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第1回深部地質環境研究センター研究発表会

平成14年6月26日(水) 10:00-16:00
産業技術総合研究所 つくばセンター
中央第7事業所 別棟大会議室

プログラム

小玉 喜三郎 (センター長) ………… 10:00-10:10   「開会の挨拶,深部地質環境研究センターの役割」

山元 孝広 (長期変動チーム長) ………… 10:10-10:45   「地質変動の多様性と将来予測」

風早 康平 (深部流体チーム長) ………… 10:45-11:20   「深部上昇流体:その性状と検出手法開発」

(休憩) ………… 11:20-11:30

招待講演: 小川 勇二郎 (筑波大学地球科学系大学院) ………… 11:30-12:10   「オフィオライトの変形と流体移動:嶺岡オフィオライトの新展開」

(昼食休憩)

ポスター発表 ………… 13:00-14:00   地質特性変化等に関する個別の研究成果発表を行います.(P1-P9)

高橋 学 (地殻物性チーム長) ………… 14:00-14:35   「岩のせん断変位と流体移動特性について」

渡部 芳夫 (地質総括チーム長) ………… 14:35-15:10   「地質特性変化に関するデータ基盤の整備」

(休憩) ………… 15:10-15:20

安原 正也 (地下水チーム長) ………… 15:20-15:55   「水文調査と水文環境図類の整備」

月村 勝宏 (副センター長) ………… 15:55-16:00   「閉会の挨拶」

口頭発表

開会の挨拶:深部地質環境研究センターの役割

小玉 喜三郎 (産総研)

当センターでは,国が行う高レベル放射性廃棄物地層処分システムのうちのいわゆる天然バリアの性能評価や安全規制に資するため,科学的な根拠に基づいた最新の地質情報を提供することをミッションに調査・研究を行っている.本研究は主として原子力安全・保安院による委託研究課題「地層処分にかかる地質情報データの整備」を中心としたものであるが,当センターではその他に,地下地質環境についての一般的研究や,自然災害防止のための緊急研究も運営交付金で実施している.ここでは,これらの研究のねらいと体制について紹介した.

地質変動の多様性と将来予測

山元 孝広 (産総研)

日本列島は世界有数の島弧変動帯にあり,各種の地質変動(geodynamics)が活発である.地質変動は地震・断層運動,火成活動,隆起・沈降など固体地球自身の運動である.将来十万年程度先のこれら地質変動を予測するためには,過去百万年程度に遡った地質変動の履歴を地質学的な研究から明らかにし,そこから将来予測手法を見いださなければならない.

深部上昇流体:その性状と検出手法開発

風早 康平 (産総研)

地層処分システムの安全性評価に関する国の施策に資するため,地表水・地下水・温泉水・地下ガス・溶存ガス等に含まれる深部上昇流体の産状,化学・同位体組成等の調査を行った.モデル地域は近畿地方とし,現地における詳細調査結果等を用いて,極微量の深部上昇流体の検出手法を開発中である.本発表では,既存技術を用いた現地調査等から明らかになった深部上昇流体の特性・産状等を示すとともに,今後,新手法の投入予定により期待される評価手法について示した.

岩のせん断変位と流体移動特性について

高橋 学 (産総研)

岩のせん断変位と力学特性および透水係数等の流体移動特性に関する実験データは,その重要性が指摘されていながらも世界で極限られた数しか報告されていない.力学特性および透水特性の同時測定上の制御の難しさにその原因があると思われる.地質調査所時代から蓄積されてきた三軸および真三軸応力条件下で得られた砂岩の変形・透水実験データを紹介し,亀裂の生成と透水係数との関連や,亀裂のみの透水係数の評価等について発表した.

地質特性変化に関するデータ基盤の整備

渡部 芳夫 (産総研)

多様で大量な地質情報をデータベース化し,これを利用して地質構造の解析やデータ値の相関関係等を処理するシステムは,地層処分に係わるデータを的確に整理したり,活用するために重要かつ不可欠である.これらの実現に向けて,以下の4段階の整備を行っている.まず地質データの収集と要素データベースの整備,これらの要素データベースの統合化による地質環境データ基盤の構築,このデータ基盤を利用した各種情報処理システムの開発,そして情報発信技術の開発とこれによるデータ基盤の提供・公開である.今回は,第1段階の整備状況を概報した.

水文調査と水文環境図類の整備

安原 正也 (産総研)

日本各地において,天水(降水・河川水・湖水・湧水・地下水)の性状の現状把握,ならびに地下水の涵養・流動プロセス(涵養源・涵養地域・主涵養期・滞留時間等)の解明に関する水文学的研究を実施している.水質や各種同位体組成に基づく関東・甲信越地方,神戸市街地,秋田県六郷扇状地,さらには各地の火山における水文調査研究の現状と,水文環境図類の整備へ向けた取り組みを紹介した.

ポスター発表

P1 阿武隈花崗岩中西部地域の地形・地質学的研究

塚本 斉・亀井 淳志・高木 哲一・遠藤 秀典 (産総研)

福島県に分布する阿武隈花崗岩とその被覆層を対象に,地形・地質・断裂系に関する諸要素の特徴・分布・構造等を示す.また,断裂系調査の一環として行われた花崗岩類を対象とした弾性波トモグラフィー・気泡ボーリングの解析結果を示した.

P2 福島県奥会津地域の地熱システム

関 陽児・住田 達哉 (産総研)

奥会津地熱系の層序,地質構造,温度構造,変質帯分布等を総括するとともに,新たに熱水性鉱物の流体包有物均質化温度等を測定した結果,活動開始直後にはその深部と地表との水理的連絡が良好であった系が,熱水変質により難透水帯が形成されることにより,その上部と下部とが水理的にも温度構造的にも分離してきた過程が明らかになった.

P3 草津白根山の重力探査

牧野 雅彦・渡辺 史郎 (産総研)・小川 康雄 (東工大)

草津白根山の山頂付近で重力探査を行い,直径2kmの低重力異常を検出した.この低重力異常の中心は湯釜の北東に位置し,火山活動で観測された火山性地震や全磁力変化の位置に対応する.重力モデル計算によると,水釜付近を中心とする直径2km,深さ200mの漏斗状陥没構造で観測重力異常を説明できる.また,本白根山・横手山は高重力異常で,高い密度の岩体で構成されていることがわかった.

P4 雲仙火山科学掘削計画における雲仙火山噴出物のK-Ar年代測定

松本 哲一・星住 英夫・宇都 浩三 (産総研)

雲仙火山科学掘削計画の山麓および火道パイロット掘削で採取された3種類のボーリングコア(USDP-1,-2,-3)と雲仙火山を起源とし地表に露出する溶岩流および火砕堆積物について系統的なK-Ar年代測定を行った.ボーリングコアの岩石学的記載と年代データから各掘削サイト周辺における雲仙火山の活動史を推定するとともに,ボーリングコアと地表噴出物の年代データから雲仙火山全体の噴火史について再検討を試みた.

P5 深部上昇流体:その起源,実態および検出手法開発と応用

高橋 正明・風早 康平・高橋 浩・森川 徳敏・島田 幸子 (産総研)

深部上昇流体の起源には,マグマ,スラブ脱水,第三~四系中の化石水等が考えられる.深部地質環境の安定性の理解には,これらの形成機構,空間的分布,地球化学的性状等を解明する必要があるにもかかわらず,大部分が未解明である.本発表では,地質データ・化学成分・水素-酸素同位体等を利用した解析の有効性を議論し,新しくヘリウムや炭素同位体を用いた深部上昇流体の検出手法の開発を行い,マルチトレーサーによる解析を試みた結果を示した.

P6 岩の力学・透水挙動に関する計測 −H13年度成果

高橋 学・張 銘・成田 孝・冨島 康夫 (産総研)

当チームは岩の力学・透水連成挙動の解明に資するため以下の研究に取り組んだ.1) 温度・応力環境下における地層特性変化を把握するため,最大200℃までの環境下で正確に動作する変位計測システムを立ち上げる.2) 地殻変動等の要因が地層の流体移動特性に及ぼす影響を評価するため,模擬試験装置を新規導入する.3) 透水性・貯留性を評価するため,連続等方媒体の貯留項を含む厳密解に基づいて,従来の手法による誤差の要因や程度を明らかにした.

P7 岩石風化土壌中の微量元素の挙動 −八溝山地南部の例−

上岡 晃・金井 豊・関 陽児・月村 勝宏・濱崎 聡志・中嶋 輝允 (産総研)

茨城県の八溝山地南部において,中・古生代(八溝層群)の堆積岩,古第三紀の加波山花崗岩,第三紀の凝灰岩等の風化土壌を採取し,中性子放射化法によって微量元素を中心とする分析を行った.粒径1~2mmから2μs以下までの6つの粒度フラクションに分離した土壌について,粒度毎の化学組成の特徴を調べた.また,土壌のバルク化学組成を土壌採取地点付近で採取した源岩と比較することにより,岩石風化における元素の移動を検討した.

P8 地下微生物の環境に与える影響に関する研究

三田 直樹・竹内 理恵・金井 豊 (産総研)

核種移動を規制する地質特性変化因子の中で,化学環境に地下微生物が与える影響を系統的に検討するため,まずマンガン酸化細菌と藻類の調査を開始した.閉鎖環境の凝灰岩表面に生じた二酸化マンガンは強い活性のマンガン酸化細菌を含み,細菌が劣悪環境下で耐乏して好条件で増殖することを示唆した.地下水はMnやFeのイオンを高濃度に含有することが多く,微生物は排水溝を詰まらせたり壁面歪み等の悪影響を及ぼす可能性がある.

P9 阿武隈地域における地下水の起源と流動系に関する研究

稲村 明彦・安原 正也・吉川 清志・間中 光雄・風早 康平・高橋 浩・森川 徳敏・牧野 雅彦・遠藤 秀典 (産総研)

地下水チームでは,阿武隈花崗岩地域を対象に,地下水の起源と三次元的流動系,および地下水流動に及ぼす断裂系の影響を明らかにするため,河川水や浅層地下水等の天水について高密度調査を実施している.一般水質,安定同位体組成を分析した結果,当該地域の岩種は比較的単純であるにもかかわらず,それぞれ複雑な濃度分布を示すことが明らかになった.表層地下水系への人為汚染や断裂系を通してもたらされた深部地下水の混入等の要因も考慮しながら,本地域の地下水の起源と流動系について考察した結果を紹介した.

招待講演

S1 オフィオライトの変形と流体移動:嶺岡オフィオライトの新展開

小川 勇二郎 (筑波大)

房総半島の嶺岡オフィオライトには,熱水変質と変形の数段階のステージを示す良好な露頭があり,今回,その構造地質学的データを整理し,変形様式,応力軸方位,テクトニクス上の意義を論じた.ステージごとに,玄武岩質岩体(斑レイ岩,ドレライト,3種の玄武岩枕状溶岩)に,特徴的な破断や断層が発達し,それらの多くは,差応力や間隙水圧の増大・減少で議論でき,流体移動が繰り返したことが分かる.初期の変形シリーズでは,溶岩の層理を水平に戻すと,正断層と水平ずれ断層が卓越し,それらにカルサイトおよびゼオライトが伴う.ある種の断層は,カタクレーサイトで特徴づけられ,別の断層は,ハイブリッドエクステンション・シアで特徴づけられる.2番目の変形シリーズは,脈鉱物の生成を伴わず,リーデルシアで特徴づけられるシアゾーンが顕著であり,右ずれ成分を持つ逆断層によって,異なる起源の岩体同士が接する.これらの2つのシリーズは,それぞれ拡大軸とオブダクションに相当すると解釈される.