による地表変状調査
調査担当:遠田晋次・吾妻 崇・宮下由香里・近藤久雄
調査期間:2005/3/31~4/1
調査結果概要
志賀島及び海の中道における地表変状の調査と,警固断層と西山断層の地形概査を行いました.
志賀島では,島の北西部に位置する国民休暇村の敷地内およびその周辺の道路に現れた亀裂の分布や変状について観察しました.その結果,これらの亀裂には系統的なずれは認められず,いずれも谷地形へ向かう側方流動や施設を造成する以前の地形境界に沿って現れた地表亀裂であると判断されました.
海の中道では,公園施設内で液状化現象による地盤被害を観察しました.一部の亀裂で系統的な左横ずれがみられるとの指摘がありましたが,周辺の様子から判断すると,地表地震断層ではないと考えられます.
警固断層と西山断層については,断層変位地形および今までにトレンチ掘削調査が実施された地点の確認を行いました.
調査地点位置図
国民休暇村周辺地域
志賀島(国民休暇村)
志賀島は,主に花崗閃緑岩および塩基性深成岩からなる南北約3km,東西約2kmの陸繋島であり,2005年福岡県西方沖の地震の震源域のほぼ南東端部にあたります.今回の地震に伴い,島の北西部に位置する国民休暇村敷地内およびその周辺の道路には,多数の地表亀裂が生じました.それらの一部は震源断層と走向がほぼ一致し,わずかな左横ずれ成分をともなうことから,地表地震断層の可能性があるという指摘がありました.しかし,亀裂の多くは,谷方向へ向かう側方流動によるものや,施設造成前の地形境界に沿って生じたものと考えられ,地表地震断層ではないと判断されます.
志賀島西部,国民休暇村周辺の造成前の地形区分と今回の地震に伴う地表亀裂分布.
造成前の地形判読には,米軍撮影の空中写真(縮尺約1万分の1)を使用しました.
1. テニスコートを横断する割れ目(赤い矢印の間).谷方向(写真左側)へ落ちるセンスを示してしています.
2. 側溝接合部の圧縮変形.谷頭斜面が谷方向(写真手前)へ落ちるセンスを示しています.
3. 舗装道路の圧縮変形.谷方向(写真左側)への短縮を示しています.
4. 斜面基部における舗装道路の圧縮変形.谷方向(写真左側)への流動による局地的な短縮を示しています.
5. 舗装道路の開口亀裂(走向N50°W,南西側が3cm 低下,最大約7cmの開口). 谷方向(写真左側)へ落ちるセンスを示しています.
6:舗装道路の開口亀裂(南西側が低下,最大約7cmの開口).谷方向(写真左側)へ落ちるセンスを示しています.
海の中道海浜公園(風と光の広場)周辺地域
海の中道は,志賀島へ繋がる砂州です.地表亀裂が現れた地点付近では,直下で余震が集中して発生しています(図).また,地質図に示されている「石堂-海の中道断層」が通過する位置とも一致します.今回の観察では,地表地震断層と認定できる系統的なずれは確認できませんでした.亀裂のほとんどは池へ向かう側方流動によるものであり,一部は造成前に小池が存在していた場所で,地質境界に沿って生じたものと考えられます.
海の中道海浜公園における地表亀裂の分布
(亀裂の分布は九州大学下山正一さんのホームページに掲載されている図から引用させていただきました.)
7. 舗装道路の亀裂.全体が池(写真左側)に向かって落ちています.
8. 舗装道路の亀裂.全体が池(写真右側)に向かって落ちています.
9. 道路脇の杉型雁行割れ目.いずれも,池(写真右側)に向かって落ちています.
10. 舗装道路の亀裂.亀裂が幾重にもありますが,いずれも池(写真右側)に向かって落ちています.
11. 舗装道路の亀裂 写真中央部付近が沈降しています.
沈降軸の方向は,公園造成以前に存在していた小池の縁の方向と一致しています.
12. 公園の駐車場に現れた噴砂の列.東側の亀裂のさらに数m東側には,これに平行な噴砂の連なりが観察されます.