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第2回深部地質環境研究センター研究発表会

平成15年6月13日(金) 10:00-16:30
産業技術総合研究所つくばセンター中央
共用講堂2階大会議室

目次

プログラム

笹田政克(センター長) ………… 10:00-10:10   「深部地質環境研究センターの研究」

牧野雅彦(地球物理チーム長)・安原正也(地下水チーム長)・塚本 斉(地質総括チーム) ………… 10:10-11:00   「結晶質岩地域の地質環境:阿武隈花崗岩」

小林健太(新潟大学大学院自然科学研究科、産総研客員研究員) ………… 11:00-11:40    「2000年鳥取県西部地震の震源域における地質構造解析」

(昼食休憩)

ポスター発表 ………… 13:00-14:00   深部地質環境研究に係わる個別の研究成果12件
招待講演:村上 隆(東京大学大学院理学系研究科教授) ………… 14:00-14:40    「地表付近でのウランの長期的移動機構」

金井 豊(地球化学チーム長) ………… 14:40-15:15   「核種の溶解・吸着挙動におけるナチュラルアナログ研究?その多様性と可能性?」

(休憩) ………… 15:15-15:25
竹野直人(地質情報チーム長) ………… 15:25-16:00    「地質環境の数値モデリングに向けて」

総合討論 ………… 16:00-16:25

月村 勝宏 (副センター長) ………… 16:25-16:30   「閉会の挨拶」

 

 

口頭発表

「深部地質環境研究センターの研究」

笹田政克 (センター長)

深部地質環境研究センターは発足3年目をむかえ,研究成果も次第に蓄積されつつある.2回目となる今回の研究発表会では,前年度発表を行わなかった分野を中心に,この2年間の研究成果を公表した.当センターでは原子力安全・保安院からの委託による放射性廃棄物地層処分の安全性評価に係わる研究を中心に、広く深部地質環境を対象にして研究を進めてきており,1)地層処分にかかる地質現象の長期変動に関する研究,2)地層処分にかかる天然バリアの隔離性能に関する研究,3)地層処分にかかる地質データベースの研究,4)地質環境の地域分布と情報提供に関する研究を重点研究課題としている.今回の発表会では1)および2)の中からのいくつかのトピックを紹介した.当センターにおける研究は,地層処分のサイト成立性評価および処分システムにおける核種移行評価を目標とする長期計画の中で、着実に進めていく予定である.

 

「結晶質岩地域の地質環境:阿武隈花崗岩」

牧野雅彦・安原正也・塚本 斉 (産総研)

日本列島は世界有数の島弧変動帯にあり,地震・断層運動,火成活動,隆起・沈降などの地質変動が活発である.これら地質変動から距離を置き,また存在したとしても変動が小さい比較的安定している結晶質岩地域における地質ならびに地下水など地下深部の環境,いわゆる地質環境を調査研究する手法を開発することを目的として,阿武隈花崗岩を対象として地質調査,水文調査,物理探査など各種現地調査を行った.東北日本列島を縦断するように盛岡−白河構造線という大規模な重力急峻帯が存在するが,阿武隈地域西部をこの構造線が南北に走る.この周辺における河川水の同位体組成解析に基づいて,地下水の流動には階層構造が存在すること,また地下水流動系は断層構造や断裂系など地質構造に強く規制されていることが明らかになった.断裂・裂罅の分布もこの構造線を境界に全ての系統の連続性や延長が不明瞭になっており,同位体組成解析による地下水流動系モデルを支持する.

 

「2000年鳥取県西部地震の震源域における地質構造解析」

小林健太(新潟大学)

2000 年鳥取県西部地震の震源断層直上とそれから離れた地域とでは,断層岩の発達密度・幅・色相に差があることが確認された.震源断層直上,特に震央周辺域では 11枚/5m以上の密度でガウジ帯が形成されている.また,比較的幅の広いガウジ帯(3cm以上)も分布する.それより外側では全般にガウジ帯の発達は低調だが,北東側の一部に限って同等の密度と幅を示す地域がある.両地域間でガウジ帯の色相を比較したところ,震央周辺域では約560枚のガウジ帯のうち,白色ないし黄色系が90%,赤色系が 7%であるのに対し,その北東側では約180枚のガウジ帯のうち,赤色系が69%,白色ないし黄色系が28%となる.さらに,断層ガウジよりも深部領域で形成されたと考えられるカタクレーサイトが,震源断層直上の5地点に限って認められた.これらの結果は,地形学的には検出困難な活断層が,地質学的な手法によって認識できる可能性を示している.

 

「核種の溶解・吸着挙動におけるナチュラルアナログ研究-その多様性と可能性-」

金井 豊 (産総研)

高レベル放射性廃棄物を人間社会から長期にわたって安全に隔離する地層処分システムの安全性評価のためには,長期にわたる核種挙動を把握することが重要である.ナチュラルアナログ研究は,高々数ヶ月から数年のタイムスケールで得られた実験データ・パラメータとは異なる自然界の長時間をかけた現象のパラメータを解析するため,長期にわたる核種の挙動を解明することができる.安全性評価に資するため,当所でもこれまで様々なフィールドでの地球化学データの採取と解析を行ってきており,本発表では,このようなナチュラルアナログ研究の一端としてウラン濃集兆候地での調査研究をはじめ,広義に解釈したナチュラルアナログ研究についても幾つか紹介した.

 

「地質環境の数値モデリングに向けて」

竹野直人 (産総研)

放射性廃棄物の地層処分において,核種移行評価は最終的な目標とされるが,そこに至るロードマップにおいて,地質環境を数値モデル化することは重要なマイルストーンと考えられる.本発表会では,地質環境の数値モデリングにはどのようなものがあり,どのようなアプローチがとりうるかを考えるとともに,当センターのこれからの取り組みについて概括的な話をした.我々はこのテーマに取り組み始めてから日が浅く,若干の基礎的な検討に着手したばかりであるが,これまでの地化学数値シミュレーションと地下水流動数値シミュレーションに関る取り組みについても話題にした.

招待講演

「地表付近でのウランの長期的移動機構」

村上 隆(東京大学大学院)

ウランの移動は放射性廃棄物の処分やウラン鉱山・工場からの汚染に関連して興味を持たれている.主要な機構は,U濃度が薄い場合は吸着で,濃くなると沈澱や共沈と考えられているが,これらは実験室の結果から出されたものである.しかし天然では,ウランを運ぶ水そのものが,同時に周囲の岩石に鉱物?水反応として作用するので,その系の中でのウランの移動を考える必要がある.また,実験系と異なり,長期的な移動機構も考慮しなければならない.主要なウラン固定機構が実験室と同じであるか興味が持たれるが,我々は実験室とは異なる結果を得た.U濃度が10-8 – 10-7 mol/Lで,ウラン二次鉱物に溶液が不飽和な場合でも,特別な鉱物が共存する場合はlocal saturationでウランリン酸塩鉱物が沈澱し,鉄鉱物の表面にウランリン酸塩鉱物のnanocrystallizationが起こる.一部は実験的にも確認した.

 

ポスター発表

P1 山形県下金丸地域におけるウラン濃集機構:地下水移行モデルのナチュラルアナログ研究

渡部芳夫・関 陽児・塚本 斉・内藤一樹・鈴木正哉・亀井淳志(産総研)

山形県西部金丸地域でのウラン濃集帯の岩石鉱物学的・水理地質学的調査を実施し,放射性核種の天然での濃集機構の検討を行った.核種の地下水移行モデルにおける移行遅延効果としての評価を行うために,地層中でのウラン濃集構造ならびに鉱物学的形態と,地下水化学プロファイルの関連を検討した結果,酸化的地下水層準でのウラン濃集現象であることが判明した.

 

P2 TRU廃棄物処理における放射性ヨウ素ガス固定化技術の開発

鈴木正哉・渡部芳夫・月村勝宏(産総研)

放射性廃棄物の再処理過程で発生する放射性ヨウ素(I-129)は,半減期が非常に長く,処分場における性能評価上支配的な放射性核種となっている.現時点におけるヨウ素固定化技術は,気体として発生するヨウ素を一旦銀に吸着させた後に,安定な固化体中に閉じ込める手法をとっている.本研究では,ヨウ素ガスを高温状態でハイドロソーダライト中に直接取り込ませ,ヨウ素ソーダライトとして固定化させることを目的としている.今回その第一段階として650℃でヨウ化水素ガスとハイドロソーダライトの反応を試みたところ,ヨウ素はソーダライト中に固定化されていることがわかった.

 

P3 NaClの状態方程式:熱力学的アプローチ

住田達哉(産総研)・米田 明(岡山大学)

NaCl の状態方程式(圧力・温度・体積の関係式)は,広く圧力計として利用されているが,過去の状態方程式は,実験データを満足しない点で問題があった.そこで,過去のNaClについての,音速,熱膨張,比熱に関する実験データを熱力学的に解析することで,状態方程式の構築に有用な性質を見出すとともに,新たな状態方程式を構築することを行った.

過去の文献においては,NaClは,熱圧力がほぼ温度のみに依存すると指摘されてきたが,今回の解析では,新たに熱圧力の体積依存性が見出され,さらに,体積依存性と温度依存性がそれぞれ変数分離されることが判明した.今回は,熱圧力にこのモデルを取り入れ,状態方程式を構築した.

 

P4 関東・甲信越地方の天水の水質・同位体特性について

稲村明彦・安原正也・牧野雅彦(産総研)

関東・甲信越地域における地下水の性状の現状把握とその涵養・流動プロセスの解明を目的として,同地域の天水(湧水・河川源流水等)を対象とした水質・同位体精密調査を実施している.本発表では,水質,酸素・水素同位体比のマッピング結果に基づき,当該地域における水質と同位体組成の広域的な分布特性を考察した.また,山岳地域の天水の同位体組成に影響を及ぼす要因も考慮に入れた同位体高度効果の解析結果から,関東平野における地下水の起源や涵養標高についても言及した.

 

P5 深部流体の検出とその意義

風早康平・高橋正明・高橋 浩・森川徳敏・竹野直人・安原正也・稲村明彦(産総研)

日本列島では,いたるところに熱源不明の非火山性温泉が存在していることがわかっている.それらの化学・同位体組成をもとに深層地下水の性状を明らかにするとともに,新たな深部流体の指標である希ガス同位体比および炭素同位体比を用いた極微量深部上昇流体検出手法を開発し,地下水・地下ガス等への深部上昇流体の混入率についてまとめた結果を示した.

 

P6 テフラ層序から求めた福島県阿武隈山地における第四紀後半の侵食量

山元孝広(産総研)

地殻変動の中でも特に隆起運動は河川浸食による埋設物の地表への接近をもたらすため,過去の変動履歴を定量的に明らかにしておくことが地質環境変化の将来予測のためには不可欠である.しかしながら,内陸山間部には海水準変動の影響が直接及ばないこと,堆積面自体が狭く保存されにくいことから,正確な編年をもとにした地殻変動量の見積はほとんど行われていない.本研究は火山灰層序学的研究によってこのような内陸山間部でのデータの空白域を解消とすることを目的の一つとしている.調査対象の阿武隈地域は隆起準平原状山地の代表で,調査地域であるその中央部には標高400?500mに頂部がそろった浸食小起伏面と標高1000m前後の独立峰からなる浸食残丘が広がっている.南北30km,東西20kmの山地内の断片的に分布する段丘堆積物を低位,中位,高位段丘に区分し,これらが低海面期のステージ2?3,5b,6の時期に対応することをテフラ層序から明らかにした.各段丘の年代を3万,9万,15万年として全比高量を浸食率に直すと各段丘とも1m/万年となりほぼ一定の値が得られる.この浸食率は火山活動や地殻変動の影響がほとんどない深成岩分布域でのバックグランド値とみなすことができよう.

 

P7 油圧を利用した新しい応力変化測定装置の開発(実験室内における角柱供試体内でのキャリブレーション試験結果について)

成田 孝(産総研)

平成13年度に設計・試作を行った新しい方式の応力測定装置に対して,昨年度(14年度)に一部,圧力シール等の見直しを行う等の改良を加えた.この装置に対して,実験室内において角柱岩石供試体を用いて一軸載荷試験法により,初期油圧セル内設定圧力を種々変化させたキャリブレーション試験を実施した.その結果について報告を行った.

 

P8 ベレア砂岩の圧縮変形時における透過弾性波特性変化

冨島康夫(産総研)

湿潤状態の岩石の変形・破壊挙動を正確に把握するためには,間隙水の局所的な圧力変動,流体移動等の間隙水挙動について言及する必要がある.本研究においては局所的間隙水挙動を評価する手段として弾性波に着目し,弾性波特性変化と岩石内部の微小な破壊および変形との関係について把握するために,変形,破壊過程における透過弾性波の伝播速度変化,振幅変化の測定実験を試みた結果について報告した.

 

P9 新潟県中束地区のウラン濃集帯試料の粒度別化学組成と微量元素の挙動

上岡 晃・金井 豊(産総研)

新潟県中束地区においてウラン濃集帯およびその上下の層準より系統的に採取された試料につき,中性子放射化法を用いて化学分析を行った.また,一部の試料については粒度分離を行ってそれぞれの化学組成を調べた.バルク試料では,希土類元素パターンにみられる負のセリウム異常が大きいほど希土類元素濃度が高い傾向を示し,酸化的条件下での希土類元素の溶脱・沈着が示唆される.粒度別化学組成では,シルトや粘土サイズの部分にウラン,トリウム,希土類元素が濃集していることがわかった.

 

P10 火山活動が及ぼす熱水変質作用の地質および地球化学−九州北西部の鮮新世珪長質火山群と関連熱水系を例に−

濱崎聡志(産総研)

九州北西部には流紋岩を主とする鮮新世の珪長質火山岩が一時期に各地で噴出,点在し,単成火山を主とする火山群を形成している.これらの地域では広範囲の熱水系も形成され,粘土化変質帯や鉱脈型金鉱床を伴っている.本発表では,珪長質な火山体とその火山活動が及ぼす熱水活動について明らかにすることを目的に,九州北西部の鮮新世末期の火山活動と関連熱水系を対象に,地質構造,時空分布および地球化学的特徴について論じた.

 

P11 福島県三春−葛尾地域の阿武隈花崗岩の地質と化学的風化作用

亀井淳志・高木哲一(産総研)

福島県三春?葛尾地域に分布する阿武隈花崗岩について地質学的・岩石学的研究を行った.また,本地域の花崗岩類を用いて「花崗岩類の化学的風化の指標」に関する研究も行った.今回の発表では,これらの研究成果について報告した.

 

P12 ネットワークGISデータベースの利用形態「地質環境アトラス:山形市周辺地域」

渡部芳夫(産総研)

地質環境アトラスは,深部地質環境研究センター編集により発行する,都市防災や環境保全に密接に関係する諸地質要素の分布を多くの主題図にまとめ,概要を説明した大判の地図集で,本年度は「山形市周辺地域」が発行予定である.当センターでは冊子態の出版物をネットワークによりほぼ同時に公開することを目指しており,今回はこのアトラスの原稿をネットワーク化したデータベース試行版を紹介した.ネットワーク版では,冊子態では出来ない種々の形態のデータを有機的に検索・表示する「電子百科事典」機能を目指しているものである.