目次
(1)岩石物性・力学特性
評価対象の概要
地層処分施設への力学的影響として,施設と施設が設置される岩盤の変形や破断が想定される.このような施設の直接的な破壊に至る現象のほか,岩石構造の変形による孔隙の連結や分断,さらに破壊による亀裂の生成など地下水の透水性に影響を及ぼすと考えられる.
地層処分施設の設置される深度において岩盤は地圧やプレートの沈みこみによる広域的な応力場などの応力下に置かれているが,処分施設の掘削によって地下空間から岩石が取り除かれることにより岩盤力学的影響がローカルに及ぶことになる.これは坑道建設工事においてゆるみ領域として問題となるものであるが,これらの対策は従来のトンネル工事等と技術的に変わるものでなく,その施工可能性の判断についてここで記述することはしない.一方,安全評価においてはここにあげたような影響が長期的な岩盤の安全機能にどのような影響を及ぼすかについては検討する必要がある.坑道が掘削されることによる応力の再配置により坑道周辺には掘削影響領域と称する細かい亀裂が生じて地下水の透水性あるいは核種の拡散しやすさに影響することとなり,それについての評価が長期的な安全の確保の上で必要となる.また,広域的な応力場の変化が亀裂の再活動をもたらすことも想定されている.断層として処分施設を破壊するようなものは断層活動の章に譲るとして,ここでは水理学的影響について扱う.このような力学的プロセスを評価する上で必要な特性として,岩盤の強度特性,変形特性,初期応力状態があげられる.
評価指標の設定とデータ採取
処分坑道工事は技術的にトンネル工事に準ずるもので,難易はあるものの全く施工できない条件は想定し難く,施設の建設可能性にかかる指標をあえて設定する必要性は認められない.しかしながら,精密調査地区選定段階においても,この段階で取得するべき長期的安全性の確保を判断するためのデータについては,その内容の十分さや取得の適切さを評価しておく必要がある.
広域的な応力場の変化が亀裂の再活動をもたらす可能性についてはスウェーデンにおける地層処分の事業者SKBによる立地調査であるSR-Canに対する規制側のコメント(SKI and SSI, 2008)において指摘されているところである.亀裂の浸透性について,現在の応力場が強く影響しているといった認識が石油探査業界では一般化しつつあり,浸透性を保持しうる亀裂は臨界応力状態にあり,継続的に剪断すべりを生じる環境下にあるものに限られるとされる(石油技術協会,2004).このことから,2次鉱物の充填により浸透性を失った亀裂が応力場の変化によって浸透性を回復することがあるが,この場合回復できる亀裂は臨界応力条件を充たし,剪断すべりが起こりうる特定の方向性を持つものに限られるとされている(石油技術協会,2004).
このように亀裂の浸透性に応力場が深く関わっていることから,処分地の初期応力状態を把握することはきわめて重要であるといえる.ボーリング孔を用いた局所的応力測定法として,オーバーコアリング時のボーリング孔内のひずみ計測による応力解放法,ボーリング孔内の水圧を上昇させて孔壁に引張破壊を発生させたり,亀裂の再開口を起こさせる水圧破砕法,機械的システムによって孔壁に応力を載荷する固体圧破砕法などがある.たとえば,SR-CanでのForsmark地域の調査では,オーバーコアリング法と水圧破砕による初期応力の調査が実施されている(図2.3.1-1).
また,地震の発震機構は応力状態に影響されることから,調査地域の微小地震観測も応力変化の指標として有効である.フィンランドではオンカロと呼ばれる地層処分を目指した地下実験施設の建設に先だつ2年前に微小地震観測ネットワークを6ステーションから開始して2009年までに14ステーションに増やして実施している.これは地層処分場に向けた地下実験施設建設地域のまだ乱されない状態の微小地震活動のベースラインを得るためのものである(脚注1) (Posiva, 2010).
いずれにせよ,これらの議論には応力と変形・破壊特性のデータが必要であり,具体的には応力,一軸圧縮強度,弾性係数,ポアソン比,粘着力,内部摩擦角,引張強度,弾性波速度といったデータの取得が必要とされる.
- 図2.3.1-1 Forsmark (スウェーデン)でのボーリング孔を利用した岩盤応力測定例.(SKB, 2006を簡略化).
評価指標のデータ採取にあたって考慮すべき点
これらのデータはサイト固有の物性値であり,岩盤の空間的な広がりに応じた不均質性を考慮する必要がある.したがって,地質構造を考慮してできるだけ多くの試料を測定することが望ましいが,一般的に力学試験は時間を要する上に物性に異方性があり,十分なデータを限られた時間内で適切に取得することが難しいこともある.岩石の異方性の程度が物性によって異なり,その相互関係についても少しずつ明かにされている(たとえば林ほか, 2003).このような性質を利用して,比較的簡便に異方性が確認できる試験を事前に実施して,それを踏まえて異方性を考慮した時間を要する物性試験を効率的に実施することも考えられる.
初期応力状態の把握は処分施設建設に先行する地下実験施設建設のさらに前の段階で実施すべきことであるが,地層処分事業で先行する各国で必ずしも満足のいくデータが取得されていないのが現状のようである.スウェーデンではSR-Canの段階では,測定がうまくいったケースが少なく,サイト調査を完了するまでにさらに測定を追加実施すべきことが規制側から指摘されている(SKI and SSI, 2008).フランスでは処分施設の母岩とされるCallove-Oxfordien層での応力測定が一深度(500m)でしかなされておらず,しかもエラー巾が大きく施設の周囲に発達するEDZの広がりの評価に影響すると規制側に指摘されている(IRSN, 2005).応力測定をルーチン化して精度の良いデータを得るのは難しく,調査に際しては現場に合わせた事前の十分な計画と準備,細心の試験が必要となろう.
評価指標の判定にあたって考慮すべき点
岩石物性や力学特性のデータ自体が,精密調査地区選定段階において排除要件となることはない.しかし,前述のように取得されたデータについては,試験の品質保証も含め十分な妥当性の検討が必要である.
実際の評価にあたって参考となる知見
既存文献中に数多く存在する一軸圧縮強度と他の物性値を比較検討して相関関係を探る多くの試み(たとえば核燃料サイクル機構,1999)は,サイト固有の試験体について十分な母集団が得られない場合の,統計モデルとその母数についての参考として利用できるほか,サイト固有の特性を把握する上での手掛かりとして活用できよう.
フィンランドではPosivaがオルキルオトにおけるオンカロの建設に先だつこと2年の2002年から6ステーションでの微小地震観測網を設置して,2009年までに14ステーションで3軸加速度センサーによる観測を実施している.観測される振動の殆どは,発破など建設に伴う人工的なものであるが,その他に誘発された微小地震が年数発程度含まれており,これを用いて発震機構と応力,フラクチャー帯との関係が考察されている(Posiva, 2010).
再冠水が遅く極度に乾燥した処分孔では,伸張応力による肌落ち(spalling)が生じる可能性が指摘されている.このように発破のダメージが小さい坑道でも伸張応力による肌落ちが透過帯の原因となる可能性について,明かに除外されない限り考慮すべきであるとスウェーデンの規制当局は指摘している(SKI and SSI, 2008).
フランスにおける事業者ANDRAは,初期応力を利用して,坑道周囲のEDZの広がりを予測し(図2.3.1-2),実際の掘削データと比較しているが,規制側はモデルの信頼性を確かめる情報としてこれを利用している.フランスの規制当局は不飽和による岩盤の性質の変化に注意を向けており,不飽和による側壁の収縮と岩盤の水理学的ダメージについて事業者側と見解を共有している(IRSN, 2005).
不飽和の物性値の変動については,熱物性においてスウェーデンの規制当局が指摘したところでもあり(SKI and SSI, 2008),先に記した肌落ちとも問題意識を共有するものといえる.
フランスでは処分地が堆積岩地域であることから,事業者側は多孔弾性論を用いているが,規制側は空隙が極めて小さいことから,完全な排水が困難で間隙水が物理的に吸着(physisorbee)している場合の挙動やマトリクスが弾性的のみならず粘塑性的(viscoplastique)にふるまう場合の検討も課題と考えているようである.また,熱応力の影響について処分孔の近くに影響が限定されるというANDRAの見解を認めつつも確認のための補足的な試験が必要であるとしている(IRSN, 2005).熱応力の問題については,スウェーデン規制当局も緩衝材が十分膨潤して反力をささえる前に処分孔周辺の熱破砕(thermal spalling)を招く可能性に同意するとともに熱破砕を評価する手法を開発すべきとする国際的な外部評価の意見を提示している(SKI and SSI, 2008).
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- 図2.3.1-2 坑道周囲の掘削影響領域(EDZ)の広がりを応力配置,岩盤区分,深度条件を変えて事前に予測することを堆積岩の地下実験施設(Bure,フランス)で試みた事例(IRSN, 2005を簡略化).
フランスの事業者ANDRAはEDZを連結性が良く透水性の高い割れ目帯と連結性が不良で透水性の低い微細亀裂帯の2種に区分している.Rは坑道半径.
実際の評価にあたって残された課題
不飽和岩盤の物性評価,熱応力の評価,特に地下実験施設を利用した現位置での適用性評価が今後の課題として重要である.また,堆積岩においては多孔弾性論的扱いをより実体の挙動に近づけることが求められ,このことが安全評価にどのように影響するかを検討することも必要である.
(2) 亀裂のモデル化手法
安全評価と亀裂のモデル化
地下水流動シナリオに基づく地層処分の安全評価は,廃棄体パッケージから生物圏までの地下水流動経路の特定とその経路にそった核種移行遅延特性を反映した核種移行計算を用いてなされる.多くの場合,計算結果から被爆線量を求め,それを基に安全性が判断されるが,代替指標と呼ばれるこれ以外の判断基準が用いられることもある.
いずれにせよ,地下水の流動経路の特定が鍵となるが,地下水の流れかたは多孔質媒体を流れる時と媒体中の亀裂(fracture)を流れる時で異なる.そこで,まず地下水流動において亀裂がどのように安全評価上扱われるかを概観することにする.なお,ここでは亀裂の語は割れ目の両側で変位を伴うもの(断層)も伴わないものも指すこととする.亀裂はさまざまな分野で扱われて,その関心は亀裂に存在する水,蒸気,油,鉱物(脈)であったりする.当然,共通する部分もあるが,分野に特化した部分もあり,ここでは,核種移行の視点で亀裂のモデル化を扱い,必要に応じて他の分野の成果も参照することとする.
亀裂のモデル化の事例
代表的な事例として,スウェーデンにおける処分の実施主体SKBによるサイト選定のための中間報告であるSR-Can報告からForsmark地域についての調査を取り上げる(SKB, 2006a,b).この報告はスウェーデン規制当局がレビューを委嘱した国際レビューグループから先端的で高い科学的水準とされており(SKI and SSI, 2008a),事業者の報告書のみならずそれに対する規制側の見解も参照できる点で好適な事例といえる.この報告では表2.3.2-1 に示すような複数の水文地質学モデルが構築された.
地域スケールモデルとして,連続体多孔質モデル(CPMモデル:Continuous Porous Media)と等価連続体多孔質モデル(ECPMモデル:Equivalent Continuous Porous Media)の2通りのモデルが構築され,それをもとにモデルを複合させた詳細モデルとして,個別亀裂ネットワークモデル(DFNモデル:Discrete Fracture Network)とCPMを組み合わせたモデル,CPMとCPMを組み合わせたモデル,ECPMとDFNを組み合わせたモデルの3通りが検討された.それぞれの特徴とそれを用いたシミュレーション結果についての事業者自身の評価を表2.3.2-1にまとめる.
- 表2.3.2-1 SR-Canで用いられたさまざまな亀裂モデル例.SKB(2006b)による.
事業者が地下水流動モデルを評価する上で着目した比較のポイントは,流動時間(travel-time),初期ダルシー流速(initial Darcy velocity),パス長(path length),F指数(F-quotient)の4つの性能指標を用いることであった.流動時間はキャニスタの位置から地表に地下水が到達するまでの時間,初期ダルシー流速はキャニスタの位置での地下水のダルシー流速,パス長はキャニスタの位置から地表に地下水が到達する経路の長さ,F指数はキャニスタの位置から地表に地下水が到達する経路に沿った核種移行の遅延因子にかかる指数である.これらの性能指標のうち流動時間,初期ダルシー流速,F指数は性能評価コードの直接的な入力として使用された.
詳細モデルにおけるリポジトリスケールモデルでは,個々のリポジトリからの核種の移行経路として,処分孔壁亀裂(Q1),EDZ(Q2),トンネル壁亀裂(Q3)の3タイプを想定した(SKB,2006b).また,DFNモデルにおいては,亀裂長と透水量係数(transmissivity)との関係を無相関,相関,準相関の3つの場合に分けたシミュレーションを実施した(SKB,2006b).
シミュレーション結果は,以下の通りであった.CPM/CPMにくらべCPM/DFNのほうがキャニスタからの地下水のパスが水平的に遠くに届かず,直上の地表に向かう傾向があり,地表への到達が早いなど性能指標はCPM/CPMにくらべCPM/DFNのほうが悪いシナリオになるとともに値のばらつきも大きかった.DFNモデルの間では,Q1のほうがQ2よりも値のばらつきが大きい傾向がみられた.また,亀裂長と透水量係数の関係では無相関および準相関の方が相関よりも悪い結果を与えた.感度的には,亀裂を考慮するかしないかの影響が最も大きく,亀裂長と透水量係数の関係がそれに次ぎ,トンネルバックフィルやEDZの影響はそれらより小さいと評価された.ただし,トンネルバックフィルやEDZの影響が小さいのはこれらが処分場の大局的な動水勾配に対して直交するような配置を仮定しているためと考察された.したがって,このような条件でない場合は異なる評価結果となる可能性がある.
地域スケールモデルでは,ECPMはDFNを基に作成された等価な連続体モデルであるので,結局DFNの性質を反映して,上述のリポジトリスケールでDFNとCPMを比較した場合と同様な傾向がECPMとCPMの間にも認められた.
スウェーデン規制当局はSR-Canの評価において,このようなDFNモデルを用いて地質学的亀裂ネットワークモデルを表現すること,ならびに複数モデルを検討することを高く評価した.その一方でさらに理解を深めるべき課題を上げた(SKI and SSI, 2008b)が,その中からサイト固有なものを除いて亀裂モデルにかかる課題を取り上げると以下の通りである.
- ・亀裂サイズと透水量係数の関係.
- ・透水係数または亀裂密度の空間的不均質性.
- ・構造の階層性.
- ・亀裂連結性に影響するその他の要因.
亀裂のモデル化にかかる課題としておおよそここに上げた項目で特に不足はなく,これらについて現状を次に検討する.
個々の課題の現状
1) 亀裂サイズと透水量係数の関係
SR-Canにおいては,亀裂サイズと透水量係数との間は,1)ある値を中心に統計的なばらつきをもつ(無相関),2)対数線形関係に統計的なばらつきが重なっている(準相関),3)対数線形関係(相関),の3通りのケースを解析領域全体に一律に適用しているが,おそらくこの問題においては,亀裂の実態解明を踏まえた透水量係数の検討が鍵となろう.これに関連して以下にあげるような亀裂の幾何形状と透水性の関係など多くの検討がこれまでなされている.
幾何学的な亀裂開口幅の平均と,同じ流量を与える平行平板の開口幅(水理学的開口幅)の関係では後者がかなり小さいことは古くから知られている(Brown, 1987など)ところであるが,亀裂透水性が平均開口幅のみならず開口幅の標準偏差にも支配されていること(Matsuki et al., 1999)や,結晶質岩を用いた亀裂表面形状と亀裂開口幅の関係の解析からは亀裂開口幅の標準偏差は亀裂サイズが約1000mmとなるとほぼ一定となることが示されている(坂口ほか, 2002).数値シミュレーションによる仮想亀裂の亀裂開口幅と透水性の解析では,最大から1.5桁程度までの亀裂開口幅の長波長成分に亀裂透水性が殆ど支配されていることや,亀裂サイズと水理学的開口幅の間の対数線形関係を認めることができる(松木ほか, 2001).これらの関係を亀裂サイズと透水量係数の関係に取り込む工夫など今後も発展する余地があろう.
2) 透水係数または亀裂密度の空間的不均質性
空間的不均質性とそれにともなう不確実性の扱いとして,確率論的なアプローチをとるのが一般的であり,亀裂の統計的な発生(realization)についてさまざまな方法が試みられている.例として,亀裂方位については,一変量フィッシャー分布(SR-Can (脚注2)),亀裂サイズと亀裂密度については,べき乗則分布(SR-Can),フラクタルモデル(Tamagawa et al., 2002),亀裂中心の分布については,ポワソン分布(SR-Can),地球統計学(Tamagawa et al., 2002)があげられる.なお,SR-Can(SKB, 2006a)によると,亀裂方位のモデルの不確実性の重要性は亀裂中心の分布にかかるポワソン分布や亀裂サイズ分布にかかるべき乗則分布に比べると副次的であるとされた.しかし,この判断の根拠となったシミュレーション結果は後述するようにアップスケーリングによってチャネル性が鈍されていることが影響している可能性があるので注意が必要である.
おそらく,次の課題もそうであろうが,より複雑で計算リソースを消費する方向にこの問題の解決は向かうであろうが,最後に記すようにこれらのパラメータをどのようにキャリブレートするかが鍵となろう.
[1]SR-Canではこのほかに二変量フィッシャー分布と二変量ビンガム分布を検討しているが、違いが小さいことと生成法が単純という理由でこれを選択している.
3) 構造の階層性
構造の階層性を亀裂モデルに反映することとして,nested lognormalモデルやmechanistically based modelが上げられた(SKI and SSI, 2008a)が,その具体的なイメージはつかみにくく,ここでは亀裂のサイズに関係した扱いについて事例に即して概観する.
大きな亀裂と小さな亀裂を別個に扱うことはしばしば行なわれることで,たとえばSR-Canでは大きな亀裂を確定的(deterministic)な亀裂として,小さな亀裂を確率的(stochastic)な亀裂として,両者を混合して扱っているが,このような試みは地熱の分野でもなされており,亀裂型貯留層のモデル化に成果を上げている(手塚・渡辺, 2002).SR-Canに対する規制当局のレビューでは,亀裂セットを識別して,それぞれについて異なるサイズ相関を用いて統計的に亀裂を生成すること(SKI and SSI, 2008a)が提言されたが,これに関連して石油の分野には次の事例がある.
Tamagawa et al.(2002)は亀裂を開口が大きく流動に寄与する少数の亀裂と開口が小さく貯留に寄与する多数の亀裂の2群に区分し,ボーリング孔壁電子画像をもとに亀裂統計量をそれぞれの群について取得し,それぞれの群について独立に亀裂をシミュレーションにより発生させ,これらを重ね合わせてECPMモデルに置き換えることをした.この際,亀裂開口幅と亀裂密度の間にフラクタル性を仮定し,亀裂分布についてはそれぞれのセットについて地球統計学を適用し,亀裂開口幅と亀裂サイズの比とバリオグラムのレンジを調節パラメータとすることで得た亀裂について,二重空隙モデルでは説明が困難なデリバティブプロットと良好な一致を得た.
このような方向での階層性の認識には成因論的考察が不可欠で,次項にもあるような地史的成因を踏まえた検討が必要となろう.
4) 亀裂連結性に影響するその他の要因
ECPMモデルでは,統計的に発生させた亀裂は一般的には三乗則によって等価な多孔質モデルに写すことが多い(Tamagawa et al., 2002; 松木ほか, 2001; 井上ほか, 2007など)がSR-Canのように,保守的であるとの理由によって経験則を用いる場合もある.ただし,亀裂をECPMに写すことにより,透水係数テンソルとして流れの場を表現することはできても,物質移行挙動に関して等価な分散テンソルを得ることは困難で,長距離パスの破過についてチャンネル効果が鈍されるとした(Ohman and Niemi, 2005; SKI and SSI, 2008a).さらにECPMの問題として,有効空隙率の異方性が表現できずに,これも結果としてチャンネル効果を鈍すという指摘がある(SKI and SSI, 2008a).
交差する亀裂の成因が異なる場合,それに応じて亀裂面の性状が異なる場合があると考えられるが,この場合,当然亀裂ごとの保持因子も異なるはずで,亀裂面方位に応じた保持因子のわりあてが提言されたが(SKI and SSI, 2008a),そうであるならば亀裂面方位の地史的成因を踏まえた検討もおそらく重要になろう.
石油探査業界では,亀裂の浸透性に現在の応力場が強く影響しているといった認識が一般化しつつあり,浸透性を保持しうる亀裂は臨界応力状態にあり,継続的に剪断すべりを生じる環境下にあるものに限られるとの指摘がある.このことから,2次鉱物の充填により浸透性を失った亀裂が応力場の変化によって浸透性を回復することがあるが,この場合回復できる亀裂は臨界応力条件を充たし,剪断すべりが起こりうる特定の方向性を持つものに限られるとされた(石油技術協会,2004).この点に関しては,複数のエピソードを経た塑性変形と既存の亀裂の再活性について新たなモデルの必要性を示したSR-Canに対する規制側のコメント(SKI and SSI, 2008a)も同様な指摘であり,今後の研究の方向性を示すものと言えよう.
亀裂のモデル化の今後の課題
亀裂のモデル化についてはこれまでに記したように多くの手法が複雑に組み合わせられて試みられているが,その信頼性の向上には構築されたモデルパラメータのキャリブレーションが重要であり,そのための圧力干渉試験やトレーサ試験などの原位置試験が必要であるとされている(SKI and SSI, 2008a).同様な指摘は石油の分野にもあり,統計的パラメータの不確実性は圧力干渉試験などの動的な測定によって減ずるだろうとされている(Tamagawa et al., 2002).今後URLを活用して,こういった課題に取り組む必要がある.
脚注
- フィンランドの微小地震観測はベースライン調査だけでなくセーフガード,すなわち核廃棄物が隠せる秘密の地下スペースの構築や,核廃棄物にアクセスするための非合法的なトンネルの掘削を防止する監視の目的も含まれる.
- SR-Canではこのほかに二変量フィッシャー分布と二変量ビンガム分布を検討しているが、違いが小さいことと生成法が単純という理由でこれを選択している.