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産業技術総合研究所エネルギー・環境領域
省エネルギー研究部門 エネルギー界面技術グループ
Energy Interface Technology Group, Research Institute for Energy Conservation, AIST
 

研究内容

1. 結晶成長・形態制御に基づくリチウムおよびナトリウムイオン電池材料開発

我々は高出力型蓄電池へのナノ構造電極材料の利用を提案してきている。これは、電極材料のサイズがナノメートルオーダーまで小さくなると、活物質材料内でのリチウムイオンの拡散距離がナノオーダーまで減少するため高出力化に適しているためである。また、体積変化の大きな大容量活物質材料においては、ナノ構造化により、充放電過程における体積変化による歪みが緩和され、サイクル特性が向上するというメリットが期待される。ナノ構造化のデメリットとしては、界面反応場が広がることで電解液との接触面積(劣化サイト)が増えることが、高出力化とトレードオフの関係にあることである。そのため、安定な界面によって構築されるナノ構造を作製する等の対策が必要である。

我々は、異方性を有する単結晶ナノ材料が、その解に繋がると考え、材料の結晶成長・形態制御に基づく材料開発を試みている。我々が報告したLiMn2O4単結晶ナノワイヤー材料は優れた高出力特性を示す。しかしながら、テフロンを用いた水熱法という高コストと長時間のプロセスや、目的材料を得るための多段階のプロセスを必要とするため、より簡易な手法でのナノワイヤーの合成プロセスが必要であると考えている。

近年、簡易にナノワイヤー構造を作製するプロセスとして、エレクトロスピニング法の研究開発が進んでいる。高分子を溶液に溶かし、高電圧をかけることで、ファイバー状の高分子を得る手法であるが、この手法をゾルーゲル法と組み合わせることで、種々の組成の金属酸化物やポリアニオン系のナノワイヤーを容易に得ることが可能である。エレクトロスピニング法は、ゾルーゲル法由来の手法であることから、得られるナノワイヤー材料は、多結晶体が通常得られる。ところが、Maierらの報告により、LiFePO4の単結晶ナノワイヤーがエレクトロスピニング法を用いて合成されることが示された(Maier et.al., Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 6278 –6282)。エレクトロスピニング法の材料合成プロセスとしての特異な特徴が示され、新規材料合成プロセスとして更に期待が高まっている。我々は、LiFePO4よりも高電圧型でエネルギー密度のより大きなLiイオン電池正極材料であり、同様の結晶構造を有するLiMn0.4Fe0.6PO4において、エレクトロスピニング法によるナノワイヤー材料の合成をMaierらと異なるポリマーを用いて試み、LiMn0.4Fe0.6PO4の単結晶性のナノワイヤーが作製可能であることを報告していると共に、この単結晶化の過程を検討し、ナノ粒子が方位をそろえ単結晶的な状態を経た単結晶化の挙動を透過型電子顕微鏡にて確認している。また、NASICON型Na3V2(PO4)3のNaイオン電池正極材料について、志向性を持ったナノ粒子からなるナノワイヤーの作製を報告している。(このナノスケールの微小なユニットが結晶方位を揃えて配列集積した構造は、単結晶と多結晶の中間的な結晶であると言える特異な形態であり、メソクリスタルと呼ばれている)

この他、ソルボサーマル法等、材料の結晶成長・形態制御を基に、ナノ材料の利点を活かしながら安定な界面を有する単結晶材料やメソクリスタル材料の開発を行っている。

当グループでは、結晶成長・形態制御技術を中心にした材料合成技術と放射光軟X線解析手法を融合させ、電池材料開発⇆放射光解析を実施している。特に、これまで産業界でも幅広く利用されてきた硬X線に加えて、軟X線を利用した解析により、詳細な電子状態の解析を理論計算と比較して議論することを特徴としている。超高真空を利用する測定法であるために、Liイオン電池評価・解析において重要であったオペランド(電池動作下)測定は困難であったが、材料合成の知見と技術により新規開発(東京大学物性研究所との共同研究)を行った実績を有する。

主要論文

  1. Electrochemical properties of LiMnxFe1-xPO4 (x=0, 0.2, 0.4, 0.6, 0.8 and 1.0)/vapor grown carbon fiber core - sheath composite nanowire synthesized by electrospinning method.
    Kagesawa, K.; Hosono, E.*; Okubo, M.; Nishio-Hamane, D.; Kudo, T.; Zhou, H.S.
    Journal of Power Sources 2014, 248, 615-620.
  2. Assembly of Na3V2(PO4)3 Nanoparticles Confined in a One-Dimensional Carbon Sheath for Enhanced Sodium-Ion Cathode Properties.
    Kajiyama, S.; Kikkawa, J.; Hoshino, J.; Okubo, M.; Hosono, E.*
    Chemistry-A European Journal 2014, 20 (39), 12636-12640.
  3. Single Crystallization of Olivine Lithium Phosphate Nanowires using Oriented Attachments.
    Kikkawa, J.*; Hosono, E.*; Okubo, M.; Kagesawa, K.; Zhou, H. S.; Nagai, T.; Kimoto, K.
    Journal of Physical Chemistry C 2014, 118 (14), 7678-7682.
  4. Synthesis of LiNi0.5Mn1.5O4 and 0.5Li2MnO3-0.5LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2 hollow nanowires by electrospinning.
    Hosono, E.*; Saito, T.; Hoshino, J.; Mizuno, Y.; Okubo, M.; Asakura, D.; Kagesawa, K.; Nishio-Hamane, D.; Kudo, T.; Zhou, H. S.*
    CrystEngComm 2013, 15 (14), 2592-2597.
  5. Synthesis of Single Crystalline Spinel LiMn2O4 Nanowires for a Lithium Ion Battery with High Power Density,
    Hosono,E.; Kudo,T.; Honma,I.; Matsuda, H.; Zhou,H. S.*
    Nano Lett. 9, 3, 1045-1051, 2009.

2. 放射光X線を利用した二次電池材料の電子状態解析

近年、リチウムイオン電池の研究において放射光X線を用いた解析が活発に行われている。放射光X線は、硬X線と軟X線に分類されるが、硬X線を用いた回折測定、吸収分光測定等が一般に広く行われており、最近ではオペランド(電池動作下)測定も報告されている。これは硬X線の特徴として酸素、窒素、炭素による吸収端がないため、電解液を有するリチウムイオン電池において、比較的容易にオペランド測定が実施できるためである。また、硬X線による測定は、X線回折や局所構造解析など材料の構造情報を得る解析を得意とし、リチウムイオン電池のようにリチウムの脱挿入に伴って、結晶構造が変化するデバイスのメカニズム解明に適した解析手法である。さらに、充放電深度の推移にともなう吸収端シフトから、材料を構成する複数種ある元素の中で、どの元素がどの電位でリチウム貯蔵に関与しているかを容易に判別できることも広く利用されている理由である。 ​

一方、軟X線を用いた測定は、詳細な電子状態の解析を得意とする手法である。リチウムイオン電池の貯蔵特性に大きく貢献する3d遷移金属のフェルミ準位近傍の電子状態を解析できるため、解析対象の元素を構成する軌道のうち、外場との反応に係わる重要な軌道について詳細に解析できるという大きな特徴を有する。実際にリチウムイオン電池のメカニズムを解明するうえで、電子状態の変化の結果として結晶構造が変化すると考えられるため、電子状態を詳細に理解することが真のリチウムイオン電池のメカニズム解明に繋がると考えられる。極めて重要な測定法であるが、軟X線領域では酸素、窒素等の吸収端が存在するために超高真空での測定が必須であり、有機電解液を有するリチウムイオン電池においては、オペランド測定は極めて困難であり、広く普及するに至っていない。

​ 我々は、オペランド軟X線吸収分光測定を実現するために、特殊電極チップの作製に取り組みオペランドセルを開発し、東大アウトステーション(SPring-8 BL07LSU)の実験ステーションにて軟X線発光分光のオペランド測定に成功しており(プレスリリース2014/11/25:リチウムイオン電池が充放電する際の電極の詳細な電子状態を観測)、現在も、種々のビームラインにおけるオペランド測定系の構築と電子状態解析の研究開発を進めている。

主要論文

  1. Investigation of the relationship between the cycle performance and the electronic structure in LiAlxMn2-xO4 (x=0 and 0.2) using soft X-ray spectroscopy.
    Asakura, D.*; Nanba, Y.; Makinose, Y.; Matsuda, H.; Hosono, E.*,
    Physical Chemistry Chemical Physics 2017, 19 (25), 16507-16511.
  2. Correlation between the O 2p Orbital and Redox Reaction in LiMn0.6Fe0.4PO4 Nanowires Studied by Soft X-ray Absorption
    Asakura, D.*; Hosono, E.; Okubo, M.; Nanba, Y., H. S. Zhou, Glans, P. A.; Guo, J. H.;
    ChemPhysChem, 2016, 17 (24), 4110–4115.
  3. Material/element-dependent fluorescence-yield modes on soft X-ray absorption spectroscopy of cathode materials for Li-ion batteries
    Asakura, D.*; Hosono, E.; Nanba, Y.; Zhou, H. S.; Okabayashi, J.; Ban, C. M.; Glans, P. A.;Guo, J. H.; Mizokawa, T.; Chen, G.; Achkar, A. J.; Hawthron, D. G.; Regier, T. Z.; Wadati, H.,
    AIP Advances 2016, 6 (3), 8.
  4. Operando soft x-ray emission spectroscopy of LiMn2O4 thin film involving Li-ion extraction/insertion reaction.
    Asakura, D.*; Hosono, E.; Niwa, H.; Kiuchi, H.; Miyawaki, J.; Nanba, Y.; Okubo, M.; Matsuda, H.; Zhou, H. S.; Oshima, M.; Harada, Y.,
    Electrochemistry Communications 2015, 50, 93-96.
  5. Bimetallic Cyanide-Bridged Coordination Polymers as Lithium Ion Cathode Materials: Core@Shell Nanoparticles with Enhanced Cyclability
    Asakura, D.; Li, C.H.; Mizuno, Y.; Okubo*, M.; Zhou, H.S.; Talham, D.R.
    J. Am. Chem. Soc. 2013, 135 (7) 2793-2799.

3. リチウムー空気電池

電気自動車の普及拡大に向け、現状のリチウムイオン電池の性能をはるかに超える革新型二次電池の研究開発が求められています。しかし、革新型二次電池は高い信頼性と安全性を実現するうえで、解決すべき様々な課題を有しています。そのため、リチウム空気電池・硫黄電池・全固体電池など革新型二次電池の技術的課題を解決、改善するためには、新しい材料の設計および反応機構の解明が不可欠です。本研究では機能材料の開発や新規なアイデアを革新型二次電池に適用し、二次電池の高出力化や長寿命化を可能にします。 ​

リチウム空気電池・硫黄電池・全固体電池などの革新型二次電池を実用化するには、高性能・長時間運用・サイクル安定性などが必要です。我々のグループでは、高い安全性を有する二次電池開発のため、電解質として無機固体電解質を用い、有機電解液等を使わない、全固体型リチウム空気電池を設計・構築し、常温・空気中での作動が可能であることを確認しています。更に、高性能・長寿命なリチウム空気電池や硫黄電池を開発するため、新規材料開発や反応機構解明、新たなコンセプトの提案による電池性能向上に取り組んでいます。

主要論文

  1. Enhanced Cycle Stability of Rechargeable Li-O2 Batteries by the Synergy Effect of a LiF Protective Layer on the Li and DMTFA Additive
    E. Yoo, H.S. Zhou
    ACS Applied Materials & Interfaces, 9, 25, 21307-21313, 2017
  2. Carbon Cathodes in Rechargeable Lithium-Oxygen Batteries Based on Double-Lithium-Salt Electrolytes
    E. Yoo, H.S. Zhou
    ChemSusCehm, 9, 11, 1249-1254, 2016
  3. All-solid-state lithium-oxygen battery with high safety in wide ambient temperature range
    H. Kitaura, H.S. Zhou
    Scientific Reports, 5, 13271, 2015
  4. Reaction and degradation mechanism in all-solid-state lithium-air batteries
    H. Kitaura, H.S. Zhou
    Chemical Communications, 51, 99, 17560-17563, 2015
  5. Electrochemical performance and reaction mechanism of all-solid-state lithium-air batteries composed of lithium, Li1+xAlyGe2-y(PO4)3 solid electrolyte and carbon nanotube air electrode
    H. Kitaura, H.S. Zhou
    Energy & Environmental Science, 5, 10, 9077-9084, 2012

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