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技術資料2012 精密調査地区選定のための調査の考え方:地質構造調査を例として

精密調査地区選定のための概要調査の主要な目的である対象サイトの地質環境の記載において,処分の対象地層を含めたサイトの地質構造は非常に重要なものであり,将来の安全評価やセーフティーケース作成において基本的となる地質モデルが十分な合理性を持って構築される必要がある.「Siting of Geological Disposal Facilities」(IAEA, 1994)では,地質構造調査のガイドラインとして,「母岩の深度と形態が十分な隔離性能を持っており,核種移行を促進する不連続面から十分な距離を持っており,均質な地質体や水みちとなる明瞭な構造面が少ないこと」を挙げている.

一方,調査結果の品質保証については,データが高精度でありかつ客観的に再現できること(IAEA, 1994 など)が求められているが,その品質判断の基準は我が国で詳細かつ明確に共有されるに至っていない.このため,少なくとも報告書等に用いられた調査過程については,全てのデータが公開され,精度についての第三者判断が可能となっている必要がある.

本項ではこれらその点について,概要調査段階の主要な目的の一つとなる対象サイトの地質モデルの構築に当たり留意すべき全般的確認を,地質構造調査に対して記述したが,これは地質構造調査に限らず,本資料の以下の各項での調査項目に全般的に適用されるものである.

 

評価対象の概要

我が国において地層処分の対象となり得る地質体は,岩石中の断層や節理などが主たる地下水の移行経路となっている亀裂性媒体(硬岩系岩盤グループ;結晶質岩や先新第三紀堆積岩類など)と岩石構成粒子相互の間隙が主たる地下水の移行経路となっている多孔質性媒体(軟岩系岩盤グループ;新第三紀堆積岩類など)に大きく分類される.多孔質性媒体とされる堆積岩類においても,しばしば断層などの構造が確認されるため,三次元的な地質モデルを構築する上で,断層や節理などの存在と,それらが地下水の移行経路となっているか否かの確認は極めて重要となる.断層のうち活断層については,大縮尺空中写真判読と現地調査により,一定規模以上の活断層についてはほとんど見逃すことはないと考えられる.しかし,高レベル放射性廃棄物の地層処分のための調査では,不明瞭なリニアメントについても活断層か活動的ではない断層・節理かの判定を行ない,かつそれらが地下水の選択的な移行経路になっているか否かの判定までをも行なうことが最終的には必要とされる.従って統計的手法等の確率的な取り扱いによるスクリーニングを行った場合にでも,最終的にはこれらの判定は直接的な調査・検証に依るべきである.従って,理想的には対象地層から地表までを構成する地質体およびその地質体中に発達する地質構造を,可能な限り直接的に調査・検証することが,地質モデルの信頼性を高める視点から好ましいと言える.

地表調査により,対象地層を構成する地質体およびその地質体中に発達する地質構造を直接的に調査・検証できる場合は,地質モデルの信頼性を高める視点から極めて好ましいと言える.処分領域を構成する地質体が地表に露出している場合は地形判読と現地調査などにより地質構造に関するデータを取得できる.しかし,処分領域を構成する地質体とは異なる地質体が地表を厚く覆っている場合,地下深部活の地質構造を把握する手段は極めて限定され,かつ多額の探査費用が必要となる.例えば,地形判読に相当する調査としては処分領域を構成する地質体の上面の3次元的な形状を把握するための稠密な反射法弾性波探査が必要であり,さらにその他の物理探査やボーリング調査を併用することにより地質・地質構造を確認する必要があるが,取得できるデータの質・量・分解能は地表調査が可能な場合に比べて低下せざるをえず,結果として構築される地質モデルの信頼性は低くならざるをえない.

高レベル放射性廃棄物の地層処分のために構築される地質モデルでは,処分深度に影響を及ぼす地下水の移行経路となりうる構造のモデル化が必要となる.活断層や大規模な断層を除いた活動的ではない断層・節理などは,亀裂ネットワークモデルではその空間的形状を円盤状と仮定しモデル化されることが多いが, その場合は地表で確認された断層・節理の長さが処分深度の2倍程度以上のものについてはモデル化を行なう必要がある(Tompson et al., 1987; 井尻ほか, 2004 など).また,多孔質媒体の場合は,それらを構成する岩石のうち透水性の高い岩石そのものも地下水の移行経路となるため,モデル化を行なう必要がある.このような地下水の移行経路となり得る構造の数が比較的少なければ,構築された地質モデルの信頼性は高くなるであろう.しかしながら,地下水の移行経路となり得る構造の数が多くなれば,それらの構造が交叉する領域が増え,またそれらを調査・検証する手法も制約されることから,構築された地質モデルの信頼性は低くならざるをえない(Lim, 1984 など).

従って,地質モデルの信頼性を高める視点からは, 処分領域から地表までを構成する地質体およびその地質体中に発達する地質構造を直接的に調査・検証できること,できれば地表調査で確認でき,地下水の移行経路となり得る構造が少ない,が好ましいと言う事ができる.

 

評価指標の設定とデータ採取

水文地質構造は基本的に地質構造に規制されており,基本的な地質構造の枠組みを把握することは地下水システムの解析・モデル化において極めて重要である.地質環境調査では,地質体・岩体の種類と透水性,また水みちとなる構造の有無により調査手法が異なるとともに,基本的な地質構造の枠組みを構成するときに使用する(できる)データの種類が異なる.被覆堆積物・堆積岩層が処分深度に分布する基盤岩を厚く覆う場合には,より特殊な調査・解析を行う必要がある.また,作成される地質構造の枠組みは,水文地質構造のみならず地下水流動・核種移行などの各モデルの基礎として引き継がれるため,地下水の移行経路となる構造を表現できるものである必要がある.以下では代表的な地質環境別に,基本的な地質構造の枠組みをモデル化する際の留意点について記述する.その際には,原子力発電環境整備機構(2011)により想定されるサイト調査計画等に照らし,地質構造モデルの高精度化において必須ならびに重要な調査結果について,調査段階・手法の優先度を検討した.
(1)堆積岩類

層状構造を持つ堆積岩類の解析・モデル化においては,表層地質とコントロールポイントにおける掘削調査,反射法探査による断面構造を組み合わせることによって,地質構造モデルを高度化することが可能となる.表層地質と合致しない重力異常や磁気異常などの構造は伏在する異種岩体(貫入岩体など)や伏在断層などを示唆する可能性がある.断層は,その連続性(総延長)と変位量あるいはダメージゾーンの幅(Caine et al., 1996)と透水(異方)性を基にモデル化の時点で取捨選択される.代表的な地質体におけるモデル化の際の留意事項の主要なものは以下の通りである.

・付加体堆積岩類:各スラストシートを区切るスラストの規模・破砕程度・透水(異方)性

・堆積岩類:正断層から逆断層への転換に伴われるような断層周辺の構造・透水(異方)性の変化
地質モデル構築時に用いる調査データの優先順位を想定される調査手法に基づいて整理すると,次のように考えられる.

  1. 地表面における地質・地質構造の分布
  2. 掘削地点における深度方向の地質・地質構造の分布
  3. コントロールポイントで修正された反射法探査断面
  4. 重力・磁気異常から推定された異種岩体・断層の分布
  5. 電磁探査・比抵抗探査の解析結果
  6. 収集された既存文献およびボーリング・データ

(2)地表に露出した結晶質岩類

反射法探査が有効ではない結晶質岩類では,掘削調査による深度方向のデータと掘削孔周辺のジオトモグラフィ断面が岩体の深度方向分布に有効なデータとなる(小出,2001 など).また,健岩部の透水性が低く,断層・節理など構造が水みちとして機能するような高い透水性を示す場合は,水みちとなる構造のモデル化が必要とされる(宮川,1999; 田中,1999 など).水みちとなる構造には2種類が存在し,高透水性で貯留効果の認められない水みちと,低透水性で貯留効果の認められる水みちに分類される (Ligtenberg, 2005 など ).少数の高透水性で貯留効果の認められない水みちは個別的にモデル化する必要があるが,大多数の低透水性で貯留効果の認められる水みちについては統計的な評価を行なえばよいと考えられる(例えば 下茂ほか,2011 など).なお,水みちとなる構造の透水性は,花崗岩類などでは地下水の流動経路となることにより透水性がさらに高くなるが,斑れい岩や流紋岩類などでは一旦は地下水の流動経路となるものの岩石が地下水と反応することにより粘土化し透水性が低くなるものが存在するため,岩体の種類や岩石-水反応の特性を踏まえた解析・モデル化が必要となる(中島,1995;竹野,1995;鹿園,1999 など) .

花崗岩体などに発達する断層・節理などの解析・モデル化においては,長期の侵食現象により形成された構造地形と考えられるリニアメントのモデル化が重要である.例えば,阿武隈花崗岩体では,リニアメントに連続するような高角の割れ目は透水性の極めてよい水みちとなることが知られており(塚本ほか,2009 など),断層などと同様に処分深度の地下水流動に十分に影響を及ぼしうると考えられる.なお,露頭規模で観察されるような小規模な断層・節理などは孔壁からの平均的な漏水量の算出などに有効なパラメータとなるが,基本的な地質構造のモデル化では考慮すべき対象とはならない.
地質モデル構築時に用いる調査データの優先順位を想定される調査手法に基づいて整理すると,次のように考えられる.

  1. 地表面における地質・地質構造(リニアメント含む)の分布
  2. 掘削地点における深度方向の地質・地質構造の分布
  3. 掘削地点におけるVSP探査断面
  4. 屈折法探査断面
  5. 重力・磁気異常から推定された異種岩体・断層の分布
  6. 収集された既存文献およびボーリング・データ

(3)堆積物・堆積岩層に厚く覆われた結晶質岩類

処分対象深度に存在する結晶質岩類を堆積物・堆積岩層が厚く覆っている場合,被覆堆積物・堆積岩層の地質・地質構造は本項の(1)「堆積岩類」で記述した方法で解析・モデル化を行うことができる.被覆堆積物・堆積岩層の最下部に基底礫岩が存在する場合や,基盤岩の最上部にチャネル構造が存在しチャネルを埋積した礫岩などが存在する場合は,それらの礫岩が透水性のよい水みちになっている可能性が高いので,その分布や構造をモデル化する必要がある.

また,結晶質岩類(基盤岩)の上面の旧い地形面は構造地形の可能性があり,その古い地形面から基盤の結晶質岩類内に発達する構造を推定できる可能性がある.従って,結晶質岩類(基盤岩)の上面の埋積された地形面は稠密な反射法探査により捕捉し,旧い地形面の解析および現地形面との関係を明らかにする必要がある.
地質モデル構築時に用いる調査データの優先順位を想定される調査手法に基づいて整理すると,次のように考えられる.

  1. 地表面における地質・地質構造(リニアメント含む)の分布
  2. 掘削地点における深度方向の地質・地質構造の分布
  3. コントロールポイントで修正された反射法探査断面
  4. 掘削地点におけるVSP探査断面
  5. 重力・磁気異常から推定された異種岩体・断層の分布
  6. 電磁探査・比抵抗探査の解析結果
  7. 結晶質岩類(基盤岩)の上面の埋積された地形面から推定される地質構造
  8. 収集された既存文献およびボーリング・データ

 

評価指標のデータ採取にあたって考慮すべき点

(1)地質モデルの信頼性を高める視点から,対象地層から地表までを構成する地質体およびその地質体中に発達する地質構造を対象とするが,これらが構成する地下空間の規模が処分場を十分に包括できるものであることを,直接的に調査・検証できるデータセットであること.(脚注1)

 

  • 表2.1-1 処分深度を対象とする代表的物理探査手法の探査深度と対象物性. 

探査対象の物性がサイト地下のどのような地質構造(不連続面)に相当するかを解釈するに当たって必要となる,
十分な対照データに基づいた裏付けの一例として提示した(池田ほか,2000;物理探査学会,2008;高倉ほか,1997;等に基づく).
具体的な手法ごとの検討は,本報告所第4章(3)b.地球物理モニタリングの項に詳述する.

 

・サイトを構成する地質体の標準的な特性値としては,既往の広域地質調査に基づく地質定義に照らした層序,岩体記載,地質構造を提示した上で,サイト調査で得られたローカルな層序・岩体記載を対比するべき.
・ボーリング調査に基づく最低限の代表的な岩石物性について,力学並びに鉱物化学的な項目が直接提示され,地下の空間的不均一性に応じた変動範囲が想定されるべき.
・文献調査で事前に既往成果で明示されている排除要件は確認済みであるが,概要調査の趣旨に鑑みれば,この不均一性や不連続性が処分場の安全設計や将来の安全評価において決定的なバリア性能の破綻項目になることは避けなければならない.従って,精密調査地区選定にとどまらず将来の安全確保に必要な地質特性の不均一性や不連続性の限界を別途想定し,明示し,調査結果の提示の際に参照されるべき.

(3)性能評価の信頼性を高める視点からは,地質モデル中の地下水の移行経路となり得る構造が少ないデータセットである方が好ましいため,それら該当する構造の空間的把握が十分であることが好ましい.また,地下水の移行経路を規制する水理学的不均一性境界の空間的把握が十分であることが求められる.
(4)付帯的な配慮として,実施した調査活動がサイトの地質特性へ与える影響が十分に吟味され,これらボーリング掘削等の調査が天然バリアの隔離機能に対して与える影響が最小限になるように適切に計画・実行され,かつその証拠が残されていること.

 

評価指標の判定にあたって考慮すべき点

レビューにあたっては,前項の点に留意し,具体的には以下の観点等を含めた確認項目を設定するべき

(1)既往成果の吟味と確認

・対象サイトを含む地形及び地質・地質構造に関する主要な文献が吟味され,実際のサイト調査計画策定に反映されているかどうか. 特に既往文献間での不一致等の要確認事項の有無が検索され,必要に応じてその検証が調査計画に組み込まれているかどうか.
・既往報告での指摘がない場合にも,環境要件等に照らし,活火山活動,活断層等の有無等に関して,対象サイトの火山岩・火成岩の活動年代や,地質断層の活動性等に関する確認作業が,調査計画に組み込まれているかどうか.

(2)手法の確認

・調査・解析手法を選択するにあたって,対象サイトの地形,表層地質,岩石物性,人間活動や物理化学的擾乱の影響を十分に把握しているかどうか.
・調査・解析対象の地下母岩領域が整理され,特に調査・探査結果を地質構造(特に物性に基づく物質境界の空間分布)として提示する際には,対象の物質境界のプロキシーになり得る物性値を対象とする手法が複数ある場合に選択肢が提示されているかどうか.
・選択された手法の1次取得情報が,モデルを記述する対象地層のどのような特性を反映しているかが整理され,それに最適な手法の選択根拠が明示されているかどうか.
・その上で,選択された手法の持つ不確実性と空間的適用範囲・限界を,正しく認識しているかどうか.

 

(3)データの取り扱い

・習得されたデータが十分な品質および精度であるかどうかが客観的に確認できるかどうか.この確認のためには,解析結果や解釈図の表示に伴い,可能な限り再現性の客観的な確認が可能な探査データが添付されているか,総合的な調査データのアーカイブが公開されていることが必要である(IAEA, 1994).
・手法の適用における管理と記録は十分かどうか.特に物理探査や坑井内原位置試験等において,探査や試験での使用ツールや各種パラメータ,探査・試験ログ等が明示されているかどうか(IAEA, 2006; 2008).これによって,調査・試験・分析等に対する品質保証として,要求される品質を満たすための設定や前提条件で行われているかどうかの客観的な確認が行えることが必要である.
・データの使用方法や解析法,表示法は正しいかどうか.この点は,(4)の自己検証の手順にも照らし,結論に至る議論の前に十分に提示されていることが必要である.

(4)考慮すべき事項

・複合手法による自己検証の考え方は取られているかどうか.調査対象項目に適用可能な複数の調査・分析・解析手法が存在する場合に,それぞれの適用性やその限界と結果の不確実性の幅を提示した上で,それぞれの適用結果に対する比較検討を行うことは,特に概要調査段階で作成される地質概念モデルの精度が限られざるを得ないため,重要である.これらの複合手法による自己検証の結果が一致しない場合には,その原因を検討する事により,単一の手法による結果では抽出し得ない不確実性の把握が可能となる場合がある.
・境界条件や調査における仮定パラメータの設定に問題はないかどうか.本来は手法の確認の際に抽出される手法の適用性や不確実性を吟味した上で設定されるものであるが,それらを合理的に設定することが可能ではない場合が想定される.この際には,境界条件や仮定パラメータが持つ調査結果に対する感度の検討や,設定値に幅を持たせた場合の結果の参照等の検討が行われ,提示されている事が好ましい.

 

脚注

  1. 処分深度以深の調査範囲については,サイトの地質構造や構成岩体の物性によるが,モデルの信頼性確保の点からは,おおむね処分深度の2倍以上の範囲が含まれるべきである.一方,想定される探査手法の多くは1Km程度の可探深度を持つ(表2.1-1)