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技術資料 あとがき

この技術資料を作成する契機となったのは,原子力安全・保安院からの委託研究に関して平成16年に廃棄物安全小委員会が行なった研究計画の評価である.この時原子力安全・保安院からの委託研究を実施していた産業技術総合研究所深部地質環境研究センターでは,規制当局の行政ニーズである概要調査のガイドラインに向けて,概要調査の調査・評価項目を平成18年度にまとめるという研究計画を廃棄物安全小委員会に提出し,目標設定及び研究計画の妥当性,安全規制支援研究の独立性等についての評価を受けた.この研究計画に従い,深部地質環境研究センターでは概要調査の調査・評価項目についての研究を進め,とくに平成17年度と18年度の2年間は,この技術資料集を取りまとめる作業を行なった.原子力安全・保安院からの委託研究は,平成18年度をもって終了するが,この委託研究の開始は平成13年度に遡る.

平成13年に行政改革の一環として旧通商産業省工業技術院傘下の15研究機関が1つにまとまって独立行政法人産業技術総合研究所が発足したが,それに伴い旧工業技術院地質調査所は他の工業技術院傘下研究機関との協力体制の下で5つの研究ユニットに分かれた.そのユニットの1つが深部地質環境研究センターである.また,このとき中央省庁の改革では,経済産業省の中に新たに原子力安全・保安院が設立されている.この新しい枠組みの中で,産業技術総合研究所深部地質環境研究センターは,原子力安全・保安院からの委託を受けて,「地層処分にかかる地質情報データの整備」の研究を行なうことになった.

平成13年以来,深部地質環境研究センターは原子力安全・保安院が行なう地層処分の安全規制を技術面で支援することをミッションに据え,行政ニーズ対応型研究に取り組んできた.同研究センターは委託元である原子力安全・保安院放射性廃棄物規制課が事務局となっている総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会廃棄物安全小委員会での審議に協力し,平成15年には同委員会によりまとめられた報告書「高レベル放射性廃棄物処分の安全規制に係る基盤確保に向けて」の作成にあたり,地質分野の技術情報の提供を行なった.この報告書では原子力安全・保安院のよる高レベル放射性廃棄物処分の安全規制についての基本的な考え方が整理されるとともに,研究課題の重要度が示されている.さらに翌16年に行なわれた廃棄物安全小委員会の研究計画の評価においては,冒頭で述べたような研究の方向付けが行なわれ,概要調査のガイドラインという次の行政ニーズに対応する形で,委託研究を進めることになった.

この技術資料は,原子力安全・保安院からの委託研究のアウトプットであり,行政ニーズに対応して作成されたものである.一方,委託研究のもう一つのアウトプットである学術的な研究成果は,この技術資料とは別に数多くの論文として学術雑誌に公表している.深部地質環境研究センターでは,この6年間に地質及び地下水の長期変動の研究および地質環境の諸特性に関する研究を行なってきており,地層処分システムに影響を与える事象に関する超長期の将来予測を課題とする研究に取り組み,変動の解析に必要な手法の開発を行なうとともに,難透水性の深部地質環境での地下水流動の予測や,地下深部での岩石・水・微生物の相互作用にかかる研究課題に取り組んできている.これらの研究成果のいくつかは,この技術資料に文献として引用されている.この技術資料は行政ニーズに対応して,知識の体系化を目的にして書かれているので,委託研究において6年間に出された個々の研究成果の詳細については触れていない.ご関心のある方は,引用文献から原典を参照していただきたい.なお,まだ論文化されていないものについては,各年度の事業報告書を参照していただきたい.

さて,この技術資料の作成にあたっては,平成17年の7月に編集委員会を発足させ,委託研究を担当している研究者が,それぞれの専門分野で執筆を分担することになった.産業技術総合研究所は研究機関であるので,論文の執筆にはそれぞれの研究者は十分な経験を持っているが,行政ニーズに対応した形で技術資料を取りまとめた経験は皆無に等しく,この技術資料の編集は試行錯誤の連続であった.そのような中,産業技術総合研究所で「第2種の基礎研究」という新しい基礎研究の概念の提示があり,社会ニーズに応える形で,研究成果を取りまとめるにはどのようにすればよいか,方法論の検討が行なわれていたことは,この技術資料の作成にたいへん参考になった.産業技術総合研究所の「第2種の基礎研究」は次のように定義されている.『特定の経済的・社会的な必要性(ニーズ)のために,既に確立した複数の普遍的な知識(理論,法則,原理,定理など)を組み合わせ,観察,実験,理論計算を繰り返し,その手法と結果に規則性のある知見および目的を実現する具体的道筋を導き出す研究をいう』.この技術資料は第2種の基礎研究の考え方に沿った知識の体系化の試みであり,地層処分の安全規制という行政ニーズに対応して,地質学及び水文地質学の分野で,超長期の将来予測についての知識の体系化を試みたものである.

この技術資料は安全規制政策の立案に資することを第一義的な目的にしているが,地層処分に取り組む地質学及び水文地質学の研究者にも役立つものであることを願っている.研究を始めるときにまず研究者が行なうことが,これまでの研究のレビューであり,その中から研究の第一線を切り拓いていく研究テーマが設定される.学術的な基礎研究では既存の学問体系の中でこのような作業が行なわれることが多いが,この技術資料を作るにあたって今回行なった作業は,地層処分という視点からの研究のレビューであり,地層処分の技術体系の一部を作り上げていく試みであるともいえる.このようにして書かれたものであるならば,地層処分において研究を必要としているプライオリティの高い課題がどこにあるか,この技術資料の中に見えてくるはずである.全体がそうなっていることを願っているが,まとめ方の不備等により,必ずしも全てのページで期待に応えられるようになっていないかもしれない.そのような場合は賢明な読者の眼力により内容を汲み取っていただき,洞察を加えていただけるようお願いしたい.

原子力安全・保安院から委託費は平成18年度で終了し,それに合わせた形で深部地質環境研究センターの活動も終了となるが,地層処分事業はまだ始まったばかりの段階にあるので,安全規制を支援する研究は今後とも継続する必要があり,産業技術総合研究所では平成19年度からは,地質調査総合センターの中の深部地質環境研究コアが中心となって,研究の主体を担うことになる.今後とも産業技術総合研究所の行なう地層処分の安全規制支援研究へのご支援をよろしくお願いしたい.

(笹田 政克 H19.3.19)

 

執筆分担

第1章
はじめに:笹田政克
第2章
調査・評価項目の設定:笹田政克
第3章
調査・評価項目に関する科学的知見:山元孝広,風早康平,小泉尚嗣,高橋正明,塚本 斉,笹田政克
第4章
調査の進め方:山元孝広,風早康平,小泉尚嗣,竹野直人,渡部芳夫*1,金井 豊,高橋正明,塚本 斉,高橋 学,鈴木庸平,笹田政克,石戸経士,板場智史,伊藤一誠,大坪 誠,大和田道子,上岡 晃,佐藤 努,杉原光彦,須甲武志,鈴木正哉,関 陽児,高倉伸一*2,高橋 浩,高橋 誠*3,竹田幹郎,竹村貴人,張 銘,成田 孝,西 祐司*2,浜崎聡志*3,松本則夫*3,森川徳敏,安原正也,吉田崇宏(*1企画本部,*2地圏資源環境研究部門,*3地質情報研究部門)
第5章
品質保証:高木哲一

 

技術資料編集委員会

編集委員長:
笹田政克
事務局:
月村勝宏,高木哲一,塚本 斉
編集委員:
山元孝広,風早康平,渡部芳夫*1(平成17年度),竹野直人,金井 豊(平成18年度)(*1企画本部)